女性進出の先は_

華僑心理学No.12 女性の社会進出が進んだ先は?

こんにちは、こうみくです!

前回は、新卒採用に関して取り上げました。
働き方といえば、中国の女性就業率は73%と、世界でもっとも高いグループに属していることをご存知でしょうか。(2017年、OECD調べ)

近年は、日本でも女性就業率は向上しており、8月に総務省が発表した労働力調査によると、15歳~64歳の女性では、史上最高の69.9%を達成しました。世界経済フォーラムが発表している、男女格差の度合いを表す「ジェンダー・ギャップ指数」でも、日本は114位と、中国の110位に近づきつつあります。(144か国中)

中国のEC産業の巨人であるアリババ社では、女性社員比率が49%を記録しており、「我々の成功のカギは、女性社員の多さだ」とCEOであるジャック・マーも様々な講演で公言しています。更には、非上場の中国の中堅企業の経営幹部の女性比率は平均31%(日本は5%、太陽グラントソントン調べ)との統計が示すように、女性の社会進出という観点において、中国は日本より進んでいるという定説があります。

その理由は何か。そして、中国社会からみた「女性の社会進出が進んだ先に、どの様な社会が広がっているのか」という点について、本日は、解説していきたいと思います。

1.中国社会で女性進出が進んだ理由
①1000年もの文化を覆すほどの近代化の影響

古く1000年以上前から、儒教を基盤として成り立っている中国社会は、本来、男女平等とは全く対極にありました。儒教を広めた孔子は、易経で「男尊女卑」の概念を提唱した通り、明確に男女平等の概念を否定しています。その意図として、男性は女性より優れている…という解釈というよりも、男女の役割はそれぞれ異なるため、女性は家を守り、夫を尊敬し、一族の繁栄に内から尽くすべしといった教えを意味しています。いずれにしろ、このような文化的背景のもと、中国が建国される1949年前、統計で調べても数字が出てこないほど、女性の就業率は低く、家を守る存在として認識されていました。

しかし、近代化及び政府による男女平等の促進により、女性の就業率は、近50年で大きく躍進したのです。

新中国設立の父である毛沢東が亡くなったのち、1978年頃になると、鄧小平が政治の指揮を執って推進した「改革開放」政策が行われました。以降、中国では市場の開放が行われ、近代化が急速に進みました。それに伴って、第三次産業が大きく伸長し、女性の教育レベルも大きく向上しました。すると、多くの学歴を身につけた女性たちの就業先として、第三次産業である金融業や社会福祉、レストラン、看護といった業界が受け皿になりました。このような近代化の流れは、中国と日本で共通していますね。

一方で、中国政府による男女平等の促進は、日本政府よりも徹底していました。

男女平等の理念を軸とした中国社会では、共働きが前提で考えられているため、配偶制度をもとに設計されていません。従って、企業が支給する医療保険や年金は、基本的に、雇用している個人のみにしか適応されません(配偶者は対象外)。同様に、配偶者控除といった税務面での優遇もありません。そうなると、女性は仕事を持たなければ、社会保障を得ることが出来なくなります。更に、世帯としての税務面での優遇がないとなれば、大人ひとり働かない分家計が純減してしまうため、インフレが進む中国では、生活がどんどん苦しくなってしまいます。

そんなやむを得ない事情に後押しされて、女性の就業率は、急上昇したのです。


②家族みなで育児を行う大家族思考

以前のエントリーでも若干触れたように、中国は、子どもを両親2人ではなく、祖父母親戚を含めた親族全員で面倒を見ていくという価値観がまだ色濃く残っています。また、ここ数十年間で共働きが定着したこともあり、子育ても家事も男女で分担するものだという意識が根付いたため、母親ひとりで抱え込む必要がありません。中には、孫を育てることを退職後の余生の楽しみだと考えている祖父母も多いため、子どもを産んだのちに、何の罪悪感もなく、両親に孫を丸投げする夫婦も少なくなりません。筆者も、そんな風な経緯で、幼少期は祖父母に育てられました。

大学時代に、筆者が中国から来た留学生の友人と道を歩いていると、ペットを散歩させている日本のお年寄りと多くすれ違いました。ある日、中国人の友人はとても驚いた様子で、「中国では公園に行けば、孫と散歩しているお年寄りはたくさんいる。でも、なぜ日本は孫ではなく犬と散歩しているのだ?」と、尋ねたのです。そこで、日本では両親が自分たち自身で子供を育てる価値観が強く、祖父母の関与は中国人ほど強くないと説明すると、「孫ではなく、犬しか世話させてもらえないなんて、日本のお年寄りはなんてかわいそうなんだ…!」と、ひどく心を痛めた表情を見せました。

