愛は比べようもなく

愛は比べようもなく

   愛は比べようもなく
                  文月 悠光 

かけるべき言葉もなく
腕組みし合う日曜日。
幸福のかたちを思いあぐねて
わたしたち、ねじれてしまった。
ふくよかな花を立たせているのは
根のしぶとさと、地のしたたかさ。
春の風に倒されては
しなやかに身を起こす。

星と星を結ぶ線の手つきで
人は愛の地図を描き出す。
宇宙のスクリーンに投じられた、
迷い子のわたしたち。
どの星も一様に眩しくて
わたしには比べようもない。
かける言葉が無いならば
遠く呼んでください。
あなたの声が耳奥を撫でて
わたしの身体に
わたしの名を刻み込む。
あなたの声帯は
わたしの名にやわく震えて、
あなたの立つ場所を知らせるだろう。

夜空は無数の輝きを
濡れた瞳に明けわたす。
光は線を振りほどき、
波紋のようにひろがった。
見えない星は闇を塗りつぶして
いつしか、その色を深くする。


初出:読売新聞 2016年4月22日夕刊
 「タイトルに〈比べる〉という語を用いて詩を書いてください」という依頼を頂き、書き下ろした詩です。

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