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文月悠光 詩と朗読ムービー

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詩の朗読の音声・動画をまとめています。YouTubeに再生リストがあるので、併せてどうぞ⇒https://www.youtube.com/playlist?list=PLnijS… もっと読む
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#詩

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季節の終わりから
こぼれてしまうことを恐れないで。

 *

星は誰かに見つけられて、光を教わる。
光はまだわたしを照らしているか?
その答えは足元にある。
地に影が伸びるのは、
光がわたしを見つけた証。
わたしは影と共に歩きながら、
かつて手を結んだもう一つのかたちを
自らの影に探し求めた。

忘れ去られた花にも花の役目がある。
人知れず果たしてきた人生の責務。
闇夜の気配に振りかえると 木々は

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大事なものを遠ざけて生きることに、
ほんとは慣れてしまいたくなかったよ。
閉ざされた扉と 揺れる貼り紙、
風に鳴るシャッターとギターの音色、
西日の中、うつむいて歩き去る人たち。
この街のどこかに きみもいるのかな。

知らない誰かが決めた正解で、
見えざる評価、見えざる手によって
わたしの人生も操作されてきた。
慣習に立ち向かうか、いっそ身を任せるか。
人によっては一生考えずにすむ選択を
必死に

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夏の亡骸をつかんで
心を決めるためにペダルを踏んだ。

 *

嵐のような雨上がりの朝に
からだの熱が揺らめいた。
潤っていく空気と、絶え間ない呼吸。
飛び出しそうな鼓動の近くで
みずいろの静けさを焦がす。

制服姿の小鳥たちが巣立ったあと、
学校は抜け殻のようにきれいだった。
鳥たちは迷うことなく空へ
大きく波を描き、光を渡っていく。
スカートの影がながく伸びて
わたしを切なくさせる。
制服の魔

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立ち上がるときは
ひとりの方がいい。
だれかと足並み揃えるよりも
裸足で無防備にさらされること、
その贅沢を足裏で味わうために。

立ち上がるときは
ひとりの方がいい。
海辺を わたし一色に染めるため。
空が晴れるのを見計らっていたら
日が暮れて取りのこされる残骸の身。

もう長いことうずくまっていて
立ち方がわからなくなっていた。
わたしだけが低い目線で、
なすすべもなく世界を仰ぐ。
みんなが走

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どこかに行き着くまでは
わたしも名も無きひとりです。

 *

その朝に名前はなかった。
キオスクに並ぶ雑誌の表紙だけが
あざやかに様変わりしている。
輪っかのかたちの路線図を見上げれば
日々は電車のように駆け入ってくる。
開くドアへ足を向けるのは、
わたしの顔をした誰か。
肩を不自由に扉に押しつけて
もうすこし
ここに触れていたいと願う。

あなたも わたしも鮮明ではない。
それぞれが違う現実を

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綿毛に包まれた種たちは
土のぬくもりを知っているから、
風のなかへ飛び込むのだろう。

 *

だれに受けとられなくてもいい、
わたしは差しだす。
どこに届かなくてもいい、
わたしは差しだす。
踏みつけられてもかまわない、
わたしは差しだす。
痛みを差しだすことが唯一
伝える手段なのだから。
声もなく 足音もたてずに
わたしは差しだす。

光に守られた綿毛はひとつの星雲。
日々の重さを綿毛にのせて

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きみとひとつになれなかった、
わたしを壊されそうで。

互いの傷あとを包み合って
そとへ 手放せたなら
砕けてもいい。
わたしは軽くなる。

 *

割れない泡のようなこころ たずさえて
ふくらむのにまかせていたら
いつしか重くなっていた。
ふるえる輪郭は、鼓動のあかし。
潰さないで 潰れないで、と
願いつづけて今を見る。
行き先はまだわからない。
それでも恐れず
青い風にのりたい。

つめたい鏡

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ティンカーベル、勇気を抱いて。

 *

これを何と名づけようか。
ぬぐっても ぬぐっても
ぬぐいきれない熱が頬の上にあって
わたしから降りてくれないのだ、
妖精のつま先が乗っているみたいに。
ティンカーベル、勇気を抱いて。
かしこいあなたは
かしこいままで生きていてよい。

きょうの肌を溶かして素肌のわたしになる。
つい先ほど肌だったものが、今やとろけて
指先を金色にあたためる。
この熱は、わた

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鳥は 降り立つ地点を
見定めてから、飛ぶのだろうか。

 *

こころに水を引いてみよう。
湧き出る水を引きよせて。
わたしが今夜眠るための
コップ一杯の水をください。

水底まで射し込む光。
魚たちは微かな光を聴きとって
生き生きと群れ、巡りはじめる。
魚たちの回転から、こぼれるように一匹
産み落とされたのは、新しいわたしだ。
踊れ 水平線を揺らそう、
永遠を描き切るまで。

鳥は 降り立つ地点

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自由にしていいよ、と
だれかに告げてみたかった。

わたしは
わたしに恵まれて
生きている。

 *

ただいま、と部屋へ呟いたら
耳をほどいていく儀式。
白いイヤホンを抜き取ります。
マスクの紐もそっと外します。
メガネも外してあげると尚よい。
冷えきった耳は先の方から赤らんで
聴くことを少し休みたがっているよう。
自由にしていいよ、と
だれかに告げてみたかった。

冬の樹は枝々に氷を咲かせて

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YouTubeチャンネル 詩の朗読の再生リストを更新しました。【12/31追記】

YouTubeチャンネル 詩の朗読の再生リストを更新しました。【12/31追記】

映像系のお仕事のご相談が増えてきたこともあり、YouTube「文月悠光の朗読」の再生リストを更新しました📚🌠

現在noteにも詩の朗読音声はアップしていますが、スマホでの日常的な録音はnote、スタジオ録音・パフォーマンス系のお仕事はYouTube、と一応は差別化しています◎

▶︎YouTube「文月悠光の朗読」

YouTubeチャンネル、朗読動画以外のアップは未定ですが、企画があれば何

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だからこんなにも あなたはきれいなのだと🌃

 *

左腕のあちこちに散ったほくろを
からだへ教えるように指で数えた。
ひとたび宇宙に飲まれたら
このほくろだけが光りはじめて
わたしは暗闇に溶けて流れていくのか。
その川は遠い街を彩るだろうか。

わたしがここにいることを
だれも知らない。
幼いわたしは、体育館の隅の
ネットにくるまり、息を潜めて
だれにも見つからない時間を惜しんだ。
いまは歩道

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夕陽に照らされた綿毛は、
宙(そら)かなたの星雲が降りてきたよう。

 *

幼いころ連れていた、犬のぬいぐるみ。
今見れば、こんなにも柔くちいさい。
ふわふわの毛を潰さないように
腕にひしと抱え込んで眠る。
わたしもこのように柔らかかった頃、
おおきな存在に守られていたのか。
だれにも見つからない夢のなかに
ひっそり かくれていたのか。
(もういいかい?)
こころの奥地へ 分け入っていこう。

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空の赤い心臓を目指して 幼いわたしが駆けてゆく。

 *

空をぐるりと見渡して
幼い指で光をなぞった。
光は歓び、たちまち雲間を泳ぎだす。
わたしは光の子ども。
月から生まれて 太陽へ還る。
この世の宝の地図に刻まれている。

洗いたてのシーツを
風に ぱんと張ってみるとき、
そこに日は昇り 日は沈む。
発光する白い地平線に包まれ、
わたしたちは眠る。
殴るような嵐のあと 一筋ひとすじの光となっ

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