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「見た目」に縛られる女たち ー第3回「整形の先に幸せはあるか」ー

メンヘラ整形アイドル

動画投稿サイトyoutubeに整形の経過を載せ続ける「轟ちゃん」というアイドルがいる。フォロワーは4.2万人。整形に費やした総額は600万円だ。彼女は『整形を考えている人へ。』という動画でこのように言う。

「悩むくらいならやるな。整形はハイリスクローリターン。」

ハイリスクの理由は手術失敗の可能性、整形依存に陥る可能性があること。一つの手術が納得のいく結果になる可能性は経験上30パーセントほど。彼女も上唇にしびれの後遺症が残る。ローリターンの理由は、手術が成功したところで一か所変わっても顔はそんなに変わらない。周りの反応も変わらない。物足りなくなって次の整形欲が出てくる。

「結局ね、全部の幸せなんてつかめない、と私は割り切っています。お金、家族、家、恋愛、仕事。どれに幸せの重点を置くかは人それぞれ」「私は整形をしなかった人生に絶対に幸せはない、そう絶望したからやりました。で、今、後遺症を負ってなお、幸せだと思えています。」

整形を繰り返して、結局どんな顔になりたいのか?という質問に彼女は「わたしにもわかりません!」と回答する。加工アプリで再現する理想の顔は、頭を縮め、顎を削り、目を開き、ほうれい線をとることで完成した。600万かけても彼女の顔は理想とは程遠い。さらに整形したらモテなくなったそうだ。それでも整形前に撮影した「踊ってみた」動画に映る醜い自分を見て、やってよかったと幸せを感じている。

世が隠そうとする真理

最近、ネットで大炎上した美容パックのCMがある。内容はこうだ。

坂道を歩いている女性(容姿は普通またはそれ以上)が紙袋からりんごを落としてしまい、通りすがりのイケメン男性が拾う。ひろったりんごを持ち主の女性に渡そうとした瞬間、すぐ横に美人(韓国アイドルグループKALAのメンバーが演じる)が現れ、男性はすでに持ち主の女性に差し出しかけていたりんごをなんとその美人に渡してしまう。美人がリンゴを受け取るバージョンが「チャンス編」、美人がリンゴを受け取らずに去り、そのあとで男性がもう一度りんごを持ち主に返そうとして持ち主が怒りの表情を見せるのが「迷わせる編」だ。それぞれ「チャンスはいつでもやってくる。」「キレイは人を迷わせる。」というコピーで締めくくられる。

最も批判が大きかったのが別バージョン「ピンチ編」だ。違うのはリンゴを拾った男性がブサイクという部分。りんごを落とした女性は、リンゴを差し出すブサイクな男性を見て露骨に嫌な顔を見せる。さらにすれ違う美人役はリンゴを差し出され、嫌悪感をあらわにした顔で受け取り走ってその場を離れる。

このCMが炎上したのは、美の力を陥れようとする社会の暗黙の了解を破ったからだ。「美人かブスか、イケメンかブサメンかで態度が変わる」という誰もが知っているのに社会的に抑圧されていた事実を大々的に地上波に流してしまった。「ブサメンに人権はないのか」「結局顔か」「見た目を差別している」「炎上商法ではないか」「不快だ」とワイドショーでも取り上げられるほどと批判が殺到した。

しかしなぜだ。頭のいい学者や強いスポーツ選手が高い地位や名声や高いお金をもらうことには誰も文句を言わないのに、美が優遇された途端に人々から不満が滝のように流れ出るではないか。これを説明するのが「エロス権力」だ。

エロス権力

美は無条件で人をひれ伏させる力を持っている。中村うさぎはこの美の力を「エロス権力」と呼ぶ。ほんとうは男だって美醜で判断されるのに、なぜか覆い隠されて知性や金で権力を得るように教え込まれる。運動神経や記憶力にも生まれつきの差があるのに、まるで努力で得られるものとして扱われる。努力ではどうにもならない美の力を認めてしまっては、人間は平等だと誰も言うことができなくなるからだ。社会は美を不当に陥れて、平等を取り繕う。スポーツや知性のコンテストではその能力だけで判断するのに対し、美だけで争えばいいはずの美人コンテストでは特技披露など外見以外の審査項目が設けられるのもそのためだ。

しかし美はエロスに直結する。社会の建前とは裏腹に、人は美を無視することができない。建前で包まれていたこの社会の本音を露わにしてしまったのが、先ほどのCMというわけだ。

整形する女たちは美の力を知っている。女たちは子どものころに自らにも母にもペニスがないことに気づき、貫かれる者にしかなることができない事実を突きつけられる。ペニスを手に入れるには、男に欲望されて貫いてもらわなくてはならない。ペニスの代理物としての子供を手に入れようにも、その過程においてペニスが必須となる。ただ生まれてきただけだというのに、あまりに一方的に受動的立場を強いられているではないか。こうしてペニスを持つ者への羨望と憎悪は積もってゆく。

この理不尽に与えられた受動的立場をどうにかして抜け出したい。そこで必要になるのが「美」の力だ。圧倒的な美を手に入れさえすれば、男たちはみんな自分にひれ伏す。その状態になって初めて、ペニスを持たざる者が持つ者の上に立つことができるのだ。幸い現代社会では技術が発達し、昔は努力ではどうにもならなかった美が、手術で手に入る可能性がある。この世で最も強い美という権力が手に入るのなら、お金や失敗や後遺症など、気にしていられないではないか。整形する女の美への欲望を突き詰めれば、その根源は他でもなく男性への憎悪なのだ。


第4回へつづく

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