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【第2回】森岡薫のスペイン記 日本代表戦もあった2月の振り返り(無料公開)

 どうも、森岡薫です! 連載の2回目は、前回のバルセロナ戦のあと、日本代表戦や連戦の続いた2月を振り返ります! 

※連載第1回目はコチラ(有料note)

【新連載】森岡薫のスペイン記 1セッションの練習で臨んだバルサとのデビュー戦

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目次

●初のホームゲームで起きた「タキタ」コール

 バルセロナとの試合から1週間後には、ホームでサラゴサとの試合がありました。これがオレと滝田(日本代表FP滝田学)にとっては、初のホームゲーム。どんな雰囲気になるか楽しみだったけど、ホームの雰囲気は想像していたよりもすごかった。

 オレと滝田が途中出場で入った瞬間には、みんな拍手で歓迎ムードを示してくれた。その後も、良いプレーをすれば、そのたびに観客席から拍手が沸いたり、「よくやった」という声援が飛んできたりして、アリーナに来ている一人ひとりが本当によく試合を見て、反応しているなと感じました。

 試合中、滝田が相手選手とやりあった場面があったんだけど、その時には会場から「タキタ!」っていうコールが自然発生していた。8-6で勝った試合後、チームメートの一人が「俺はここに4年間いるけれど、1回もコールをされていない。ホーム1試合目でコールされて、すごいな」って羨ましがっていたくらい(笑)。本当に歓迎してもらえたし、結果を出さないといけないなと、あらためて強く感じました。

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●日本とスペインのアリーナの雰囲気の違い

 パルロ・フェロールのホームゲームには、最低でも2,500人が集まって、対戦相手がビッグクラブにもなれば、4,000人は入ります。彼らはとにかくチームの勝利を願うから、この前の試合(2月22日、第22節)、ホームでリベラ・ナバーラに1-6で負けた時は、ブーイングが起きた。『さすが、スペインだな』と感じたし、やっぱりこうあるべきだと思います。

 別にブーイングが起きても、運営側や協会がダメとは言わないし、何か罰せられたりすることもない。勝利を求める観客が、結果を出せなかったチームに感情を表現するのは、自由だと思うからね。ただ、これは他の試合であったことだけど、観客からブラジル人選手に対して、人種差別的なヤジが飛んでしまったんです。それに対してはリーグも声明を発表したし、クラブや選手たちもSNSなどで「こういうことはあり得ない」ってコメントをしていた。

 負けた時のブーイングもすごいけれど、逆にサラゴサ戦では、俺たちが勝っている試合終盤に相手がパワープレーをしてきた時、会場は半端じゃない口笛の音が鳴り響いて、審判の笛さえも聞こえないくらいでした。そして、相手がミスをすると「ウェーイ!」って喜ぶんです。みんなが試合を見て、一緒に戦う。そういうアリーナの雰囲気を、みんなが楽しんでいるのかなって思ったし、こっちに来て初めて「ホームとアウェーの違いってこういうことなんだ」というのが理解できました。

 その一方で、ものすごい人数が試合を観に来たあとのアリーナの汚さは、尋常ではありません(笑)。スペインの人は、試合を観ながらヒマワリの種を食べまくるんです。その殻が、スタンド中に散らばっている。例えば、土曜日に試合があって、日曜日がオフで、また月曜日に練習があると、その時はまだそれが残っていたんです。俺と滝田は驚いていたけど、みんなは「こんなの当たり前。金曜日にはきれいになっているよ」と平然としていたんだよね(笑)。掃除をする人も大変だと思うけど、そもそもファンがゴミを持ち帰り、アリーナにゴミが残っていても、その日のうちに掃除する日本の良さが身に沁みました。

●とにかく負けず嫌いで感情は表現することが当たり前

 ホーム&アウェーの違いのほかに、もう一つあらためて『すごいな』と思ったのは、何をやるにしても負けず嫌いなこと。アップの時から競争意識が高くて、ペラドン(ミニゲーム)はもちろん、練習のアップから、少しでも競い合う要素があったら、みんなものすごく勝ち負けにこだわる。時には、ズルをしてでも勝ちに行くんです。普段からの競い合う姿勢というのは、日本のそれとまったく違うもので、ペラドン終了と同時にボールを思いっきり蹴り飛ばすヤツがいるなど、雰囲気が一気に悪くなります。

