2017年ベストEP20選

 2018年あっという間に一ヶ月過ぎましたね…年間ベスト第二弾としてのベストEP20選、大晦日の時点で半分は書けていたのですが年明けに部屋の片づけを始めてからそちらにかかりきりになってしまい(一時PCが起動すらままならない状況に)いつの間にかこんなことに。いっそのことベストアルバムは上半期ベストが出る頃にずらしてやろうかなどとも一瞬考えましたが誰も得しないのでなる早でまとめます。そして上半期ベストは早めに取り掛かろう…では気を取り直して20選、便宜上順位ふったけど順不同に近いかも。ジャケ画像にbandcampなどリンク貼ってますので気になったらすぐにチェックだ。Apple Musicでも9割は聴けるのでそちらは各自調べてください。


20. Lapalux / The End of Industry

 BrainfeederのリリースはThundercatがとにかく話題になったけど、他にもIglooghostやLapaluxと確実に攻め込んできた。タイトルから連想されるようなSF~サイバーパンク的世界感がマッチしそう。シンセアンビエンス、シーケンスに突っ込んだビートが絡んでくるM2、M3、M5が滅茶苦茶格好良い。しかしどういう時聴いて良いかわからない感じもする。


19. Yatta / Spirit Said Yes! (Deluxe Edition)

 厳密にはオリジナルは16年11月リリースだそうで、17年PTPよりのリイシューで知って聴いた。NY拠点のシエラレオネ系アーティストによる作品。祖母(曽祖母?)の葬儀のため南部へ帰郷したことから得た着想と霊験を込めたという、なかなかにスピッてる"心の香油"集。ジャズボーカル、ブルース、黒人霊歌などにドローンやエクスペリメンタルな音響アプローチというと20年くらい前からありそうだけど、近年のレフトフィールド化するR&Bとも似たムードに新鮮味があった。ちなみにはっぱ隊は無関係と思われる。


18. Joey Labeija / Violator

 ブロンクスのプロデューサー。アンビエント風だった前作から一転、ダンスホール調のビートに換骨奪胎したレイブサウンドとなっいる。曰くNYのクラブシーンで感じた寂しさや怒りを増幅したとのことで、いやはや踊らざるを得ない躍動感に満ちている。南米~アフロっぽいリズム装飾にガンギマったリード、関係ないが「Vulgar Displays of Power」つう言葉が浮かんでくるような気分。ブットビ!


17. Zuli / Numbers

 カイロのマルチ奏者兼ベースミュージックプロデューサーの2作目、Lee Gamble主宰のUIQより。UK由来のダークなベースにタイトかつトリッキーなビート、あらゆるものがメルトダウンしていく音響に脳みそとろけ出し何ズリでもいけてしまう。


16. Tomaga / Greetings from the Bitter End

 英サイケバンドのThe OscillationとVanishing Twinのメンバーによるディープサイケデュオ。エレキカリンバやトライバルなサンプル、ジャジーなモチーフが壺の中で煮込まれ煙を上げる電化呪術のような。ステレオラブのTim Gane擁するCavern of Anti-Matter、先端音楽の奇人Shit & Shineによるリミックスも収録。


15. Bonaventure / Free Lutangu

 闇を泳ぐビートにザクザクとサンプルをブチ込んでいくスタイルが特徴的なスイスのプロデューサー、PTPよりのリリース。曲によってはダーバンの暗黒ハウスGqomやシカゴのフットワークっぽい雰囲気もあるけどあくまで自分の語法でやってるのがいかしてる。ジャケが最高。


14. Lakker / Eris Harmonia

 ダブリンとベルリンのプロデューサーからなる実験テクノデュオ、片割れのEomac主宰のEotraxよりのリリース。ダブみのある地下テクノM1、地下通路でゼンマイの切れかかった玩具がカタカタ鳴り続けるようなM2、Burialの1stをよりシャープにしたような物音ビートM3、溶接を彷彿させるスパーク音に痺れるM4など、ダークでエクスペリメンタルといえどあくまで聴き手を突き放さない、イイ顔の音に溢れている。群れからはぐれ独りで鳴く機械にシンパシーを覚える方は是非。


