胡粉の話 社寺装飾編
「制作のながれ」で胡粉スイッチが入ってしまい、
これを機にとことん胡粉について思うことの話をします。
あまりにも日本画や日本工芸と胡粉が結びつきすぎて
うっかり考えたこともありませんでしたが、
貝殻由来の白い顔料は、どうやら日本だけのものではないようで。
とはいえ、充分に嗜んでいない文化の話をするよりも
よくよく親しんだ範囲内で胡粉の話をします。
自分の愉しみのみを優先して語る胡粉。
色々あります。
胡粉と墨で演出するツヤツヤの黒の話もそのうちします。
それはさておきまして。
まずはの社寺装飾・社寺塗装での胡粉さんから、ゆるゆる参ります。
さて。
◆部材保護の胡粉さん
さて、胡粉なんて馴染みがないよという前にこちらの画像をご覧ください。
社寺で見かけるこの白い塗装、これが胡粉です。
あんまりにも溶け込みすぎて、
もはや白塗装など目を止める方がいないように思いますが、
社寺の単色塗装の王道は、この胡粉塗りです。(言い切った)
シンプルに何も塗らない素木も綺麗なのですが
木材は木口が非常に傷みやすいために、塗装という保護があると良い。
木口は繊維の断面なので、水をよく吸い、かつ乾きづらい。
故に腐りやすく朽ちやすい。
こんな感じにボロっとなります。
この蟇股さんも木口に塗装をしていますが
それでも経年とともに否応なく劣化して参ります。
上の肘木木口はアクで黄色くなりつつもまだ保っていますが、
蟇股の方は雨当たりの影響かだいぶきてますね。
屋外だもの、仕方あるまい。
そうしたわけで木口には塗装。
もうちょっと贅沢にするなら金具なんかを取り付けて、
大事な材の保護を行います。
一番に守るべきは材なのです。
塗装は定期的な塗り直しをするのが理想。
シンプルなコントラストを生み出しつつ、べらぼうに安価な胡粉は
やはり社寺塗装のスタンダードなのです。
◆演出としての胡粉さん
同じ単色塗装の胡粉でも、
少し装飾的な演出で用いられていることもあります。
わかりいいのがこちらですね。
こちらは木口保護の塗装に加えて
装飾としての彫りを際立たせるため、地の部分を胡粉一色に塗っています。
こうなると「保護」プラス「装飾」ですね。
材の黒味と相まって、シックな雰囲気が演出できます。
もう少し極端な例でいきますと、有名どころの陽明門さんがわかりやすい。
おおぅ…となりますがこちらの陽明門、
当初は柿渋・鉄漿で木を染める「唐木染め」だったと考えられており、ケヤキの木目を活かした仕様だったそう。
幕末頃から胡粉塗りに変わり、今はすっかり白一色。
龍や牡丹など胡粉を塗らずにデザインを浮かび上がらせ
金具は全て金、ということで、白黒金のシンプルゴージャスな演出です。
◆装飾としての胡粉さん
お次はさらに装飾的な胡粉です。
彩色の「白」や下地にも多用される胡粉さん。
さて次の画像の文様を描く場合、どれぐらい胡粉が活躍してるでしょうか。
この彩色では、
実に4つの工程で胡粉さんが登場しています。
①置き上げ胡粉
わかりづらいかもしれませんが、金色ラインは盛り上がっています。
この盛り上げを作っているのが胡粉、そして鉛丹です。
胡粉と鉛丹を混ぜたものを『丹具』と言いまして
これが非常にオモシロイ材料。
鉛丹と胡粉の比率は重量比で5:5もしくは4:6くらいが多いです。
(ただ、鉛丹と胡粉の比重が違いすぎるので
粉のボリュームで見ると、胡粉が圧倒的な量です)
それを膠液で練りまして、
胡粉団子よろしく、丸めてまとめます。
これは胡粉みたいに百叩きしません。
鉛丹は非常に比重が重い(なんせ鉛)ので
百叩きすると乳鉢が割れます。
おとなしく乳棒で溶いていきます。
この丹具をもってして、盛り盛り、置き上げをする。
丹具を置いて、盛り上げていくから『置き上げ』というわけです。
この置き上げは、丹具ではなく胡粉単体でやることも可能です。
というより古法は胡粉のみで、
江戸時代頃より鉛丹を入れることで粘りと強度が増した丹具の置き上げが広まりました。
②下地胡粉
丹具でやはり紙幅を使ってしまいました。
も少しさくさく行きましょう。
次は下地の胡粉です。
この手板は木地に漆で下地を作り、その上から丹具を全面に塗っています。
鉛丹を使うことで、金属の喰い付きを活かした下地にしているわけですが、
いかんせん鉛丹、赤いので。
いまいち発色が…ということからか、
1回下地に胡粉を塗って真っ白い気持ちを取り戻します。
③上塗り胡粉(白色としての胡粉)
続きまして、
盛り上げだの下地だのではなく、白色としての胡粉利用です。
ちょっと何やってるかわからん図ですが、
白の上に白を塗っていますね。
完成形で「白色」として見てもらう部分に再度胡粉を塗ることで
パッツンパッツンの白にします。
胡粉の単色塗装でもそうですが、
上塗りの色に塗りムラがあることを「透ける」と言いまして
これは完全なるNGです。
なんやかんや注文と施工が合わないこと
顧客、現場が気に食わないことなどあったとしても、
透けていたら問答無用でアウト。
ですので、白に限らず色はパッツンパッツンに止めるのです。
④ウス(具色)としての胡粉
繧繝彩色では「白」の次に「ウス色」を塗ります。
繧繝説明はこちら ↓↓
先ほどの「白」を残して、ウス色を塗っていきます。
このパステルカラーを混色して作るときに胡粉を使い、
それを『○○具』と呼びます。
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そしてコイ色、岩かけを終えてこちらが完成品。
この一見カラフルな代物にも
4つの工程に渡り、かの白色顔料・胡粉が用いられているわけです。
こんな感じで社寺装飾における胡粉使用率は高めです。
大正以降、現在の仕様でいきますと、
「置き上げ」以外の用途ならば、貝殻胡粉ではなく水性の樹脂塗料とかで代用もします。
それはもう求められる結果に即した材料を使うだけの話ですので
昔「白土」や「鉛白」であった『胡粉』が
貝殻胡粉に大半移り変わったことと何ら変わることではありません。
今の私たちの生活で目にする「白色」は
もはや貝殻胡粉ではないものの方が多いわけですから。
次回は少し、そんな現代ならではの業界裏話。
『貝殻胡粉にそれを求めるか』
という、数年前に業界を慄かせた胡粉話を予定しております。
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
また次回の投稿で。
おまけ
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