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【作品】ここだけのお話(だいたい無料)

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詩作品/エッセイ/書評ほか(note限定で公開、雑誌からの転載含む)
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#現代詩

パラレルワールドのようなもの

パラレルワールドのようなもの

新宿の雑居ビルの地下に
足踏みペダル式のアルコール噴霧器が
ひとりきりで佇んでいる。
地下の階段はひんやりと空気が冷たい。
こんな人気のない場所にも置かれているのか。
傷んだブーツのつま先でペダルを踏めば、
プシュウ……と勢いよく消毒液が噴射され、
長い余韻と共に、飛沫が床一面をしっとりと濡らした。
差しだしたはずの手が、足が、身体ごと消えていた。
心音もない奇妙な静寂に、私はただ濡れている床を見

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クリスマスの詩です🎄🌠

〈大人になったわたしたちの枕元に
日々を運んできてくれるのは
いったい誰のしわざ?〉

詩「贈りもの」文月悠光

*「婦人之友」2018年12月号掲載のミヨシ石鹸さんの広告に執筆🎁
毎月、裏表紙広告欄に〈洗う〉をテーマに詩を書き下ろしています✍️

過去の詩は、ミヨシ石鹸さんFacebookページでも公開中🌠
https://www.facebook.com/mi

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【劇中詩】この街へ来たことが正しく思えるように

【劇中詩】この街へ来たことが正しく思えるように

この街へ来たことが
正しく思えるように
私はわたしを演じてきたんだと思う。
ありのままの私じゃ誰も欲しがらないから
鍵をかけて、その場所をあとにした。
それでも私は
ほんとうの名前を忘れたことはなかった。

いつか きみは
きみ自身を取り戻せるだろうか。

羽ばたきの数だけ
わたしの嘘は増えていった。

誰でもよかった。
わたしがいなくても
誰かがわたしを演じてくれる。

失う勇気もないくせに

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乙女座の恋愛詩のつくり方

乙女座の恋愛詩のつくり方

占いコラムサイト「ココロニプロロ」の連載〈12星座の恋愛詩〉では、毎月、各星座を主人公にした恋愛詩を綴っています。

その連載と連動する形で始まった、新マガジン『「12星座の恋愛詩」のつくり方note』。今回は「乙女座の恋愛詩のつくり方」と題して、乙女座に宛てた恋愛詩「片恋の地平線」の制作の裏側についてお届けします!

「星座占い×恋愛×詩」…このどれかに興味のある方には、きっと楽しんでいただける

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17歳のわたしへ。この夏で27歳です。

17歳のわたしへ。この夏で27歳です。

明日から長月。新学期が始まる中高生の子たちのことを思って過ごした。
大人は「諦(あきら)めるな」「頑張ればできる」と、あなたへ言うかもしれない。あなたが苦しんでいる最悪なときに。でも、諦めたことのない大人なんていません。みんなちゃんと、色んなことを諦めて「大人」になっています。
 
「あのとき諦めなければ…」と弱い大人は無意識に後悔しています。だから若いあなたを見つけると、余計な励ましの言葉をかけ

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新マガジン『「12星座の恋愛詩」のつくり方note』について

新マガジン『「12星座の恋愛詩」のつくり方note』について

新マガジン『「12星座の恋愛詩」のつくり方note』を始めます。

マガジンについて詳しく説明する前に、まず新連載のお知らせをしなければいけません。

占いコラムサイト「ココロニプロロ」にて、詩の連載〈12星座の恋愛詩〉が始まりました!
毎月、各星座を主人公にした恋愛詩を綴ります。
挿絵は、イラストレーターのコイズミリカさんに描き下ろして頂きます。
詩とイラストの贅沢なコラボレーションをお楽しみく

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言葉から意味を剥がす/詩と予言

言葉から意味を剥がす/詩と予言

最初の記事で宣言した通り、「わたしの現代詩ノート」は、主に資料の引用、ときどき日記以上・エッセイ未満の読みものを想定している。
色んな人が過去/現在「詩」について書いていること、イベント等から見聞きしたこと、それに対する私の感想もあればたまに添えようかな、ぐらい。
「引用だけで、お前の意見はないのかよ?」という反応を受けそうで怖いのだが、あんまり「文月悠光が何かやっている」という印象を与えないよう

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「孤立」についての覚え書き

「孤立」についての覚え書き

年に一回だけ、同じ占い師さんに仕事のことを占ってもらっている。
その人は客を励ましたり褒めたり一切しない。良いことも悪いことも淡々と伝える方なので、行ったところで悩みが晴れたり、安心したりすることはない。むしろ盛大にモヤモヤさせられる。そういうところが唯一気に入っている。

今月、1年ぶりに占いに行ったら、話の文脈は伏せるけど、「このまま流されていると、来年の夏に孤立してる」「誰にも見られていない

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「わたしの現代詩ノート」は、独りよがりな実験である。

「わたしの現代詩ノート」は、独りよがりな実験である。

詩から孤立しないように、詩について何か書いておきたいと思ったのでした。

孤立の中に詩があるというのに脆弱な、という意見もあるだろうけどね。
おまえが孤立してるのは○○(世間、とか業界的な何か)からだろ! という突っ込みも脇に置いておくよね。

○「わたしの現代詩ノート」について
「わたしの現代詩ノート」と名づけて、詩について書くマガジンをはじめてみることにした。
穂村弘さんの『ぼくの短歌ノート』

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壊れながら、わたしへ|詩「光の巣」

壊れながら、わたしへ|詩「光の巣」

いつか破片となって散るときに、教えてほしい。
すべては光のように
「ここ」へ そそがれた存在に過ぎないと
壊れながら、わたしへ
ただ一つの鍵をあずける。

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   光の巣

                 文月悠光

日常へ引き戻されていく
朝の顔を鏡で確かめていた。
起き抜けは、尻尾を生やしていたけれど
だんだんと人間じみて
見知

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生まれ直すために――「別れ」について

生まれ直すために――「別れ」について

 桜が散ってしまう前に読んで欲しいお話です。
「詩と思想」2017年3月号に、〈別れ〉をテーマに書き下ろしたエッセイです。

 私はいつも言葉を探す。
 私に「私」という、魂の重さを与えてくれる言葉を。

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   生まれ直すために

 毎年桜の花を見るたびに、涙を思い出す。別れのときに流した涙のことだ。

 満開の桜を眺めていると、宇宙や遠い

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