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「高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの」を、岩手県立美術館で見ましたー

遅ればせながら。
岩手県立美術館で開催の「高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの」、初日の9/30に行ってきました。

大好きで見ていた2019年朝ドラ「なつぞら」の頃に東京で始まった高畑監督回顧展ですが、東京でやっていた時には転職したばかりで有給がとれなくて(仕事自体も忙しかったし)、上京して見ることができず(部署は変わりましたが、現在も同じ職場にお世話になっていて、有給もいただいています)、4年越しで見ることがかないました\(^o^)/
前売り券買って見た展覧会は久しぶりかも。

県立美術館(自宅から車で20分位)、4年前にやっていたジブリ展のような大混雑を予想していましたが、意外と混んでなくて拍子抜け(^^;
会場入口のフォトスポットと、展示のジオラマ(詳細は伏せます)が撮影可能でした。
※ジオラマはフラッシュ焚き不可

フォトスポットの一部。

この時代のアニメーション史にあまり詳しくなかったので(生まれる前の作品も多かったし)、「なつぞら」アニメーション編~ラストまでの展開を思い出しながら見てきました。
資料は、「なつぞら」放送当時に雑誌や朝ドラムックで見覚えあるのもたくさんありましたが、本物を見ると、「本物だー!」と感激しますね、やはり。

特に「太陽の王子 ホルスの大冒険」ヒルダのキャラクターデザイン画は、本物(のレプリカサイズ?)を見られて良かったです。
(「なつぞら」の「神をつかんだ少年クリフ」(「ホルス」相当作)での展開が良かったので)
(「なつぞら」では、労働組合云々ではなく「イッキュウさん(高畑監督に相当)の結婚への焦り(「映画が成功したら」結婚してくださいと自らが条件付けてしまったばかりに)故に、こだわりがいつも以上に強くなって製作サイドが疲弊、進行が難航した」となっていたのですが、「ホルス」製作現場同様にそれを解決する鍵となったのが、イッキュウさんが勝手に「敵」認定していた仲さん(森康二さんに相当)が描いた、キアラ(ヒルダに相当)のキャラクターデザイン画)
会場で流れていた「ホルス」予告映像、「高畑監督以下が作りたかったもの(少年少女の「属性」を越えたヒューマニティ冒険ファンタジー)」と「当時の「漫画映画」に求められていたもの(かわいい動物キャラクターとか)」のギャップが感じられて、今の感覚で見るとちぐはぐ感が否めませんが、これがあったからこそ、今のアニメーションの豊穣があるのですね(*^^*)
まさか、上層部宛ての製作遅れに関する申し開き書類まで展示されているとは( ゚Д゚)
「演出サイドと作画サイドでの情報共有(キャラクターの関係性や物語の、グラフや色を多用したテンション表)」は、今でも参考になります。
これが「ある程度スタジオ経営に余裕のある時期に作られた漫画映画実験作(高畑監督晩年の作品のように)」ではなく「社運を賭けた長編漫画映画」だったのが、興行失敗の要因だったのだろうな…もったいない。

「アルプスの少女ハイジ」は、「服を脱ぎ捨てて下着だけになって駆け出すハイジ(文章に書くと、現代のコンプライアンス的にかなり危ないけれども、こうとしか言いようがない)」の原画→実際の動画が見られたのが良かったです。あの後に「「あーあー、脱ぎ散らかしちゃって」とあきれながらもハイジを歓迎するペーター」が続いていたのですね…。
ハイジのキャラクターデザインは「最初は三つ編みだったけれど、「おじいさん(おんじ)がハイジの髪を結んでやるはずがない」という理由からショートヘアになった」を知っていたので、実際のキャラクターデザイン変遷を見てフフッとなりました。
画面で動きを出すのには三つ編みがいいんだけれどね(漫画読んだり描いたりしていたので、そこらへんはよーくわかる)。

個人的にかわいいと思ったのは「パンダコパンダ」シリーズ。あまりよく知らないシリーズだったのですが、ころころのパンダさんがかわいかったです。

岩手での展覧会ということで、自主製作映画「セロ弾きのゴーシュ」(原作・宮沢賢治)関係展示が岩手独自で充実していたとのことですが…展示自体は見ましたが、独自展示は見逃した―(>_<)
また見に行ったときに確認しなくては。

