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自分の意思と自身の価値の再創造こそが、想像力の原点|田村 大さん

4月10日、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第1回の授業内にて、 田村大さんのお話を聴講しました。

「Good Innovation、つまり良いイノベーションは何だと思いますか?」という問いから始まり、ノーベル賞の設立者であるアルフレッド・ノーベル氏がダイナマイトを発明し建設に大きな貢献を果たした一方で、数々の不幸を呼ぶ兵器と化したという事実をご紹介くださいました。自分の発明品が兵器となった悲しみをきっかけに、次世代の世界の幸福を願ってノーベル財団を立ち上げたのがノーベル賞のきっかけだということです。

いつかの北欧訪問の折に、ヘルシンキにあるデザイン美術館に行った時のことを思い出しました。 

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鉄砲がおもむろに飾られており、「This weapon was used in war. How can we design peace for the world?」という札が掲げられていました。腕の良いデザイナーが兵器製造の企業に雇われ、利用のExperienceを高めたことで、武器としての効果が格段と上がり、そのおかげで戦争に勝利をしたというストーリー。世界の平和をいかにデザインするか?という課題提起がなされていました。デザインに携わる者として、人生を賭けてでもデザインしたいものが何なのか、その後の未来はどうなるのかという想像力とそして自身の倫理観をいかに保つことができるのか、更にそれが保てる時代であり続けさせられるか、というのが重要だと感じた気持ちを思い出しました。 

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それでは、どのようにGood Innovationを創出するのか?イノベーションはあくまでも結果論であり、良し悪しというものが後から語られます。結果がわからない中で良いものを生み出していくことが求められます。そのためには自分たちで未来を創り出すということが重要であり、その一つの例として挙げられたバルセロナ市での取り組みであるSuperblock modelというものが大変印象的でした。

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Superblock modelとは、碁盤目上の街の真ん中の車の通行を止める、というシンプルな取り組み。バルセロナ市の市民の気持ちで聞いていた私の第一印象は、え・・・家までのラストワンマイルはどうなるんだろう、であったり、周りの道が大渋滞するかもしれない、など負のイメージを持ちました。しかしながら、実際に起こった出来事としては、車を禁止したブロック内で、45%ものスペースが都市生活に使えるようになり、それぞれの地域の人々が自分の地域ならではの施設や公園やイベントは何かと考え、それぞれの地域の特色を活かした街へと自らの力で転換し、結果的に市民も気持ち良く生活でき、更には土地の資産価値が上がり、満足度が非常に高かったとのことでした。

自分の瞬間的な想像力の低さと、想像力の欠如一つで意思決定を誤り、充実した都市生活を味わうという機会を失う可能性があることにも気づかされました。前に示したように、想像力の有無で、悲しい世界を作り出す可能性もあれば、このように素敵な生活を味あわず人生を終える可能性があるということです。

そのような新しい体験の場をデザインする側に立つことを目指すならば、その地域に住む当人が気づいていない良い価値を気付かせ、そこに他とは違う付加価値を与えていくこと=文化をつくることが非常に重要だということでした。その当人らに自身や地域のアイデンティティを気付いてもらい、これまでの文脈を大きく変えるような新たな価値を生み出す動機づけさせることが大事だということです。動機づけさせるという言葉は、従前より私の好きな言葉です。動機づけさせるという語には、対象の人の意思が内在していることを暗に含んでいます。すでにその人の中にある意思に少しのフックを掛け、自身の価値を見つけ具現化していく、その力を与えるということをデザインに携わるものとして人生を通じて意識しながらやっていきたいと改めて思いました。

競争優位性でまわっている経済活動においても、経済活動を回す経営者の方に内在する意思に火をつけ、その経営者らしい、あるいはその企業らしい価値を見つけ具現化する、そんな手助けができると良いなと思います。

まずはデザインに携わる立場である前に、一人の人間として、自分自身の意思と価値に耳を傾け、新しい価値を形にすることから始めていこうと思います。

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