青春をタマゴでくるんで(SS作品)
『先輩、パンケーキ食べにいきましょう』
大学時代、友達とオムライスを食べたあの店がパンケーキ屋に変わっていると知ったのは後輩からのそんな誘いがきっかけだった。
数年ぶりに訪れた古民家をそのまま利用した店の外観も内装はあの頃と変わりなく、懐かしいとすら思える。
それでもここは、友達と一緒に資料を広げて必死にレポートに追われたあの空間ではないのだ。
(こうして変わっていくんだ)
いくら見た目が変わらないとしても、着実に変わっていくものがある。
大学時代、オムライスをスプーンでつつきながら「結婚なんて」と言っていた友達がウェディングドレスを着て、大学の頃と変わらない笑みを浮かべていたように。
他人と話すことが苦手だった私が営業職に就き、後輩と呼べる存在ができたように。
少し前の私では考えられないことだ。かつてこの店でオムライスを食べていた私自身だって、今の私の姿を見れば、ひどく驚くだろう。
「先輩、何にします? 私はこのスペシャルパンケーキにします!」
メニューを見て目を輝かせる後輩の姿は、かつての友達とどこか似ていた。
(変わっていくものもあるけど、変わらないものもあるのかもしれない)
店内には大学生らしき女性客や男性客の姿があり、それぞれが授業のレポートや手帳と向き合っているが、その表情はどこか楽しそうだ。
私がそうであったように、彼女や彼らにとっては今ここにあるこの店が懐かしい空間になるのだろう。
「……知ってる? このお店、私が大学の頃に通ってた頃はオムライス屋さんだったの」
そうなんですかとメニューに載っている写真のパンケーキに負けないくらい目を丸くして驚く後輩に、私は思わず声を上げて笑った。
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