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卒業研究 『刺すために生きる ―男と女を破滅に導くエロス権力の正体―』

これは、私が横浜国立大の精神分析ゼミで卒業時に書いた卒業論文です。

けっこう変なタイトルだと思います。もっと無難で、よくありそうな内容にすることも出来ました。

でも、「どうせ書くなら、何気ない内容で終わらせたくない。本気で書きたい」と思い、命を削る覚悟で書きました。

結果、精神分析を使った私小説のようなものになりました。

「そんなの卒論として認められるのか?」と思う方もいるかも知れません。でも、ちゃんと受理されるどころか、教授には、「今年一番の作品だった」と言っていただけました。

自分の内面を吐露して嫌われたらどうしよう、友達いなくなったらどうしよう、と不安もありましたが、意外と「面白かった」「鳥肌が立った」と褒めてくれたり、読んだ後も関係を継続してくれる人が多くて驚きました。

せっかくなので、noteで公開します。本当に読みたいと思った人だけに読んでほしいので、有料にしました。

頂いた感想

以下に、読んだ方の感想を載せておきます。(2021/2/7追記)

いやもう、よくここまで自分を掘ったなということが一番はじめに得た感想です。そして、本能にも踏み込む、人間らしく弱い部分に向き合うというのはかなり辛いことなのではないかと思いました。
純粋にすごいな、というひらたさんへの深い尊敬と共に、その内容言葉も私個人にも深く刺さりました。
私は、社会はきれいなものではないこと、もっと欲深いものであるということを事実として認識しながら、このように体系だったものとして読むのは初めてでした。自分自身、男性という性別の中で、ありたい自分と本能としての男性に苦しむところもあり、ひらたさんのこの文章へ共感し自分の考えへと新しい一石を投じることができました。
まだ理解できていない部分も多く、何回もまた読み直させていただこうと思うのですが、感想を伝えなければという衝動から勢いで文章かきなぐっています。このような素晴らしい文をいただきありがとうございます。

とにかく読み進めるなかで、常に頭の中に語り手がいてムービーが流れているようでした 体験をもとにしているからこそ、言葉に悦びも哀しみも憎しみも込められていて、本当に一つの芸術作品を観賞しているような気持ちになる素晴らしい文章でした! ふとした時に読み返したくなりますこれは笑
なんだろう、中毒性のようなものがあるかもしれませんね

「きれいな若いうちに死ななければ」って言って今消息不明な友人に読ませてあげたかったな。思考しすぎるくらいに思考する、賢くて礼儀正しくてしかも優しい子だったの。
もし彼女が平田さんの記事を熟読したら、「綺麗な若いうちに死ぬ必要があるとは本当なんだろうか?」と考えてもらえたかもしれない。

プロローグ

物心がついた時から、私を動かすのはエロスだった。

幼稚園に通う女の子だった私が欲していたものは、夜十時台のバラエティ番組に写る巨乳のグラビアアイドル、本屋の成人向け雑誌コーナーでの立ち読み、親戚の家に落ちているスポーツ新聞に連載される短い官能小説。すべて、大人にばれないように、こっそりと欲望した。

歯医者で初めて読んだ少年向けマンガの衝撃を鮮明に覚えている。戦闘、冒険、友情、仲間といった暑苦しいモチーフばかりが並ぶ分厚い雑誌。その中に異質な空気を放つ、ピンク色を想起させる丸みのある絵柄のページを見つけた。そこには求めていたものがあった。可愛らしい童顔と豊満な身体を持つ、みずみずしい女子高生。興味のないふりをしてかっこつけている冴えない男子高校生が、彼女たちのいやらしく爽やかな魅力に腰砕けにされる。絵柄とストーリーを記憶し、何度でも頭の中で反芻した。

白い肌、大きな胸、細い手足。くびれ。「私もいつかああいう身体になれるのだろうか」私は物心ついた時から、こういった性的なパーツに視覚的に魅了され興奮を覚えるステレオタイプな「男」であり、魅力を手に入れ男性に選ばれたい「女」だった。「女は、溢れる魅力で男性を操る生き物だ」幼いながらにそう信じて疑わなかった。わたしもそれになるのだ、と。待ちきれなかった。周囲にいた男の子に勝手に恋の駆け引きを持ちかけた。胸にタオルを詰めて、グラビアアイドルごっこに嫌がる妹を付き合わせた。豊満な身体の魅力に誰もが釘付けになる。視線を、注目を浴びる―。そんな魅惑の力を持った存在と自分を重ね合わせた。はじめから私はエロス権力の虜だったのだ。

エロス権力は、美しい者だけが持つことのできる性的な力だ。一般的に権力と言われるお金やケンカの強さ、肩書きといったものとは違う。美さえあれば、言葉のやり取りも関係性もなしで強者になることができる。本能に訴えかける力を持つエロス権力が人々を振り回すのを止めることはできない。私は暇さえあればエロス権力を持つ存在を理想像として構築し、自分を同一化した。

しかし私の欲望はそれだけでは終わらなかった。
私は、自分でもわけのわからない倒錯した行為を繰り返した。何もかもを凌駕するはずのエロス権力が、男の暴力性によって破壊されることを望んだのだ。

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