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囀る鳥は羽ばたかない 第48話【やっぱお前でいい】

【2022年04月08日】

「囀る鳥は羽ばたかない」48話の私的ネタバレ覚書。


前回・前々回と
主に矢代サイドのつらい展開が続いて
実に半年(!)メンタルボロボロでしたが
(そうです私はフィクションで実生活に影響が出るタイプ)
今回の48話がやっと、ようやく、ついに、
事態が上昇する気配が感じられたというか
光が差し込んできたというか
そんなこと考えてるとまたどん底に突き落とされそうな気もしたり
でもでもその光を信じてすがりたいという気もしたり。

展開がつら過ぎて、心折れて妄想を暴走させていた半年
(何度繰り返しても半年ってすごいな)
今回の話は読んで、その後すぐに何度も読み返せた。
ホントにつらかったのよ、すぐには読み返せなかったもの46・47話。

矢代も、百目鬼も、ふたりの空気も
そして「お仕事パート」も
大きく動き出した。

折れた心も治ってきたし
ここで今回の話を過去を振り返りつつ深読みしたい。
単行本の考察覚書でもしなかった
分割して深読み」をすることにしました。

……単行本でも分割は考えたんですよ。
でもいろいろ削って短くまとめたんですよね(あれでか)

〇48話ネタバレ感想覚書
〇ヤクザ/お仕事パート整理
〇矢代/百目鬼深読み

(矢代メイン。百目鬼はモノローグ復活したらがっつりやりたい)

ていうかんじでまとめていきます。

それではまず、48話のネタバレ感想覚書を。

******

4年間、無為に生きていた矢代。
生きる意味を失くし、以前よりさらにひどい自傷行為に身をゆだねていた。

それを知らずに4年前と変わらない矢代を想定して
自分なりに考え抜いた態度を取り続ける百目鬼。
冷淡すぎる態度の真意は、矢代も読者もわからないまま。

ただ、
百目鬼にとって「井波」という存在は超イレギュラー。
井波が絡んで、被った鉄仮面が壊れだす。
矢代に対して無表情をなんとか維持してきた百目鬼が
自分で我慢しろと言った翌日にもう井波と一緒にいる姿を見て
ついに感情―怒りを露にした。

再会した瞬間から自分を取り繕えなくなった矢代、
冷酷な無表情が綻びはじめた百目鬼。

※毎度のお約束:
 以下がっつりネタバレ含みます。
 登場人物の心情とかストーリー解釈とかは
 あくまで個人の見解です。

******

なにも
なかったふりをする

******

前回のラストで
「来てもらいます」と言った百目鬼が矢代を連れて行った先。
百目鬼の家に連れてかれたらどうなっちゃうの、
いやもうどうにかなっちゃえよ、とか思っていたけど
矢代が連れていかれたのは綱川邸。
矢代の手首を強くつかみ、ぐいぐい引っ張りながら廊下を歩く百目鬼。
途中で、ていうかそろそろ目的の部屋につく直前くらいに
その手を振りほどいていたけど
だったら最初から振りほどけるよね。
おとなしく手首握られてついてきちゃってさ!

んな強く握んなよ
首に縄つけられないので


振りほどいて
俺が逃げてくとでも思ってんのか

ええ思ってます
何度か置いていかれているので


ああ言えばこう言う。
百目鬼に言われて矢代が思い浮かべたのは
最後に置いていったときの情景。
逃げても言葉で傷つけても自分の側に戻る百目鬼を
物理的に傷つけてまで遠ざけた、あの時。

自分のしたことって案外忘れる、と言うと

わかりません
俺は忘れないので


矢代が覚えているのは
されたことと言われたことばかり。
全般的の話か、百目鬼にされたこと・言われたことか。
覚えてる。されたことも、言われたことも。
百目鬼は自分がしたことも言ったことも覚えてる。
もちろんされたことも、言われたことも。

首に縄付けたいのは本音。にじみ出る束縛欲。
逃げると思ってるのも本音。もう逃がしたくない。絶対にだ。
標的を絶対に逃がさない百目鬼が唯一逃げられてるのが矢代だからね。

どうやら神谷が矢代を呼びに行くのを制して
百目鬼が、自分の意志で矢代を呼びに行ったらしい。
あふれ出る独占欲・束縛欲。

連の前に腰を下ろした瞬間から矢代がヤクザモードに切り替わる。
ヤクザじゃないんだけどね今は。
百目鬼と再会してからふわふわしていただけに
座ってタバコを吸って桜一家の若頭と対峙してる姿が激しくカッコイイ。
道心会会長・三角の懐刀と言われて思わず爆笑するも、
三角の「おつかい」でこの件から引かないでいることを認める。
井波と会っている理由を聞かれて「情報交換とセックス」と答える。
本当の話に嘘を混ぜ込む。
交換はしていない。井波からもらうだけ。
もらった情報と引き換えにしているのは…あんなのはセックスじゃない。

