たったひとりの「わたし」を見抜いて。|詩「ばらの花」

あなたを守る
たったひとりの「わたし」を見抜いて。
わたしにとって
「わたし」はひとりきりだから。
あなたはあなたを
裁くことができますか。
自らのとげを
愛することができますか。
とげを愛してもらえなければ
花は花を生きられない。

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   ばらの花
                 文月悠光

弱さは見世物ではないから、
花びらを重ねて花の奥に潜めていた。
「強い人だね」と讃えられる度、
わたしはうれしげにそのばらを飾った。
何かの証、勲章のように。

とげを光らせているのは、
今の居場所をうばわれぬため。
そうして誰をも寄せつけず、
帰れないほど遠くなった。
ひしめく花びらのなかに
わたしは何を忘れてきたのか。
強くなることは、さみしいことだ。

(心を落としてしまったのです。「なぜ」と問われたら、理由でしかものが言えなくなるでしょう。黙って凍らせていた日々に、指を置いて呼吸をうながす。ぬるい唇をおしあて、かすかにわらう。この花の奥、なんてありふれた悲しみ、ありふれたむなしさ。それでもわたしに咲く花はただひとつ。平凡ではいられないから)

あなたを守る
たったひとりの「わたし」を見抜いて。
わたしにとって
「わたし」はひとりきりだから。
あなたはあなたを
裁くことができますか。
自らのとげを
愛することができますか。
とげを愛してもらえなければ
花は花を生きられない。

刺して知らせる誰かの指が欲しかった。
かまわず摘み取って、終わらせてほしい。
けれどこの花の奥に育てた
わたしの弱さは終わらせないで。
何を祝うための花でもなく
咲きほこってしまったばらの強さを
わたしは自らの手の中に
生けてみせよう。

ーー詩集『わたしたちの猫』(ナナロク社)よりhttp://www.nanarokusha.com/book/2016/10/08/3894.html

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