「デッドロック!」 …感想と考察など

READING MUSEUM 「デッドロックド・ディティクティヴズ ~百万探偵都市の史上最悪密室~」 5/15(土)の昼公演を観ました。「デッドロック!」の掛け声で始まる密室脱出劇。気鋭の作家、amphibian先生の新作でもあります。

これがまたとても面白かったので、感想や個人的な見所、一部考察などをメモしておこうと思います。この1公演しか観ていませんので、別公演で明らかになった点などを教えていただけると超喜びます!

ちなみに完全なネタバレを含みます。観てない方の楽しみを奪いたくありませんので…。アーカイブ配信は5/23(日)20:00まで販売、視聴は23:59 までできるようです。まだの方は、こんなメモを読まずに、ぜひ「ソリッドシチュエーション・コメディ」という挑戦がどんなものであったか、観ていただくことをおススメします。

「デッドロック!」開始3秒の分岐

最初にシゲムラ(下野さん)から「百万探偵都市」の世界観の説明があり、「グッドラック… デッドロック!」の台詞(カッコいい)からストーリーが始まるけど、この開始3秒で選択肢が出たのは「やられた…」という感じ。

もちろん、この舞台は「観客が選択肢を選ぶこと」が重要なので、ストーリーに影響しない序盤でしっかり練習しておく必要があるけれど…。さぁ、劇が始まったぞという直後、心の準備もままならないところに来るとは想定外。おかげでググッと引き込まれた。ノベル系ゲーム全般でも、開幕と同時に選択肢ってのはほぼ無いんじゃないですかね!?

…しかもこのシーン、下野さんへの指示は「適当に寝言をむにゃむにゃ言いつつ、選択肢の集計結果の表示をチェックしながら、60秒間持たせてください」とかいうものだったと思われます(ひどい)。投票開始から「よし、起きよう!」まで65秒でしたが、60秒は…長い。観てる方はいいけど。ベテラン声優とはいえいきなりの無茶振りに、下野さんほか出演者の皆様も、「この脚本はヤベーやつだ」と思ったのではないでしょうか。。。

15日昼公演での寝言は「それは…あげ、あげてないです…そこはダメ…あ、はい、じゃぁそれで…」みたいな感じだったけど、これ何か意味あったんですかね(笑) 薄目でチラチラ集計結果をチェックしてる下野さんがバッチリ撮られてて、いきなりキツそうだな、と、ニヤニヤしてしまいました。

4連「ドシモネタ」問題

続く選択肢は、この密室が「下手な爆撃でも壊れない」→「どんな爆撃ならいけるってんだ」→「それこそ、核爆弾か、何か…」という台詞をうけて、シゲムラが「気の利いたチャチャを入れて存在感をアピールしよう」という謎の動機で(マジで謎だ!シゲムラ頭大丈夫かよ!)、さてどうするか、というもの。

A:普通にツッコむ
B:ドシモネタでボケる 
C:3人に解決を任せる

いやまぁ これになると思ったけどね! twitterをチェックしてたら4公演ともこれだったみたいじゃないですか。なんともヒドい(笑)。男から見ると、イケボだろうが何だろうが、お〇ん〇んドーン!みたいなのを見ても何とも思わないんだけど…だけど…

これ普通にパワハラでセクハラじゃないですか!? みんなで投票して? 民主主義の名のもとに? 数の暴力で? ドシモネタやらせちゃう!? 引くわー ドン引きだわー

てなわけで こんなものは けしからん!  ・・・とか言う気は実は全然無くて、まずメインの観客である淑女の皆様が大喜びだったようでして、もうそれはそれで良かったのではないか、というのと…。

最初の選択肢が「演者の力を問う気満々」を示したことに加えて、この2つ目の選択肢は「この舞台が確かに観客の選択に従うということ」そして、「全員の選択=多数決というものが圧倒的な力を持つこと」を、これ以上無い形で示すものではなかったかと思う。

多数決は正しい。多数決には抗えない。さすがに16日の夜の部では、twitterで4連続ドシモネタ回避の呼びかけが行われていたけど、それでもドシモネタになった。しかも53%、過半数。この圧力よ…。淑女たちはイケボのドシモネタが観たいのだ。普段は探偵よろしく仮面を被っているのだ。仕方がない。

amphibian先生が「無理強いはダメだけど、みんなが選んだならいいかなとか」みたいなことを16日の深夜のお疲れさま会(twitterのスペースで開催してた)で言っていたけど、先生は多数決の正しさと恐ろしさを知っているはず。本筋と関係ないところではあるけれど、この舞台の一つの側面を見せられた気がしました。いやはや。。。

