偏差値で良い大学と頭の良さを測れるのか

前回:自由を奪う場所としての大学

1. 学校

1-4. 偏差値で良い大学と頭の良さを測れるのか

前々回から、おかしな大人の大学の捉え方について話している。おかしな点2つ目は、大学の良さを「合格の難易度」で測ってることだ。そういう大人たちは合格難易度を偏差値っていう数字で語る。ほとんどの高校の先生もそうだ。だから高校生も偏差値にとても敏感になる。「A大学の経済学部はB大学の経済学部より偏差値が3上だ」みたいに。

でも偏差値のしくみを理解しているとこれが滑稽になる。ここで数式による説明をするつもりはないけど、偏差値ってのはそんな3違うからって比べてもほとんど意味のないものなんだ。10違って珍しい点数を取れたねってくらいだ。これについては統計学の入門書を読むだけで理解できる。とりあえず、偏差値って数字は一切気にしなくていいよ。

それから、おかしな大人は偏差値が高い人を頭が良いって表現する。頭の良さ、難しく言えば知性ってものは本当に偏差値で表せるものなんだろうか。

頭の良さとして考えられている要素の1つに記憶力がある。記憶力で有名な話に、ヒトは短時間に7個くらいのものを記憶しておけるというのがある。これをチンパンジーでも確かめた実験があるんだけど、結果は5個くらいだった。チンパンジーのわりにやるじゃないかと思ったかもしれないけど、 これだけ聞けばやっぱりヒトが1番頭の良い生き物だ、って言いたくなるかもしれない。

でも、この実験をした松沢教授たちは優秀で、ちょっと違う実験もした。それは、覚えるべきものを1から5までの数字にして、モニターに1, 2, 3, 4, 5を同時に、バラバラに一瞬だけ表示したんだ。1から5までの数字は一瞬で白い四角形に変わってしまう。ルールは簡単で、数字が隠されてから図形を1から5まで順番にタッチしていくというものだ。

で、数字を表示する時間をどんどん短くしていくとすぐにヒトは順番がわからなくなる。けれどなんとチンパンジーは、ヒトの限界より短くなってもへっちゃらだった。この実験は映像が公開されていて、俺も大学の講義で映像越しにチンパンジーと競ったことがあるんだけど、俺ができなくなってもチンパンジーは超余裕そうに脇腹をボリボリ掻きながらこなしちゃうんだ。あれは面白い体験だったなあ。

そういうわけで、疑問が生まれた。本当に人間はチンパンジーより頭が良いんだろうか。

答えは状況による、だ。この実験からわかるのは、一瞬での記憶であればチンパンジーの方が人間より優れているということだ。5個くらいの数字を覚えてエクセルにただ打ち込んでいく仕事があったとしたら、チンパンジーの方が人間より頭が良いと評価されて高い給料をもらうだろうね。

頭の良さは別に記憶力だけじゃない。例えば人間は待ち合わせ場所に向かうのによく迷うけど、渡り鳥はものすごく長い、目印もあまりないような道をほとんど無駄なく飛んでいける。ネコはよく人間の背丈くらいの塀にジャンプするけれど、人間がそのジャンプの運動能力だけをもしもらえたとしても、塀にぶつかったり高く跳びすぎちゃったりしちゃうんじゃないかと思う。

要は知性っていうのは環境次第なんだ。それに頭、つまり脳だけで決まるものじゃない。棒高跳びのオリンピック選手の身体と脳神経を合わせた意味での知性は凄まじいと思うよ。相手の気持ちを察して楽しい会話をすること求められるビジネスの営業だって、東大を卒業した人より高卒の人の方が成績が良いなんてことはふつうにあるだろう。もちろんこの場合なら、高卒の人の方が頭が良いということになる。

長くなったけど、良い大学と頭の良さを偏差値で決めるのは、とても狭い見かただってことだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?