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キス率100%の卑猥極まりないデートスポットに潜入してきた

空もぐーんと高くなった秋日。

昨日わたしは香港から来日した友人と、田町で大好きな馬肉を食していた。

そのあと、二軒目はどうしようかと考えていた時、

ふと10年ほど前、大学生になりたての時に訪れたプラネタリウムバーが、近くにあることを思い出した。

高校から大学にかけて、わたしは生粋の天文オタクであり、ハワイにあるすばる天文台へ観測に出掛けてこともあった。


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携帯を手に取り検索したところ、3km先という、

まずまずな距離にあることが分かり、タクシーで移動した。

10年ぶり、2度目の再訪である。

ワクワクを胸に詰め込んで、お店のドアを開けたところ、わたしは驚愕した。

真っ暗である。

プラネタリウムを投影しているということで、ある程度覚悟はしていたものの、

予想を上回る漆黒の店内、漂う妖艶なかほり、映し出される爽やかな星空。

案内された席は、ソファー席である。もちろん、ペア仕様のミニサイズである。

10分前まで、オレンジ色にガンガン照らされた馬肉バルで、対面となって健全な会話を交わしていたわたしたちは、突如暗黒且つエロさがぷんぷんに漂う店内に放り出された。雄大な星空の下で、強制的な0距離感覚。ロマンとエロスが織り成すハーモニー。

モンゴルのゲルから突如草原に放り出された子羊のように、わたしたち二人は、しばらく、呆然と、言葉を失った。

このようなシチュエーション下では、キスしない方がおかしい。

店内の雰囲気、匂い、音楽、すべてがキスへの布石にしか感じられない。

夜空の星はキスへのマイルストーンであり、天の川はキスへのミルキーウェイである。

この港区に位置する小部屋は、もはや日本じゃない。

ツツイ白金台ビル5階の正面扉は、キスすることが目的であり、正義であり、全てであるキスの聖地に繋がるワープの入口なのだ。

ここに来た人類は、皆、織姫と彦星になった気持ちで、全力でキスするしかない。

ここまで来て、キスをしない不届きものは、犯罪者だ。処刑だ。断末魔のような叫び声をあげるまで小一時間胸ぐらをつかんで、キスのお仕置きを課したい。


「こんな卑猥なところに連れてきやがって…」と性犯罪予備者として起訴されてもおかしくないシチュエーションの中、さすがのHong Kongあがり英国流紳士の友人は、戸惑う心を隠して、始終ジェントルな態度を保った。そして、ウィスキーをすすめるわたしをスマートに交わし、照れ隠しのようにChina Blueを注文した。


時間が経ち、ようやく前方の席に座るカップルがいちゃつく様子を確認できるくらい、暗闇に目が慣れきた。

「あ、流れ星だね♡」と指さした後に、キスし始めた左横のカップルを横目に、

わたしはオリオン座の中央に位置するオリオン大星雲を指さし、超新星爆発理論と恒星の生誕に関して解説した。

目の前に広がる雄大な天の川、数万光年、数億光年先に光る星の命に心を打たれながら、

10年もの間存続してきた店の命の儚さに胸を打たれ、目頭が熱くなった。


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そういえば、オシャレでおいしい飲食店の激戦区である大都市TOKYOで、このお店はどうして10年もの間、存続できたのだろうか。

そう疑問に感じながら、わたしは夜空に、そして経営に思いを馳せた。


<収益分析>

・港区の白金台に位置する同店の営業時間は19時~26時。座席数は28、2時間制となっている。6時間の営業時間の内、時間帯によって回転数を保守的に設定。
・食べログを見ると、平均客単価3000~3999円となっており、平均客単価は3500円と仮定。
・人件費を全時間帯1600円/h、開店閉店準備時間3時間/日、全時間帯1.5人と仮定。
・同ビルの空室階の賃料を元に、地帯賃料を45万/月と仮定。

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①日別売上

19:00-21:00: 満席率0.5 x 28 x 3500 = 49,000

21:00-23:00: 満席率0.8 x 28 x 3500 = 78,400

23:00-25:00: 満席率 0.2 x 28 x 3500 = 19,600

合計:166,600 円/日

②月間売上(①x30): 166,600 x 30 = 5,000,000 円(おおよそ)

③原価 (②x30%):1,500,000円

④人件費:(6+3) x 1.5 x 1600 x 30 = 648,000円

⑤光熱水道費:100,000円

⑥賃貸地代:450,000円

営業利益(②-③-④-⑤-⑥)=2,303,000円/月


店内が真っ暗で何も見えないため、内装費が余りかからなく、料理やお酒も凝った見た目にする必要がない。ただただプラネタリウムを投射して、店員さんを1人置けば、客は勝手にキスをはじめ、月200万以上の利益が出る。


なんというイージーゲーム。


「だったら、わたしたちも始めてみよう!!香港で一緒にお店を始めよう!今すぐ!NOW!」


と、星を数えて皮算用をした後に、わたしは鼻息荒く、友人の肩を揺さぶった。


②当ビジネスモデルのボトルネック

当店は100%コンセプト先行型のお店であり、初回訪問時の「わあ♡素敵♡」というサプライズが大きい分、何回も行くお店ではない。少なくとも同じ相手とは1回行けば十分だろう。

「インパクト大&コンセプト先行型&同じ相手とは1回しか行けない」お店という意味では、同店は新宿歌舞伎町にあるロボットレストランが同じジャンルといえる。

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しかし、同店はロボットレストランとは圧倒的に違う点が2つある。

1つは、ロボットレストランはインバウンド観光客、ビジネス接待、友人家族層と、ターゲット層が広いのに対し、

プラネタリウムバーは、コンセプトの性質上、付き合いが浅いカップル、もしくは未だ付き合ってすらいないカップルというめちゃくちゃ狭い顧客層のみにしかアプローチできない。

更に、立地が白金台の住宅地のど真ん中という、基本的にタクシーでの訪問、且つあらかじめ当店の訪問を明確に目的とした層しか取り込めない。

つまり、ロボットレストランのように、歌舞伎町で飲んでいたらたまたま看板を見かけて、ノリで入ってみた~…というような集客は一切見込めず、

タクシー移動を前提としたそこそこ金持ちで、そしてプラネタリウムバーへの訪問を最初から意図していていた、付き合いが浅く、更にそのエロい雰囲気をフル活用しようと下心を持ったカップル

つまり、

キスに飢えていて、キスがしたくてしたくて震えている、でも普通のシチュエーションではキスできないモンゴルに居る子羊のような迷える小金持ち

という、めっっっちゃくちゃ狭い層にしかターゲットにできない、かなりニッチなビジネス形態であることがお分かりいただけるであろうか。

よって、このような店を経営・維持するためには、このようなニッチな客層に鋭くリーチし、絶えず新規にて取り込み続ける圧倒的なマーケティング手腕が必要なのであるのだ。

その労力の壮大さ、まさに、天の川…。

③総括


20時に田町の馬肉屋さんで集合してから5時間が経った。

丸い天井を駆け抜けていく流れ星を見たのは、何回目だろうか。もう数えきれない。

左前でイチャついていたカップルは、手を繋いでとっくに店を出ていった。

右手にいるカップルも、気付かずない内に、いつの間にいなくなっていた。

確認していないけど、絶対にキスをしただろう。そうであるに違いない。

マスターの閉店の合図とともに、わたしと友人はほくほくした気持ちで店を立ち去った。


星を数えた。


皮算用もした。




キスはしていない。





サポートいただけたら、スライディング土下座で、お礼を言いに行きますーーー!!!(涙)