2018年間ベストアルバムの前に6選


 2018年上半期ベストは30枚挙げて30~16位を紹介しました。それより上位は年間通してのベストに絡むと思ったから。しかしながら年末が来てみると当時の感慨に遠近感がついてしまって思ったより残ったものが少なかった。年間ベスト20を紹介するとなると全く触れてないものが出てしまう、それは自分の気持ち的に納得がいかないのでここで感想を書きます。ついでにベスト20には入らなかったけど下半期の良かったものも触れます。


Smerz - Have Fun

 ノルウェー出身、コペンハーゲン拠点のデュオによるEP、XL Recordingsより。冒頭こそポストインダストリアル~コールドウェーブ的な音か思ったが、1曲目の最後ラスト30秒で全て持っていかれた。2017年のベストに選んだMhysaを想起する越境R&Bで、仄暗い空間を消え入りそうな意識をもって舞い泳ぐ。悪寒や鈍痛の感覚に僅かに含まれる心地よさを最大限引き延ばしたような音。聴き終わってみてジャケの不穏さに納得。ビートの引き出しも豊富だ。



Sleep - The Science

 ストーナーレジェンド、Sleepが実に15年ぶりの新作を発表、そして奇跡の初来日を果たしたことは間違いなく2018年の重大ニュースだった。この新たな聖典、そのもの"Stoned”なジャケから、成程、というほかない…冒頭のギターノイズと衝撃波に身を任せれば、もはやヘヴィネスすら感じない漆黒のサイケデリアへ誘われる。聴くカンナビス体験と言ってしまうと月並みだが、これぞ本家な轟音ストーナーに留まらず、バグパイプかチベット仏教声明のごとく打ち鳴らされるドローンに意識を氷解していく「Antarciticans Thawed」、随一饒舌な「Giza Butler」(曲名!)、引き摺りつつ酔いが醒めていく最終曲「The Botanist」などフェーズごとのバラエティが充実している。紫煙の果てにミクロとマクロふたつのコスモスの照応を見るような点で去年のベストに挙げたDecrepit Birth『Axis Mundi』(こちらはSleepとは逆に意識を加速しきってホワイトアウトしている)を思い出したり。



国府達矢 - ロックブッダ

 日本のロックへの今日的な解の一つと感じた。水谷公生らが「ブッダ・ミーツ・ロック」と謳った頃を思うと、このアルバムにおいてはブッダ自身のロック性を見出し完成にまで導かれているのでは。またその間にどのような"転生"があったのか想像するのも楽しい。 独特の歌いまわしや拍節感覚に80年代以降のニューウェーブな感覚を持ったミュージシャンによるオルタナティブな試行(とりわけチャクラやオニ)が過る節もあるが、現代ならではのアップデートされたフォーム(リズム隊がskillkills弘中兄弟というのもキーだ)、そしてそれを血肉としたブッダの顕現に感嘆する。個人的には一番オーソドックス&ペンタトニックなインストながら、移ろう情景の美しい「蓮華」に今作の真髄をみた。



Sweet Valley - Eternal Champ II

 インディーサーフロックバンドWavvesのNathan Williamsと弟Joelによるサンプリングユニット。VHSテープやゲームカートリッジを細かく刻んで繋ぎ合わせたビデオドラッグを再生したら出てきた魔神の魅せるファンクドリームって感じ。現代のPlunderphonicsを通して、かつて人々がCold CutやDJ Shadow、あるいは2ManyDJsの音に初めて触れたときの驚きと喜びが蘇るよう。粗野に歪んだ質感も心地いい。クロノトリガーが格ゲーの打撃音でメッタ打ちにされる「Stalker」がお気に入り。



AMMAR 808 - Maghreb United

 Bargou 08名義で活動していたチュニジアのプロデューサーSofyann Ben Youssefによる新プロジェクトは、汎マグレブ音楽を凶暴なベースミュージックでカチ割ったとんでもない劇薬だった。とにかく圧倒的な威力のキックとベース、四分音階で沸きっぱなしな笛(これが地中海沿岸の音であることを再確認する)、まさに"マグレブ連合"なゲスト陣による濃い味な朗唱に否応なく血が滾る。個人的にはもはやMeshuggahやJlinに次ぐ発明。恐るべし…



Alwanzatar - Fangermer Gjennom Tig Og Rom

 ノルウェーの怪奇サイケトラッドTusmørkeのフルート奏者、Kristoffer Momrakによるひとりスペーシー呪術エレクトロニックプロジェクト、通算6枚目(?)。ジャーマンサイケやスペースロック、あるいはテクノ以前のシンセミュージックが骨子にあるものの、トライバルなキックの配置やアーメン(4曲目冒頭での使い方に爆笑!)などやけに今日的な音使いもみられる。ボス戦ではなくボス戦前のダンジョンみたいな暗黒気分も最高。Jaculaの別動隊Antonius Rexの1stを思い出したりもしたが、もっと好み。


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