ジブリアニメで育った世代の私、ちゃんと記憶にある高畑監督作品は「火垂るの墓」あたりからなのですが、大人になって、清太の「身勝手さ」を知ってから見ても、やはり清太と節子の兄妹ははかなく美しい悲劇ですね(ノД`)・゜・。
当時の併映作品だった「となりのトトロ」含めて、セル画のトレースがセピア色(暗闇シーン以外)だったのは、初めて知りました。
「なつぞら」では、第1回冒頭の空襲シーンが「火垂るの墓」みたいなアニメーションで(「これなら、子供を襲うどんなに激しい業火でも表現できるな」と、当時の私は感心しました)、最終回ラスト場面に再びそのアニメーションが流れて「イッキュウさん(ヒロイン夫)が後にヒロインと共に製作する、戦時下を生き延びた子供たちのアニメーション映画」というのが明かされ、「やっぱりアレは「火垂るの墓」だったのか」と、壮大な「伏線回収」に納得しました。
「火垂るの墓」では、清太と節子の兄妹ははかなくなってしまいますが、「なつぞら」の「火垂るの墓」相当作は、兄ちゃんも妹も逞しく生き延びた、希望のある映画と信じたい…。(自分の妄想でしか見られない映画なのがつらい)

メモやアイディアスケッチ(高畑監督直筆に限らず)の展示も工夫されていましたが、「平成狸合戦ぽんぽこ」の展示は、すごかった!
壁一面サイズのスクリーンにメモやアイディアスケッチがプリントされていて、近くで見ても少し離れて見ても楽しい展示でした。
これから見る方は、お楽しみに。

そして、遺作となった「かぐや姫の物語」、高畑監督が東映動画(現・東映アニメーション)新人社員の時に「ぼくらのかぐや姫」という企画を作っていたものを、数十年かけて「実現」させたのだと思うと、「伏線回収」の見事さに驚きましたよ。
「ホーホケキョ となりの山田くん」もですが、高畑監督の晩年になって入ってきた技術「デジタル彩色」を、「セル画では絶対にできないアニメーション表現の手段」として使っていたのが、エンタメ性をギリギリで保ちながらも最期まで新しいアニメーション表現に向き合っていた人なのだな…と、改めて思ったのです。

高畑監督の事細かな企画書やメモに、「なつぞら」 の理屈っぽい・細かくてめんどくさい・言動が不器用の(良くない意味で)三拍子揃ったイッキュウさんを思い、「あの朝ドラ、アニメーション編には高畑監督へのリスペクトがあふれていたのだな…」と、心が温かくなりました。
「十勝に生きる農民画家(天陽くん(十勝の農民画家・神田日勝に相当))」と「東洋動画(出身)の、気鋭のアニメーション演出家(イッキュウさん)」、普通なら交わらない運命が、ヒロインを通じて交わるのは、フィクションであるドラマだからこそだし、ドラマが現実の「供養」になっている部分もあるのだなぁ。

展覧会鑑賞の半分以上はこれ目的でもあった音声ガイド(「なつぞら」イッキュウさん役の中川大志くん)は、大志くんの穏やかで聞き取りやすい声質で、第一声から耳が幸せになりました(*´ω`*)
これを収録した当時の大志くんはまだ20~21歳だったのだなぁ(*´ω`*)
※大志くんは1998年6月生まれ(これを書いている時点では25歳)
音声ガイド(600円)は、大志くんの声だけでなく、当時を証言する伝説的アニメ製作者(アニメーターに限らず)の声もあるので、おすすめです(^o^)丿
「高畑勲展」の岩手県立美術館での開催は、12/17までです。

絵も盛りだくさんだったので(設定メモ絵も原画も動画もセル画もですが、背景美術が圧巻でした)、時間とお金が許されるならばあと何回か行きたいです。前売り券買ったのがまだ残っているし。
講演会とかもあるというから、行きたいなぁ。
図録、買って来るべきだったかなぁ(^^;(値段(2300円)もですが、本の置き場が未整備なので、購入断念)
本だけでなく、CDや録画ディスク置き場も部屋に整備されてなくて乱雑な状況をどうにかしなくては…と思って、早10年以上。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

【参考資料】
「MOE」2019年9月号(「ハイジ」特集)、白泉社
「ステラMOOK なつぞら メモリアルブック」、NHK出版2019


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