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大量殺人鬼:アングリマーラの説法

大量殺人を犯しながらも出家が許されたアングリマーラ。そんな彼が、悟りを得た後に、被害者の親族らに向けた言葉が残されている。
我が怨敵たちは法話を聞け。我が怨敵たちはブッダの教えに努めよ。我が怨敵たちは法を会得させる静かなる人々に親近せよ。
我が怨敵たちは、忍辱を説く人々や、調和を称賛する人々の教えを適切な時に聴け。そしてそれを遵奉せよ。
私を決して害さず、さらに他の何者をも〔害さなければ、その者は〕最高の寂静を獲得し、動・不動の者たちを護るだろう。『中部』八六経「
アングリマーラ経」)
アングリマーラは、自身に怨みを募らせる被害者遺族に対して、怨みを捨てて復讐を放棄し、仏道修行に励むように薦めている。
現代的な価値観に照らし合わせれば、驚くべき厚顔無恥さである。このように大量殺人の悪業は悟りへの障害にはならず、解脱したアングリマーラは被害者遺族に「我慢が大事」と教えを垂れるほどの偉大な修行者として描かれている。
「一人の命は地球よりも重い」とされる現代とは異なる次元の生命観が、初期仏典には貫かれているのである。

ブッダという男/清水俊史


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