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じぶんの人生は、じぶんが肯定してあげるんだよ

世間では、よく女は上書き保存で、男は別フォルダー保存という。

女性は失恋したら、その場ではわんわん泣くけれども、3日も経てばスパッと記憶から消し去るように、新たな人生を歩み始める。

それが世の定説だと知りつつ、わたしは、本当に好きになったひとは今でもよーく覚えている。たぶん、びっくりするくらい、覚えている。この先何十年経っても、忘れることはないだろう。

それは、好きだという恋愛感情が時間とともに溶けてしまったとしても、尊敬の念と、その尊敬する彼から教わった哲学が、精神的なDNAとしてじぶんの心に絡まって残り続けているからだろう。

「みくちゃん、僕はね、人生で後悔した思い出なんて、一度もないんだ」

出逢った当初から、彼はそう鼻高々に、豪語していた。

いやいや、さすがに30年近く生きてきて、いちども後悔がないなんて、とんだ強がりかホラ吹きに違いない。わたしは、そう思った。

丸の内にある一流の上場企業の専門職で働いている彼は眩しく、給与も遊びもとても充実している模様だった。それにひきかえ、当時のわたしは、仕事でくすぶっていて、後悔どころか自責と将来への不安、プレッシャーで潰されそうな日々を過ごしていた。対極にいる華やかな彼が、とてもとても、羨ましかった。

そんな彼と付き合い始めて1ヶ月間、すぐに気づいたことがある。

彼の上司が、言葉に尽くしがたいパワハラ気質であったのだ。仕事も、たしかに外からは華やかそうに見えるけれども、決算前になると徹夜は当たり前。普段も、土日のどちらかは家で数時間Excelを叩く日々だった。

もちろん、彼は、そんな姿は友達には一切見せず、弱音も吐かなかった。

「ねぇ、そんなにひどい上司なら、人事に話してみたらどう?」

そんな風に、提案したこともある。でも、そうすると、経歴に傷がつくから・・・と、彼は頑なに拒んだ。そして、どんなに辛いことがあっても、寝て起きると、ころっと何事もなかったかのように、彼はただただ明るかった。根明とはこういうことなのか・・・と根暗なわたしはとても感心させられた。

そんな彼が、ある日、深夜の3時にとつぜんわたしの家に現れたことがある。

飲み会で例のパワハラ上司に付き合った3次会の席で、なんとか巻いてきたという。

あんなに強くて、どんなことでも心折れない彼が。

眩しいくらいにお調子者で、冗談好きな彼が。

どんなときでも太陽のように明るい彼が。

泣きそうな顔で、縋るように、駆け寄ってきたのだ。

あんなに弱った顔を見たのは、最初で最後だった。

彼から聞いた上司の言動は、ネットにすら書けないくらいあまりにも衝撃的で、聞いたわたしがショックと怒りで眠れなかったほどで、じっさいに体験したらトラウマとして残っちゃいそうなくらい、ひどい出来事だった。

それでも。

寝て起きたら、いつも通りの明るい彼に戻っていた。

マジで、引くくらい恐ろしい回復力である。

彼は、本当に、文字通りわたしの想像を上回るほどの、心底明るくて強い人だったのだ。

「今の会社に行かなければよかったって、後悔したりしないの?」

そんな風に訪ねた。すると、

「みくちゃん。じぶんの過去はね、じぶんで肯定してあげなければいけないんだ。」

「どんな大失敗でも、それと引き換えに得られたことがあるだろうし、それを次に活かせれば、そもそも失敗という概念すらも消える。」

「過去の決断というのは、その時にある判断材料を掛け集めて悩み抜いた最善の結果だったんだから、それでもやっぱり間違っていたとしても仕方がない。」

「過去のじぶんの挑戦した結果を受け止めて、肯定してあげられなかったら、次から挑戦が怖くなってしまう。そうすると身動きが取れなくなって、どんどん挑戦できなくなってしまう。」

「だからね、みくちゃん。じぶんの過去も人生も、じぶんで肯定してあげなければいけない。大丈夫だよ、頑張ったね、よくやったよ、正しかったんだよって、他人じゃなく、じぶん自身で常に、肯定してあげなければいけないんだよ。」

強さってなんだろう?明るさってなんだろう?

それって、じぶんで自分を励ませることであり、明日を生きる勇気を、モチベーションをセルフチャージできることなんじゃないかな。

あれから何年たったいまでも、落ち込んだときに、彼の屈託ない笑顔が思い浮かぶ。

みくちゃん、自分の人生はね、じぶんで肯定してあげるんだよって。




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