 日本では、俺が試合に負けてボールを蹴って悔しがって、周りから『なんだ、あいつ』『扱いづらいな』って、少し引かれていたりしたけれど、こっちではアップからそれが普通でした。ペラドンで一つでもパスミスがあれば、言い合いになる。それは「監督にアピールしたいのに、ミスが起きたらできないだろう!」という自己主張ではなく、単純に負けたくない気持ちが強いんだと思います。だって、練習に12人しかいなくて、ベンチ入りが保証されている時でさえ、変わらないからね。今はどうか分からないけれど、俺がいた頃の名古屋オーシャンズはそういう雰囲気もあったから、ちょっと懐かしさを感じました。


●vsフットサル日本代表戦での心の持ち方

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 2月の初旬にはFIFAデイズがあり、リーグ戦が中断する時期がありました。そこでパルロ・フェロールはフットサル日本代表と練習試合を行ったんです。日本代表と試合をすることは、スペインに来てから知りました。名古屋時代に一度だけ、日本代表と対戦したことがあったけれど、自分が選ばれるようになってからは初めてだったので、楽しみだったけれど、同時になんか変な感じでしたね(笑)。

 ただ、日本の実力を考えてももちろんだけど、その試合に中心選手のFPアドリがスペイン代表に選ばれて不在になること、負傷者が欠場することもあったから、難しい試合になるのは、試合前から分かっていました。俺と滝田が加入した時期は、チームに負傷者が続出していて、リーグ戦もフィールドプレーヤーを6人、7人で回すような状況でした。だから、このFIFAデイズのタイミングでは、疲労回復がチームの優先事項だったんです。

 でも、俺と滝田は新加入で、彼らとは立場が違うし、監督にアピールしないといけません。選手が数名いないというのは、当然、試合への出場時間が長くなります。加入してまもない自分たちにとっては、パルロ・フェロールの決まり事ができるのか、チームに合わせられるのかと、自分のやれることをアピールする場だった。だから、ブルーノ・ガルシア監督に日本代表への復帰をアピールするという考えはほとんどなく、頭にあったのはチーム内で自分の適応力を示すこと。もちろん、最終的にはクラブでの活躍が日本代表にもつながると思うけれど、まずはパルロ・フェロールに迷惑をかけず、内容も、結果も、自分が今のチームに必要だと、監督にしっかり思ってもらえるのが第一歩です。

(試合の詳細は、日本サッカー協会(JFA)の公式ホームページ フットサル日本代表 2020年最初の親善試合で白星を飾る【海外遠征(1/28-2/8@スペイン)】 へ)

●パルロ・フェロールのチームメートの印象に残った日本代表選手


 日本戦は2-3で負けましたが、主力も数名欠いていた状態だったので、結果はそこまで気にしていません。そこは国を代表して来ていた日本代表とは違ったと思います。俺が代表にいる時も、ブルーノ・ガルシア監督は遠征で試合をするたびに「ただの練習試合ではなく、日本代表の試合だ」と話すので、そういう気持ちで試合に臨んでいたはずです。

 もちろん、俺とか滝田はアピールしないといけないから個人として結果が必要だったし、必死に戦いました。日本代表のスタイル、誰がいるのか、どういうプレーをするのか、セットプレーのパターン……そういうことが分かっていたから、いろいろ考えながら戦いましたね。

 対戦相手として、まず感じたのは『フットサル日本代表が良いチームだな』ということ。やっぱり日本の守備の強度は高い。前からプレッシャーをかけに行くと、少し苦しんでいたかなと思いましたが、逆にディフェンス時、前からのプレスは本当に強くて、俺がピヴォにいた時は、なかなかボールを入れさせてもらえませんでした。あのディフェンスの連携力は、今後も大きな武器になるはずです。まだ、AFCフットサル選手権に登録されるメンバーが決まっていなかったから、メンバー入りに向けたアピールの場でもあったと思うけれど、そのなかで必死に戦って、本当に日本らしい試合をしてきました。試合後、パルロ・フェローるのチームメートたちも「日本代表は良いチームだね」と言っていたし、特に個人で打開ができるFP逸見勝利ラファエルのプレーは、印象に残ったみたいです。

 逸見はスペインの隣国、ポルトガルのベンフィカでプレーしているけれど、パルロ・フェロールが試合をする機会はないし、みんなそんなに知らなかったみたい。ただ、スペインにいるFP清水和也や以前スペインにいたFP吉川智貴のことは知っていたし、彼らがいる強いチームというふうに思われていたと思います。

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●守備が生命線の日本にとって重要なファウルの使い方

 日本代表戦では前半に第2PKが2本ありました。パルロ・フェロールがシュートを決めきれなかったため、日本にダメージを与えることはできませんでしたが、あれを決められていたら大きなゴールになっていたと思います。