そうそう、「多数決の恐ろしさ」については、amphibian先生が手掛けた話題作「レイジングループ」というゲームを遊ぶといいと思います!(ダイマ)

本編ルート分岐

それぞれの自己紹介 → ヒノがドカン → モチダがビビる → まさかレッドマウスではあるまいな → ヒノがモチダを挑発 → モチダも拳銃を取り出す → えっ レッドマウスだって本当に疑ってるんですか? → これはきっと何か事情が → 言ってる場合か、野郎、マジで撃ちやがるぜ → …からの、本編ルート分岐の3択。 

A:モチダにとびかかる (15日昼、16日昼)
B:ヒノをかばう (15日夜)
C:説得を試みる (16日夜)

このシーン、最初観た時は、モチダがテンパっている緊迫感とか、シゲムラが取りうるのがなぜこの3択なのかが把握しきれてなかったけど、観返すと、まぁ確かにモチダがヒノに向かって銃を撃つ瞬間に考えている状態だから、モチダを押さえるかヒノをかばうか説得するかの3択ですね。

そして、投票受付の間、この後の展開と選択肢について、それぞれの探偵がヒントをつぶやいています。…観てる方はそれどころじゃなかったけどな!

シゲムラ:僕は僕の探偵スキルで死なないけど、ほっとけば誰か死ぬ
ヒノ:おっさんの目 マジだな 下手な説得じゃ俺の心臓に穴が開くだけ
ナガレ:僕のスキルでヒノくんをかばう…一歩間違えれば僕が危険
モチダ:誰か間違ってとびかかってきたら自滅しかねん

すなわち、説得したらヒノが死ぬ、ヒノをかばうとナガレが死ぬ、とびかかるとモチダが死ぬ、という「詰み」(デッドロック)の状態だったと。いやいや1回観るだけじゃ分からないよ! 分からない前提だろうからいいんだけど! …色々な挑戦の詰まった舞台です。

15日昼は、Aに分岐しました。ここで暗転して後ろから台本が渡される瞬間はアツかったですね…!!! (しかも稽古していないルートだったとは!)

ルートA:ヒノの物語

このルートで明かされたポイントは・・・

・レッドマウスは特区に紛れ込んだ国家公安を狙っている(表沙汰になっていないが、特区では公安と探偵が戦っている)
・モチダは誤射によって死んだ(弱すぎる…笑)、シゲムラも撃たれて死ぬかと思ったけど大丈夫
・ナガレのスキルは集中力を要し半日は使い物にならない = この密室の脱出に許された時間の中では1回しか使えない
・ヒノは特級凶悪仮面の一人、スワームX。10年前に死んだ家族の仇である科学捜査支援機構サイソのメンバを殺して回っている
・「青い煙事件」はサイソが起こしたテロで、サイソのトップが100人以上の人体実験をやった証拠を(ヒノが)持っている
・ナガレは事件の真偽を知らないし、ヒノに恋人を殺された仇同士である
・シゲムラが頭の中で一人ジャンケン(脳内会議の延長かな?)をする

そして、2人がお互いの因縁に決着をつけるべく決闘に。ヒノの銃に弾丸を込める/込めない、ナガレの銃に弾丸を込める/込めない、の組み合わせでABCDの4つに分岐するシーンで、15日昼と16日昼、ともに「D:両方生存」になりました。

ここのABCルートは結局何が仕込まれていたのか?気になります…。可能性として考えられるのは、結局シゲムラが助けてしまうので同じ結果になるというものですが、この後の2人の関係性の変化を考えると、両方死亡(お互いに仇討ちに成功)からの「死ぬかと思った」で両方生存、が真ルートのようにも思えます。ちなみに、ここでも黒服さんが後ろに台本を4冊を持って控えていて、Dの台本を渡してましたね。面白い! 台本、全部で18冊あったそうですね! やばい!

ヒノ「臭うんだよ、俺と同じ腐れ外道の臭いが」
ナガレ「くくっ、つくづく鋭い男だ」
シゲムラ「うわ、意味深すぎるやり取りにチャチャいれたいけど…!」(シゲムラお前…)

このやり取りは、本編ルートC、ナガレルートの伏線(予告?)ですが、このようにルート間で互いに伏線を張り合っているというのも、ノベルゲームの技が活かされていて、いい感じです。

ルートAの最後は、シゲムラが2人の今後の生き方を決めるということになりました。ヒノは、無茶な復讐をやめて黒幕一本に狙いを絞る。ナガレはそれに協力する。シゲムラも一枚乗っかる。毒ガスが出るまで脱出を諦めない。シゲムラ「めんどくさ~い。でも、頑張りましょう!」

