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真夏には冬を思うのです

暑い。
あぁ、今は夏なんだから当たり前か。
やっぱり夏ってこんな暑かった、よな…

今日もまた、暑い一日だった。

茹だるような夏の一日。
そう、あの日も。
まあ、そんな思い出の夏も、もちろんあるにはある。

でも不思議と、夏の最中に夏の記憶を思い出すことは少なかったりする。
暑ければ暑いほど。
今日も、こんな暑さの中で懐かしく思い起こされるのは、あの冬の、あの日のことだったりするのだ。

今こうしてベッドに身体を投げだし、静かに目を閉じる。
寝苦しい熱帯夜。
開け放した窓からは、夏の匂いと気配が重たく部屋を満たしている。
空気はその動きを止め、妙に静かだ。
だから尚更なのか、こんな夜には「ビュウボウー」となく風の咆哮と、張りつめた冷気を纏った冬の夜が、少し懐かしく、そしてゆっくりと思い出される。
考えてみると数ヶ月前のことなのに、そんな冬がずっと遠く感じられる。
あの夜は、本当に風が強かった。
街中の人々が、身を隠してじっとしている。そんな様子が、街全体を覆っているみたいだったあの日。

夏の暑さにうんざりすれば冬を思う。そして季節が巡り、冬のこごえる嵐の夜になったら、きっと今日のこの暑さを懐かしく思い出したりするのだ。

人とは、そんなものなのだろう。

いつだって、無い物ねだりの無いもの探し。
手に入らないと気が付けば、途端に大切なものに思えてくる。

だから、今は手に入らぬその季節を思い、あの凍てつく夜空を思い出すんだ。
あの冬の、あの日のことを。

今、少しだけ涼しく風が抜けて行った。

#エッセイ #夏 #冬 #記憶 #熱帯夜


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