羽ばたけなかった翼。

それがMRJ。

三菱重工業が開発をしていたリージョナルタイプの旅客ジェット機。
YS-11以来の国産旅客機を飛ばすべくやってきたものの、結果として失敗してしまいました。

原因はハッキリしています。
三菱重工業内での部外者から見たらとってもくだらねえ内部闘争と組み立てに対する知見不足。
本社と現場間でだいぶやりあったと聴きますし、さらに輪をかけて現場内でも「名航」の伝統を引き継いだ誇り高きプロパーと中途で入ってきたエンジニアとの意識齟齬、もっといえば衝突がかなり有ったと聞きます。
もっと言えば戦闘機の製造や、旅客機へのサプライヤーとしての知見はあってもそれが旅客機を組み立てるのに繋がらなかったということで、それが致命傷になってしまったようなのです。
そういう要素が相まって開発が遅々として進まず、試作機はできてもFAA(アメリカ連邦航空局)から型式証明を取ることすらままならず(FAAから型式証明を取れないと実質世界中での商用飛行が認められない)、そう言っている間も開発がどんどん遅延していき、のっぴきならぬところまで来て本社が事実上の撤退を判断したわけです。
事実上の損切りという形で。

視ていてニホンのものづくりの恥部をみている思いでした。
もっと言えば目線が日本国内、もっと言えば会社内しか視てなかったのですから、おのずと世界が狭く縮こまって見えるんでしょうし、それがこういう無様な結果になったとも言えます。

片やホンダジェット(カテゴリーはプライベートジェット)は三菱重工業のように本社の南青山に蔓延る反対派のせいでプロジェクトを潰されかねない存亡の危機をアメリカ・オシュコシュでの航空ショーで「実験」という口実で実機を披露するという賭けに出て、余りの反響の大きさに反対派を黙らせて危機を脱する形を取っています。
それはホンダジェットはアメリカを向いていて、アメリカ人に刺さったことで南青山の反対派の連中がぐうの音しか出せなくなったとも言えます。
なせならホンダはアメリカを日本以上の生命線としているのですから。
ちなみに難航した型式証明の取得もできてそのセレモニーにはオシュコシュの航空ショーでホンダジェットを当時は別の会社勤務で視ていたというFAAの長官自らホンダジェットの責任者である藤野道格さんに賞状を手渡した後にこう宣言するというエモいシチュエーションでしたし。
「The experimental is over. Go fly!(もう実験は終わりだ。さあ、⾶び⽴て︕)」
今やホンダジェットはホンダの稼ぎ頭にもフラッグシップにもなっています。
その影には藤野さんというトップとジェット機の開発を指示した(F1チームを率いたこともある)川本さんという二人の存在が大きいのでしょう。

そういう意味でもMRJは内向きだった上に三菱重工業内での徒労な戦いの果てに消え去ってしまったのです。
本来は幹となるべきチーフエンジニアもコロコロ替わっていたようですし。
さらに型式証明という見えない相手に対しても一枚岩になって立ち向かえていなかったようですし。
一応資産管理会社を作ってそちらに知的財産を移行させて外へナレッジを飛散させないようにはしてますけど、愛知県とアメリカにあった拠点は引き払い、人員も異動や解雇をさせて、肝心の実験機はアメリカの砂漠にある飛行機の墓場とされている飛行場で重機によって夜露に消えたと聞きますし。

ちなみにMRJの件をJAL SKY MUSEUMで担当の方とお話をしましたら、MRJの製造会社にJALからの出向者がいたそうで、MRJが飛べなかったことを悔やんでいたというお話を聞きました。
実際リージョナルタイプで、グループ会社のJ-AIRが運航しているエンブラエルE170やE190の後継機としてMRJを発注していたこともあり、思うところは有ると言うことでした。

MRJを通して視えたのは、今のニホンにおけるものづくりの限界でしょうか。
本社と現場がくだらなくて徒労な戦いに費やしてたらものづくりはできないということ。
さらには現場でもプライドの高いエンジニアが聞く耳を持たないとそれがより悪い方向に作用してしまうと言うこと。
成功体験があるとなまじかそれに引きずられて、新しいイノベーションを蔑む習性がありますからね。
なにより基礎研究をカイシャがしなくなったのも大きいでしょう。
大学とて資金不足で基礎研究がおそろかになっていると聴きますし。
なにせ基礎研究なんてカネを生まねえだろ?と研究の仕組みを知らない文系の役員連中(あと大学の執行部と文部科学省の上級官僚←背後に財務省)が言っているようですからね。

新しいイノベーションを産むには地道な基礎研究にトライアンドエラーとブレイクスルーをしていくしか道はありません。
そして失敗「も」許容するトップマネジメントが欠かせないのです。
おそらく失敗されるのをサラリーマン役員どもは避けたいんでしょうね、てめえらの保身のために。
そんなことなら日本のものづくりはもはやオワコンですけどね。
あ、もう終わってるか。
いろんな分野のものづくりを視ている限り。
自分たちで作るのを忘れて既製品のコピペで済ませて、ところてんみたいなプロダクトばかりができてますものね。
そしてニホンの技術をよりブラッシュアップして作っていく某国の存在も。
さらにできるエンジニアは絶望のニホンを棄てて海外へ旅立っていくのですし。
それじゃあ海外勢に勝てるわけないかと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?