ヒノの掴んだ証拠は本物なのか? 人体実験とは? サイソの本当の目的は? ・・・そんなお話も、きっと面白いでしょうね・・・!  けれども、ルートAはここで終わり。3人は、この密室が何のために作られたのか知ることもなく、脱出することもできず、全て無かったことに。最後にナレーター役のモチダから、その説明がなされました。私見での勝手な解釈ながら、メモしておきます。

モチダ:
一人が死に、二つの物語が死んで、一つの物語の種が撒かれた。
惜しむらくは、この密室、芽吹きの力程度では割れそうにない。
物語はこのまま腐り果てるのか、あるいは育まれるのか。
産声の瞬間は諸君の空想の中にのみ存在する。

・モチダが死に、ルートBとCの世界が消え、"3人で協力して「青い煙事件」の真相を追う" という物語が始まろうとした。
・残念ながら、この密室は、その "物語が始まろうとした" というだけでは、破れない。
・この物語の続きは無かったことになってしまうのか? 別の世界には存在しえるのか?
・それについてはこの舞台で語られることは無いけれども、皆の心の中にある。

「さて、時間が来たようだ。デッドロック!」

そして、シゲムラが「…そんな空想をする前に、君たちにはやることがある」と、ここまで進んできたルートAが白昼夢だったかのように、本編ルート分岐に巻き戻りました。実際には、ルートAという平行世界のシゲムラが歩んだ過程を垣間見た(空想した)、別の世界のシゲムラ(真ルートであるルートDを進むシゲムラ)に、ここで入れ替わっていることになりますね。最初は、夢オチなのか時間が戻ったのかと思っていましたが、我々観客は2つの世界のシゲムラを観ていたようです。

ルートD:シゲムラルート

モチダがヒノを撃った瞬間、ナガレが「神秘的武術」で銃弾を止めようとして、コントロールを誤って自分に当たってしまうという、通常では想定しえない状況をなぜか先読みして、シゲムラがナガレをかばい4人とも生存するというルート。

このルートでは、ここまでの「極限状態モノ」から、「極限状態+密室脱出モノ」をしっかりと描き切ったように思います。この密室は何なのか? どのような目的なのか? この4人が集められた理由は? …これらについて、手持ちの情報を組み上げることで、確かにそうなるなという推理が展開されていくのは、流石の一言です。この無茶な設定てんこ盛り+ハイスピード展開+精緻なロジックでの詰め。間違いなくamphibian先生の新作、拝見しました。お疲れさま会では「一度シナリオが丸ごと没になった」と言ってましたけど…。何をやろうとしてしまったのか…。

「全自動密室脱出探偵」については、もう完全に不意打ちを食らいました。確かに、どんな能力でもありえそうだということは最初から提示されてた。でも、でも、でも! 「絶対に脱出不可能な密室を、あらゆる密室から無条件に脱出できる能力で脱出する」なんてバカげた話、普通の頭じゃ思いつかないし、採用しないでしょ!!! でもね! 納得できるんですよ、この解決策!! いやぁ…、頭のネジがすっ飛んでる。無茶苦茶すぎて流石。これが出てきた瞬間だけでも、観る価値ありました。この舞台。

もちろん、「無線の周波数を 7.13 MHz に!」「何なんですかそれ?」「僕の誕生日です!」のくだりも最高でした。思いっきり「は!?!? 何言ってんの???」と思わせてくれる。その上で、全くもってそれが妥当だと説明される。こういうのも大好き。

…と、細かく書き始めるとキリがなさそうなので、残りルートDで思ったことなどをパラパラとメモしておきます。

・4人のスキルを順番に改めて挙げながら推理するシーン、シゲムラのスキル名が読み上げられた時、下野さんがカメラ目線でセクシーなポーズとったけど、アレ何!? マジで何…? (困惑)
・公安の目的が探偵都市の壊滅なら、核攻撃があるってニュースを流しちゃいけない(みんな逃げちゃう)はずでは…? → この点については、観返して「日本国内のいずれかの主要都市を標的としたテロの予告が…」となってたので、「テロに偽装しつつ攻撃」に矛盾は無かった
・核爆発を起こしてもシゲムラの能力で助かる、とのことだけど、爆発霧散した瞬間に生き返っても、爆風やら放射線やらでもう何度か死にそうで、その間、シゲムラが3人に触り続けられるかは難しそうだ(実際には、これは実行に移さなかったので、いいんだけど)
・シゲムラの「今回、僕、結構 真面目じゃなかったです?」という台詞の「今回」は、複数の平行世界の記憶が混ざってる状態を示していたのかな~?
・公安が全自動を警戒して密室を2セット作ったという点、外と連絡が取れる可能性まで織り込み済みだったのであれば、ぶっちゃけ密室を増やすよりも全自動を殺しておけば良かった気がする…?
・2組の探偵たちが全く同じように考えて行動するならば、無線機の部品の取り合いになるはず。部品は複数あったため問題なかったと解釈するけど、「あれ? 無いな? 誰か持って行ったか?」とかいう演出もあってもよかったかもしれないっ

