卒業研究 『刺すために生きる ―男と女を破滅に導くエロス権力の正体―』

プロローグ

物心がついた時から、私を動かすのはエロスだった。

幼稚園に通う女の子だった私が欲していたものは、夜十時台のバラエティ番組に写る巨乳のグラビアアイドル、本屋の成人向け雑誌コーナーでの立ち読み、親戚の家に落ちているスポーツ新聞に連載される短い官能小説。すべて、大人にばれないように、こっそりと欲望した。

歯医者で初めて読んだ少年向けマンガの衝撃を鮮明に覚えている。戦闘、冒険、友情、仲間といった暑苦しいモチーフばかりが並ぶ分厚い雑誌。その中に異質な空気を放つ、ピンク色を想起させる丸みのある絵柄のページを見つけた。そこには求めていたものがあった。可愛らしい童顔と豊満な身体を持つ、みずみずしい女子高生。興味のないふりをしてかっこつけている冴えない男子高校生が、彼女たちのいやらしく爽やかな魅力に腰砕けにされる。絵柄とストーリーを記憶し、何度でも頭の中で反芻した。

白い肌、大きな胸、細い手足。くびれ。「私もいつかああいう身体になれるのだろうか」私は物心ついた時から、こういった性的なパーツに視覚的に魅了され興奮を覚えるステレオタイプな「男」であり、魅力を手に入れ男性に選ばれたい「女」だった。「女は、溢れる魅力で男性を操る生き物だ」幼いながらにそう信じて疑わなかった。わたしもそれになるのだ、と。待ちきれなかった。周囲にいた男の子に勝手に恋の駆け引きを持ちかけた。胸にタオルを詰めて、グラビアアイドルごっこに嫌がる妹を付き合わせた。豊満な身
体の魅力に誰もが釘付けになる。視線を、注目を浴びる―。そんな魅惑の力を持った存在と自分を重ね合わせた。はじめから私はエロス権力の虜だったのだ。

エロス権力は、美しい者だけが持つことのできる性的な力だ。一般的に権力と言われるお金やケンカの強さ、肩書きといったものとは違う。美さえあれば、言葉のやり取りも関係性もなしで強者になることができる。本能に訴えかける力を持つエロス権力が人々を振り回すのを止めることはできない。私は暇さえあればエロス権力を持つ存在を理想像として構築し、自分を同一化した。

しかし私の欲望はそれだけでは終わらなかった。
私は、自分でもわけのわからない倒錯した行為を繰り返した。何もかもを凌駕するはずのエロス権力が、男の暴力性によって破壊されることを望んだのだ。

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卒業研究 『刺すために生きる ―男と女を破滅に導くエロス権力の正体―』

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ひらぴす

横国・人文┊︎キラキラ女子になりたくてしょうがない。ファッションメディア編集長┊︎メイクで見返すブログ中の人 ┊︎権力が欲しい!

女と若さ、美とわたし。

「女は存在しない。」 精神分析学者ラカンは言いました。 じゃあ、わたしってなんなの? ……いないのかもね。はじめから。
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