 日本が第2PKを与えるまでに、重ねたいくつかのファウルは、おそらく日本の基準だったら取られなかったファウルでした。守備の強度が高いことは、今の日本代表の色だと思うし、厳しく強くいくことはブルーノ監督からも求められます。ブルーノ監督はスペイン語で「Competir(コンペティール)」と言うのですが、これは日本語にすると戦う・競うという意味。だから戦うことは大事だけれど、それは我武者羅に行って、ファウルを貯めるということではありません。今の日本代表の選手たちは、ほとんどが年齢的には中堅以上の選手たち。後半からは修正してきたけど、やっぱり戦いつつも、余裕を持つことが求められていると思います。

 もちろん相手に強くいかないといけない時が、試合のなかではあるし、そういう時はいかないといけない。スペインでは、前半の終盤に5ファウルがたまっていなければ、『無理なら掴んででも相手を止めろ』ということが普通に言われます。でも、そういう強くいかないといけない時に、ファウルを使えるか。そういう状況を保てるかは、本当に大切です。特に日本は守備が生命線のチーム。5ファウルがたまり、第2PKを恐れてスコンスコンやられるのはもちろんダメですが、前からプレッシャーをかけにいけなくなることで流れが悪くなる可能性も高まります。強度の高い守備が今の日本代表の色ですが、ファウルがたまると、その色が出せなくなるのは、対戦していて気になりました。

●日本とスペインのマッチアップの楽しみ方の違い

 ファウル・コントロールについては、選手たちがもう少しやらないといけない部分もありますが、ジャッジの基準の違いも考えないといけません。日本を含めて、アジアの審判は、もともと手を使った守備で、あまりファウルを取らない傾向にあります。スペインの審判は少しでも手を使うと、すぐに笛を吹くので、日本の基準のままだと、すぐにファウルが溜まってしまいます。

 もう少し厳しくファウルを取るようにすれば、選手たちも手に頼らず、体を使って止めるようになるでしょう。手に頼らないディフェンスをする力を上げるために、努力もするはずです。そうすると、守備のレベルが上がるし、打開する側も手を使ったオフェンシブファウルを取られることになれば、打開する側、止める側の両方のレベルアップにつながります。

 スペイン1部リーグの各クラブには、体のデカいフィクソが必ず一人はいます。デカいフィクソはボールをキープしていると、圧力をかけてきて、足が伸びてくる。逆に小さい選手はインターセプトをしてきます。その駆け引きでピヴォをしていても、結構、忙しい。でも、ファウルをされることはあまりないんです。駆け引きのところで戦います。

 日本では、「ピヴォとフィクソのマッチアップ」を、よくみんなが楽しみにしていますよね。実際に試合では、ピヴォがボールを持った時に、フィクソが後ろから押す。それを耐える姿を見て、「見ごたえがある!」って言いますよね。激しいぶつかり合いが楽しい気持ちはわかるけど、見方によってはファウルをされているピヴォが必死に耐えているシーンです。こらえた結果、そこから振り向いても、フィニッシュの時に力を出せません。もう少し、その前の段階であったり、駆け引きがクローズアップされるようになれば、いろいろと変わるなとは感じています。

 スペインだと、ピヴォがキープしている時に、あれだけ押されたりすれば、ファウルになります。だから、ピヴォに入る前の駆け引きでの勝負になっています。みんな、そこが抜群にうまい。大体、ボールが入る前の1メートル、2メートル前に一度ぶつかられたり、ちょっと押されたりして、バランスを崩されます。そこでボールをキープしないといけません。そこを耐えてボールをキープすると、足が出てくる。フィクソの人たちは、本当に職人という感じで、本当にうまいんですよ。

 日本にも、すごく良いピヴォがたくさんいますし、そういう見せ場をつくれると思います。これは審判のせいにするわけではありませんが、ファウルの基準を少し上げない限り、国際大会になった時に日本代表は苦しむのかなと思います。

 ちなみに、日本戦では2本の第2PKがありました。1本目が外れたので、2本目は蹴らせてもらえるかなと思ったのですが、監督が同じ選手を指名したんです。チャンスかな、と思っていたんですけどね(笑)。

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●スペインリーグ初ゴール

 日本戦が終わってからは、LNFS(スペインリーグ)が再開しました。アウェーのハエン戦は2-3で敗れたのですが、ものすごいアウェーの雰囲気で、俺たちがパワープレーに出た時のブーイングがすごかったです。