どうやら事態は思ったより深刻。
平田が起こした内部抗争とは比較にならないっぽい。
このヤクザパート、ぼんやり読み流していたことを猛省したので、
上記の通りこの件は別枠で詳しく。

手を引かない矢代に連は監視と護衛を兼ねて百目鬼か神谷をつけようとする。
矢代のどっちでも、との答えに百目鬼が「神谷さんで」と食い気味に進言。
監視と護衛だよ。側にびったりだよ。そんな超おいしい立場をなぜ神谷に。
迎えに行く役さえ神谷から奪ったくせに。
「俺は俺で動けたほうがいいので」
と百目鬼は言うけど、本当に?

その言葉に横目で百目鬼を見つめ、スンとなり視線を落とす矢代。

矢代のマンションに向かう車内で
神谷は文句ブーブー。
「避けられてんじゃねーの?」と神谷に言われ
「そうなんだろうな」と軽く答えると
アンタが現れてから珍しく苛立ってるし、と聞いて
表情が硬くなる矢代。私わかるよ、傷ついてる横顔。
矢代の表情、どんどんわかりやすくなる。

でもすぐに神谷可愛がりモードに切り替わり、どSっぽくいじり倒す。
神谷どうして自分がやられる側だと思い込むんだw
たとえ矢代がそう言ったとしてもだw

マンションの入り口に百目鬼が待ち構えていた。
護衛のための得物を届けにわざわざ。
追いかけてきたのに自分のほうが早く着いたことにも苛々。
黒い袋(ゴミ袋っぽいけど)を神谷に渡し、矢代に

最初から知ってたんですか

と今回の諸々を問うと矢代は
実に素直に状況経過を話して聞かせる。
三角におつかいと称して頼まれた調査、その凄腕っぷりを淡々と。
いなさない、隠さない、嘘をつかない。矢代が。

聞いた百目鬼はため息をつき、

あなたにはいつも敵わない

と小さくつぶやく。
それを聞いた矢代のスイッチが突然入る。

歩き出した神谷の襟首を左手でつかんで引き倒し、
右手で百目鬼のスーツをつかんですごい勢いでマンションに連れ込む。
その素早さと力強さ。
尻もちついて呆然と見送る神谷、
引っ張られ唖然とする百目鬼。

やっぱ
お前でいい


お前  でしょ、とは全読者が突っ込んだところだけど
これが恋愛偏差値底辺の矢代の精一杯だと思えば。
これ相当がんばったやつ。

エレベーターに乗り込み、「閉」ボタンを探る矢代の手に
自分の手を重ね、「開」ボタンを押し、
矢代の耳元ちょい上で背後から

戻ります

その言葉にあからさまに傷つく矢代。
そんなにはっきりと顔に出すとは。
でも百目鬼は

さっきの荷物取りに

と言いながらエレベーターを出る。

その後ろ姿に

何で
神谷って言った?
お前で我慢すんじゃなかったのか?


我慢しなかった矢代の言葉に百目鬼の表情がかすかに緩む。

井波がいるんじゃないんですか?

言われた矢代は

あいつとは……

と言いかけて黙り込む。
身体で情報を買ってるだけだ、しかもそこに快楽はない、と
言えればね。

なんでもねえ、とごまかした矢代に促され、
百目鬼は入り口に戻る。

******

繰り返すけど
46・47話があまりにもつらすぎたので
今回の話は流れも内容も楽しめました。

鎧が壊れた矢代はただただ痛々しくて
4年間井波に暴行を受け続けていることも
百目鬼との再会後目に見えて混乱し浮ついていることも
その百目鬼の態度にいちいち傷ついてる姿も
ひたすらつらかったんですよね。

マンション前で突然動いたこと。
きっかけはおそらくだけど
ずっと冷酷でなんなら上からな態度だった百目鬼が
「いつも敵わない」と言ったことかな?
いつも――つまりずっと自分を想いながら行動していたようなつぶやき。

百目鬼を自分の方に引っ張る行為は3度目だけど
(3巻での久我に対するヤキモチ、4巻でのレクサス連れ込み)
あんな強くて激しいのははじめてでしょ。
欲しい言葉ももらえない、してほしいこともしてもらえない。
欲しいなら…自分から求めなければ。

4年前、「やっぱ」に続いたのは拒絶の言葉だった。

やっぱ ヤんの やめる
お前は 嫌だ

からの

やっぱ・おまえで・いい
あれが、こう!

