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1年360日呑んでいた人間が“酒”を絶って得たもの

20年ほど愛し続けてきた酒をやめた。いや、正確にいえば「やめてみた」なのだが。一昨年12月から1年以上1滴も呑んでいない。昨年の正月は「呑まないぞ」と決め込んで過ごしていたが、呑まないことが当たり前になると、正月というものはとくに面白みがないものかもしれない。

お節料理は“酒の肴”として最高だ。カラスミ、数の子、田作……あんなに好きだったのに、呑まなくなるとそれほど興味がなくなってしまった。ささやかな幸せといえば、伊達巻を切らずにかぶりつくことくらいか。ただ、高級なものよりもごく普通のもののほうが、“ケーキ”っぽくて好きだ。

「酒は裏切らない」——1年365日中、360日酒を呑んでいた人間だった。

どうして酒をやめたのか? べつに身体を壊したわけではない。これといって明確な理由はないのだが、強いていうならば「酔っ払ってる場合じゃない」と思ったことだろうか。

やめてよかったのかは未だによくわからない。「禁酒」「断酒」でネット検索すると出てくるようなメリットは、嘘ではないと思うが、自分はそこまで大きな変化を感じることはなかった。ただ、「酒がなくても普通に楽しく過ごせる」という、ごく当たり前のことに気がついたのはメリットといえばメリットなのかもしれない。

酒では何も解決しない

お酒の味を覚えたての頃は友人たちとワイワイ飲むのが好きだった。いつしか1人でバーを散策するのが好きになった。飾り気のない焼き鳥屋もいいね。立ち飲みも覚えた。“1000べろ”お手軽でいいよね。コンビニでストロングゼロ買って路上でよくね?……あれ?

歳を重ねていくにつれ、酒を呑むスタイルが変わっていく。若い頃、駅などで缶ビールやワンカップを呑んでいるサラリーマンが不思議で仕方がなかった。「お店で呑めばいいのに」「家帰って呑めばいいのに」。だがしかし、いつのまにか自分も“そっち側”の人間になっていた。

それを否定するつもりはなく、楽しく呑めればいいと思う。本来、酒は楽しむものだ。けれど、自分はいつしか“楽しくなるため”に呑むようになっていた。仕事で疲れたとき、イヤなことがあったとき……そんなとき、睡眠時間を削って深酒をする。そして、次の日最悪な気分の朝を迎える。

夏の野外で呑むビールは最高だ。音楽フェスやイベント、ライブハウスで呑むのもいい。だが、冷静に考えればそのシチュエーションや高揚感に対価を払っているのであって、単に“味”だけをみれば、お店などに比べれば劣る。だから、ライブに行く前にお店で呑む、酒屋やコンビニで買って呑む。終わってからも呑む。はて、自分はなんのために酒を飲んでいるのだろうか?

「呑みに行こう」——そんな言葉で始まる人間関係。親しかろうが初対面であろうが、酒を酌み交わすこと自体がコミュニケーションになっている。

もはや味や楽しさではない気がした。酔っ払うために飲んでいるのか? 酔っ払わないとやってらない…… あ、これ依存してるだけだ。

「酒は裏切らない」……けれど「酒では何も解決しない」

そんな根本的なことに気づいた。というか、覚めた。そう思ってから呑んでいない。

酒をやめて得たもの

酒をやめて得たものなんだろう。正直、他者に勧めるほどのメリットはないと思う。身体のためにやめた人なら感じることも多いのかもしれないが、自分はとくになかった。やめる前に毎日酒を飲んでいても、食事に気を配りながら1年で体重を15kg以上減量して20代の頃の体重を取り戻したし、その前にタバコをやめたときのほうが、生活習慣を含めた変化は大きかった。酒をやめて良かったこと、強いていうのなら「酔っ払うことがなくなった」ことだろうか。

そんなこと当たり前だと思うかもしれない。ただ、考えてみてほしい。呑む人にとって「お酒の失敗談」の1つや2つはあるだろう。電車で寝過ごした、といった些細なことから他人様に迷惑を掛けてしまったこと……。そうした失敗へのリスクがなくなるわけだ。そして、二日酔いの悪夢を味わうことがないので、毎日心地のよい朝を迎えられるのは事実である。それがメリットなのかどうかは個人の考え方次第かもしれないが、自分の場合、トータル的に見て“ラク”に生きられるようになった気がする。

デメリットだってある。いわゆる自分に対する“ご褒美”的な存在がなくなるため、メリハリがつかないときがある。スイーツなどの甘いものに置き換えることもできるのだが、自分の場合は元々甘いもの好きで、「ビールと餡子」「ワインとケーキ」という組み合わせを好んでいたため、そうした恩恵に預かれない。より甘いものを欲するようになったのは事実だが。

なにより困るのは、酒を飲む人との会食時だ。ノンアルコールの定番といえばウーロン茶だが、一般的な居酒屋メニューには合わない飲み物だと思う。むしろ食後に飲みたい。だから“水”でいいのだが、日本の飲食店事情を考えれば“水”を頼むのは気が引ける。飲食業界は有料のミネラルウォーターか、炭酸水を導入すべきだと思う。

実際、酒をやめることはそれほど辛くなかった。呑みたくなってノンアルコールビールや炭酸水で誤魔化したことも多々あったし、夢の中で“乾杯”したこともある。ただ、禁煙したときのことを思い出せば、苦痛でもなんでもなかった。

「もう一生酒は飲まないぞ!」とは思ってやめたわけでもないし、この先のことはわからない。呑みたくなったら呑むだろうし。ただ、今のところ、「こういうときに呑む酒は美味しいよな」と思うことはあっても、「呑みたい」に至ってはいない。ただそれだけである。

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