見出し画像

【詩】空の境界

   空の境界
                             文月 悠光

暮れながら空は見ていた。
束の間の夕映えと屋根の反射にうずくまって
こごえようとするわたしを。

ここには風が立つ、
わたしの熱を奪っていく。
手足をきんと冷やして
冬日に入る仕度に取りかかる。
制服のスカートが湿ってくるまで
雪道にしゃがみ込んでいた。

待ち焦がれたために、どこへも行けずにいた。
どれほど見渡したところで
空に境界はなく、見通せることがなかった。
ビルの狭間で空を浴びながら、
わたしは自分の皮膚をにくんだ。
雪ならば空を映せたのに、
血や肉の方がはるかにこの身と親しいのだ。
青と地の接するところがあるならば
小雪となって降り立とう。
(溶けていきたい)
冬空とつながりたくて唇がとがる。
雪のにおいがうっとうしかった。

さよなら、雪明かり。
駆け込みたいほどの冬晴れの空。
あの青の深さを背丈のように測れぬものだろうか。
空の足もとで
ちいさく伸びをするわたし、成長期のつもり。
今はない境界線を目指して
空のまっただなかへ
冬芽を伸ばす。

※この記事は「投げ銭」制を導入しています。記事の続きはありませんが、もし気に入っていただけましたら、下記ボタンからお願いいたします。

続きをみるには

残り 0字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

投げ銭・サポートは、健やかな執筆環境を整えるために使わせて頂きます。最新の執筆・掲載情報、イベントなどのお知らせは、文月悠光のTwitterをご覧ください。https://twitter.com/luna_yumi