 続くホームでのカルタヘナ戦では、移籍後初ゴールを決めることができました。ドゥダ監督が率いるカルタヘナはプレーオフ進出を争っているクラブで、冬の移籍市場ではスペイン代表FPソラーノをインテルから獲得しています。残念ながら、パルロとの試合はソラーノは負傷欠場していましたが、ブラジル人ピヴォのFPエカやFPフランクリンがいる本当に強いチームでした。パルロは先制したものの、一度は逆転されてしまいます。それでも、パワープレーからアドリが同点ゴールを決めて、2-2になりました。俺たちはパワープレーを続けて、その時にアドリから斜めのパスが入って、ダイレクトシュートを決めることができて、そのゴールが決勝ゴールとなり、3-2で勝利したんです。あれは最高の記憶になりましたね。

 あのシュートは、とにかく上に蹴ろうとしました。GKがニアを切っていましたが、右上のニアへ強いシュートを打つことができたら、反応できないだろうと思っていましたし、練習からやっている形だったんです。アドリが常に斜めのパスを狙ってくれているので、難しいボールでしたが、しっかり合わせることができました。

●コパ・ガリシアでも2ゴールを記録

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 カルタヘナ戦でもパワープレーの時に出場しましたが、すでにパワープレーでもセットに組み込まれています。このカルタヘナ戦後、俺たちは2週間で5試合というハードな連戦が続きました。そのなかで、ガリシア州のトーナメントであるコパ・ガリシアの準決勝第1戦でブレラと対戦しました。その試合は3-5で敗れたのですが、俺は2点取ることができたんです。

 1点目は、ボール中央でボールを受けて、右にズラして相手を抜いて、ゴールの左サイドに右足で蹴り込みました。もう一つは、サイドでボールをさらして、中にいた味方にボールを当てて、フェイントを入れてリターンパスを受け、打ちに行って決めました。2点目はアラの位置で仕掛ける形でしたが、基本的には中央で張ることが求められています。この試合には3-5で敗れたので、3月18日にホームで行われる第2戦で2-0以上のスコアで勝利して、決勝進出を目指します。

●パルマ戦での先発出場につながったカップ戦の2ゴール

 そして、2月28日には、5連戦の締めくくりとなるパルマ・フットサルとの試合がありました。パルマは、マジョルカ島という島にあるクラブですが、この日、俺たちは試合当日の移動だったんです。

 朝5時に起きてフェロールを出発。バルセロナの空港に着いてから、今度はマジョルカ島へ移動。試合は20時キックオフだったので、ホテルで少し休んで体調を整えてからでした。初めて戦ったバルセロナ戦と同じような状況でしたが、チーム全体に連戦の疲労もあり、難しかったですね。この試合ではバレラ戦のプレーが評価されたこともあり、先発出場をさせてもらいましたが、残念ながら2-3で敗れてしまいました。相手の3点目はオウンゴールで、もったいない負けになってしまいましたね。

 今週は、ようやく週末に試合がない週になって、みんなにはオフが与えられていますが、俺と滝田、それと新加入のベトナム代表FPフーアは、ケガをしていた選手たちと一緒に練習があります。一応、日本でもシーズンを戦ってきているのですが、幸いにもそんなに疲労も感じていなく、プラスにしか捉えていません。

●9位のパルロ、目標達成のかかる一戦は清水和也との対戦も

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 このオフ明け、来週はコルドバ戦です。日本代表のFP清水和也も出場してくるでしょうから、楽しみですね。そして、このコルドバ戦に勝てば、1部残留を決めることができます。実はパルロ・フェロール、シーズン開幕時の目標は、1部残留だったんです。現在9位と躍進し、てっきりプレーオフ争いを目標にしているチームだと思って来たのですが、こちらに来てからそのことを知り、驚きました。だから、パルロ・フェロールは今、「革命を起こしているチーム」「サプライズのチーム」として、注目されているんです。でも、チームはプレーオフ進出の8位まで、あと一つの9位にいますし、みんな「ここまで来たら」と、プレーオフ進出を目指しています。まずはホームでコルドバに勝ち、残留を決めたいですね。申し訳ないけど、和也にはノーゴールを続けてもらわないといけませんね(笑)。

 コルドバ戦に勝てば、前半戦の勝ち点を超えることにもなるそうです。監督は、しっかりと相手を分析して、どういう試合をすればいいのか、プランを練ってくれています。絶対的に強いチームであれば、自分たちのフットサルをやっていれば負けません。でも、そうではないチームは、相手に合わせて対策し、戦わないといけません。日本でもこうした環境のなかで戦いたいと思っていたので、本当に恵まれているなと思います。

 セットプレーでも覚えることが多いうえに、パワープレーでも出ているので、いろいろなことを頭に入れないといけませんが、しっかりとチームに貢献したいと思います。では、また次回!

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