前話の扉の「ほしいものはなんなのか
これが答えだ!


苛々している百目鬼。
思い当たるふしがありすぎる。
矢代がまだほかの男としてること(おまじないかけたのにね
よりによって井波と繋がっていること。
おそらく、再会後の計画が崩れてること。

心が揺れないように極力矢代の顔を見ない。
風呂場でがっつり対峙して、抱き寄せてキス寸前までしたのは
井波からの着信で嫉妬が暴走したから。

百目鬼はもともと矢代がらみだと観察力が研ぎ澄まされてた。
初めて会った時も相手が刑事だとわかったり
惚れた相手が影山とすぐ気づいたり。
井波さえいなかったら…もしくは井波の存在を知るのがもっと遅かったら
矢代の変化にも気づけたかな?
手元が狂いがちだったり、感情を露にしたり、
本当のことをを言うようになったり。

今回も、連に詰められたとはいえ
矢代にしてはずいぶん正直に話したと思う。
マンション前の会話もそう。
知っていたんですかと聞かれて
あんなにすらすら本当のことを話す人ではなかった。
井波のことと身体のこと以外、矢代は百目鬼に嘘をついていない。
とんでもなく大きな変化なのに。

護衛&監視の件、
なぜ神谷に譲ったか。
井波に対する怒り、矢代に対する怒りもあるだろうけど
そんな状態で側にいたら思わず箍が外れそうだからかな?
それともひとりで井波のことを調べようと思ったりした?
それとも??

百目鬼は
矢代と対等の立場になりたい、できることならそれ以上の存在になりたい。
矢代に認めてもらいたい。
自分には不向きなこの世界で、泥を啜り必死に頑張ってきたはず。
でも…矢代の話を聞いて、自分が対等どころかまだまだたどり着けないことを知る。
そのやるせなさが思わずくちからこぼれた。

その瞬間、矢代が思いもよらない行動をとる。
自分を引っ張ってマンションに連れ込む。
矢代に選ばれた自分。顔が…レクサスに連れ込まれたときの顔に!

神谷を押し付けて矢代から距離を置こうとしていた百目鬼、
矢代に選ばれて断ったりはしない。
役目交代を受け入れ、得物を取りに神谷のもとへ。

ただそのー、まず「戻ります」っつったから
矢代が「マンションの外に戻って神谷を連れてきます」ってとらえて
はっきり傷ついたじゃん!
百目鬼ってそういうとこあるよね!
良かれと思う行動の移し方が微妙なとこ!
盛り上がってるときに身体離して枕取りに行ったりさ!
妙な倒置法やめて!「得物を受け取りに戻ります」くらい言って!

はっ
今回だけでも冒頭からこの人倒置法連発だったよ…

何で神谷って言った?
と矢代に聞かれたときの百目鬼の表情。
張り付いていた冷たさが消えてる。
エレベーターの開ボタンを押した時の目にもやわらかさが。
これまでも表情が緩んだことはあったけど
(矢代が自分を覚えていたことに緩んだ顔を神谷には見られてる)
矢代の前では見せてないからね。
自分は求められていないと思い込んでいる百目鬼、
はっきり求められてついに攻め方を変えるかな?

お前で我慢するんじゃなかったのかと言われて
井波のことを出したのは嫉妬と独占欲の表れ。
約束を守らなかったのはあなたなのにと。
でもその百目鬼の嫉妬と独占欲に矢代は気付かず井波の名前を出されて動揺し
あいつとは……と言いよどむ。
言いよどんだ意味を百目鬼もまた気付けない。


自分で選んで百目鬼を引き入れた矢代、
矢代に選ばれた百目鬼。

神谷はこの事態を綱川や連にどう説明するのか。
説明された綱川は百目鬼をどうするのか。
すっかり忘れかけてたけど七原の立場は。

公式のつぶやきにまんまと乗せられる、
次回が待ち遠しい!
しかも上げ気味で!!

追記:

そうそう、そういえば
この48話で百目鬼のスーツの胸ポケットに
いままでなかったポケットチーフが突然現れたのよね。
どうしたいきなり。
アレか、45話で城戸が矢代の顔に唾吐いたとき(重罪)
ポケットチーフで拭きとったのを見て
その存在に気付いてまねっこしたのかな。
う、かわいい。
無表情でしれっとそんなことしてたらかわいいが過ぎる。

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