シゲムラについて

総じて、最も適当でやる気がなくて厭世的だったシゲムラ、実は一番生きる力が強くて推理力が高く、3人を殺すも探偵都市を全滅させるも思いのまま、それを決めるのは観客を含むシゲムラーズ、ってことで、他の探偵たちの「裏の顔」を圧倒的に凌駕しているというのは、カタルシスがありました。

無線が繋がった時、お互いのシゲムラが全く同じ考えで今に至っているという前提で、"全自動探偵に先にアポを取った方が、生き残るシゲムラでよい" と瞬時に合意。舞台上のシゲムラが生きていくことになったシーン。

「じゃあ 仕方ない おめでとう」 → 「ありがとう じゃあ悪いけど そっちは殺っちゃって」(= お前の方は死んどいて) → (あっさりと)「りょーかい」

このような狂ったことを、どれだけ繰り返してきたのか…。

そんで、その後の「セーーーーーーーフ!!」
やばいね(笑) こいつはやばい

最後のシーン、「いつかこっちの密室も開けてよね、その時は注意して、毒ガスと放射線と4つのおかしな死体に」 → (爽やかに)「りょーかい」
…シゲムラは、シゲムラの遺体を弔う気はあるのだろうか。現実的に考えて、全自動で開けるにしても危険過ぎるし、とても都合の悪い死体(コピーされた4人)が出てくる。これはずっと放置しておくか、もし密室を開けるとしても、それは単にシゲムラ自身のコピー能力の証拠隠滅が目的となるだろうねぇ…。

だいたい、シゲムラ同士の会話で「分身の術。色々と便利に使ってきたよね」と、サラッと言ってたけど、それって自分で自分を半殺しにしてコピーを作ってたってことですよね。。。

怖っっっっっっ   こいつは やはり やばい

最後に: この公演は「完成」した?

この無茶な脚本をamphibian先生が書いたけど、最後に完成させるのは、演じる役者さんと、選択肢を選ぶ観客なわけで。こんな危なっかしいバトンをみんなでリレーして。それはとても面白いよね、と。まず最初にそう思いました。

そして、アーカイブを観返していて改めて(勝手ながら)思ったこと。

本編ルート分岐はAだった。そして、一旦バッドエンド(?)に達して、巻き戻り(別シゲムラへ)。シゲムラは「ABC、どのルートも詰む」ことを不意に理解して、Dへ進み、密室を解く。

いや、いや、待て。この15日昼の時点では、ルートAしか潰せていない。ルートBとCは(観客みんなもシゲムラだ、としても)誰も経験していないだろう?

あ、そうか、15日夜にルートBを行ったシゲムラと、16日夜にルートCを行ったシゲムラと記憶を共有したってことだな!納得〜

いや、いや、いや、4公演が終わった後だからそういう解釈ができるけど、え? 15日昼シゲムラさん、(我々観客の時間軸上の)未来の公演の結果を先取りして理解しちゃった?

16日夜公演の時、まだ行ってないルートを観たい!という皆の思いとtwitterの力で、最後のルートCが上手いこと選ばれた。それは単に「観てないのを観たい」というモチベーションだったかもだけれど、実際には、この4公演でルートABCを網羅することで、はじめて全ての矛盾が無くなるという仕掛けだったと考えると…?

そういう意味で、1公演の中でも「観客の選択によって完成する」舞台でありながら、同時に「観客の選択による4つの公演を合わせて全体が完成する」舞台…、最後のピースが16日夜公演で揃って、amphibian先生の思惑通りに結実した、と言えるかもしれない。

「この舞台が確かに観客の選択に従うということ」が、2番目の選択肢(ドシモネタ)のあたりで強く示された、と書いたけれど、そう、出来レースはしない覚悟だったことは確実。

もちろん、最終的にどこかのルートが選択されず漏れたとしても(その可能性は十分にあった)、「演じられることは無かったけれども、他に無数のシゲムラが存在したから知ることができたんです」ということにはできる。

はて、、、amphibian先生がどこまでを意識して仕込んだのかは分からないけど、まぁ、いいように解釈させていただくとして、未来の並行世界(言葉がおかしい)の選択の先食い。何てことやるんですか。

おめでとうございます、たぶん成功です。
まんまと手のひらで転がされていました。

本当に面白い舞台を、ありがとうございました。

デッドロック!

2021年5月22日

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