この日中の価値観の違いに、筆者は、とても驚かされました。


2.社会進出が進んだ中国の女性は、日本の女性より幸せか?
①中国:チャンスとプレッシャーが両輪の社会

では、社会進出が進んだ中国では、女性はより幸せになったのでしょうか。


もちろん十人十色である上に、幸せを数量化して比べることは出来ません。ひとつ言えることがあれば、男女平等の意識が強い社会では、経済的なプレッシャーも、男女限らず同等であるということです。子育ても家事も分担されるのならば、家計を支える責任感も、当然等分されます。女性だからという甘えは、一切許されません。

また、女性の就業機会自体は多いものの、給与や昇進面で男女差、いゆわるガラスの天井は、中国にも存在しています。男性と同様に家計を担い、家の外で仕事をこなす必要がある一方で、職場での機会や給与面では男女差がある…。このような社会背景もあり、中国は、女性成人のうつ病率や自殺率が男性を上回る、世界でも稀有な社会となりました。(日本をはじめ、世界中、大多数の国では、通常男性の自殺率の方が女性を上回ります)

更に、長い間一人っ子政策を行ってきた中国では、跡取り息子を欲しいがあまり、女の子が産まれると遺棄される…といった社会問題が、現在でも深刻です。実際に、人口比率にも影響しており、通常、自然な社会では男女比が100:102となるとされていますが、2018年現在の中国の男女比率は、122:100と、大きく歪んでいます。

このように、中国、特に中国農村部では、女性に生まれること自体が、ひとつのリスクであるといっても過言ではありません。

②日本:守られており、選択肢がある社会

筆者が所属する従業員4000人超の伝統的な日系大企業では、新卒時の総合職同期ではおよそ女性と男性が1:3の割合でした。管理職で且つ課長以上になると、女性職員の比率が一気に低くなり、恐らく1割以下なのではないかと思われます。同世代の女性の友人知人を見渡しても、「男性社会で苦労している」という意見は多く聞きます。

一方で、日本では、なんだかんだ男は大黒柱として、家族を養わなければいけないという意識が、社会全体に色濃く残っています。職場でも、給与所得を全て妻に預けて、お小遣いで日々やりくりする男性社員の先輩が多くいました。

これは、中国では、考えられない光景です。

筆者の日本の友人知人を見渡しても、「奥さんは、働いても、家にいてもどっちでもよい」という考えを持つ男性が多い中、中国では「奥さんも当たり前に外に出て働くものだ」という価値観を、皆が共有しています。特に上海や北京といった大都会では、専業主婦はほぼ見掛けません。

よって、日本は中国と比べて就業率が低いように見えますが、言い換えると、女性には働く・働かないといった選択する余地が与えられているということでもあります。


3.専業主婦率が高い日本は、中国の未来像?

前述で述べたように、日本では2018年9月に女性就業率が史上最高(69.9%)を記録しました。

反対に、中国では近年、富裕層を中心に、専業主婦率がじわりじわりと伸長しています。ひと昔前までは、「あり得ない」とまで考えられていた、既婚女性が家庭に入るという選択肢が、「一馬力で家計が回せる富の象徴」として、多くの中国の若者の憧れとなってきました。

2015年夏には、「私の前半生」というTVドラマが放映され、悠々自適に暮らす専業主婦がある日突然、夫に離婚を言い渡される…というストーリーでした。「家でしっかりと子供と一緒に過ごす時間が取れて…という専業主婦像に憧れる一方、キャリアを捨てて家庭に入るということは、リスクだよなぁ…」と、迷う若者の気持ちをくみ取った同作は、大流行しました。

中国の人材会社「智聯招聘」の調査によると、2012年時点で出産後に専業主婦の道を選ぶ女性は、30~35歳で28.1%である一方、25~30歳では38.1%と若年層になるにつれ、増加する傾向にあるとのことです。実際に、筆者の周りでも、上海北京といった大都市では、専業主婦の道を選ぶ知人友人が、ちらほら増えてきました。

今後、日本を追うように、核家族と高齢化が進む中国社会では、従来の祖父母が子供を見るという図式も徐々に崩れていくでしょう。

そうなった際に、中国社会がより日本的に、日本社会がより中国的に進化していく日が来るのも、そう遠くないのかもしれません。


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