13. CRCK/LCKS / Lighter

 ジャズ畑の凄過ぎるメンツによる凄過ぎるポップバンドの凄過ぎるEP。変拍子、連符のキメ、複雑なテンションコードなど、00年代後半以降のある種のオルタナティブなバンドが挑みがちなギミックも若気の至りのような先走り感はなく、抜群に安定して聴かせる(ことにむしろ違和感すらある)。一方で目立った尖りのないメロウな曲では桁違いな重量の演奏を聴かせる。職人的ミュージシャンをバックに従えた時代のポップス、が実働バンドとして出てきている、間違いのない品質と先進的な表現を両立した強すぎる存在。


12. Mina / Sentah

 bandcampの年間注目リリースにも選出されたロンドンのプロデューサー。トロピカルつうのかダンスホール気質の軽快で弾けっぷりの良い曲ばかり。季節問わず飯を温める間とか掃除中とかで聴き始めると思わず小躍りしてしまう。


11. Atom™ & Lisokot / Walzerzyklus

  Atom Heart、Señor Coconut他多数のエイリアスで活動するドイツ出身チリ在住の電子音楽家Uwe Schmidtがロシア人シンガーLisokotをフィーチャーしたEP、Raster-Media(旧Raster-Noton)より。隅々まで配慮の行き届いた音響構築が内奥へと誘う、巡るめくテクノ円舞。


10.  Euchaeta / The Return of the Parade

 "Heavy New Age"を掲げたEuchaetaの2017年のリリースは、7年前の1st期よりのテーマであった"架空のパレード楽隊"に真正面から取り組んだ3部作となった。これは春M3にて頒布の序章にあたる。旅先で仕入れた最新の楽器(主にアーメンブレイクなど)を手に盛大な凱歌を奏する。自身も2017年一番の収穫と自負するM1、メフテル feat.平沢進的なM2を筆頭に隙無く盛り込んだ5曲。そして兎を追い求め向かう次なる行先は… 聴いた後に暫く余韻に浸りたい、良い映画をみたときのような気分になる。


9. KLONNS / BODIES

 東京が誇るNEW WAVE OF BLACKEST HARDCORE MASSACREの急先鋒(他にいるのか!?)。前作までは苛烈ながらも幾分か抒情的なところがあったが今作では音韻面でも熾烈を極めた邪王炎殺黒龍波。古いDOLLとか時折発掘されるレアなミニコミ、ZINEなどの粗い白黒写真でのみ確認される80sジャパコアの身体の撓り、バイオレンスが、現代的な鮮度(それこそ音楽形式でないNEW WAVE感)で迫ってくる。KLONNSが通った後にはただ黒い霧だけが残る。


8. Sharp Veins / bleeds colors and puddles

 ベストMVでも紹介したアラバマ拠点のプロデューサー。EP全体にわたりギラつきながらもくすんだ質感のシンセが腐食した近未来像を描く。郊外の森林で断末魔を上げながら朽ち果てていたATARIをダンスフロアに持ってきたような。こうしたテクノ以前のシンセ回帰&ビート解体が進んだ先に例えばRBMAとHyperdubによる日本のゲーム音楽コンピ『Diggin' in the Carts』で挙げられたトラックなどが効いてくるの、時代だなぁと。


7. 田島ハルコ / PINK HIZIRI

 平沢進とギャル文化のエッセンスを同地平上で展開できる稀有なアーティスト田島ハルコのEP。ソロ初期のひとりATA TAKなガレバンエレクトロパンクから年始の2ndでEDM(?)化、今作ではオリエンタルなモチーフにトラップのビートを盛り込みより一層オルタナティブな形態に。呪詛の詰まった詞もユーモアとフックが効いていて、どこかに必ず優しさがある。闇の中にあっても光を見出さんとする、ブルースを感じる。形は違えど海外のグランジヒップホップ勢に近い請求力を持っているのでは。クソな世の中全部抱きしめる!そして既に2018年の新譜「miracle controller」が出ていてこれが最高最高最高なので全員聴きましょう。


6. ロクトシチ / Scenario

 pot-pourriが出た東大の五月祭で話題になってたので気になって聴いてびっくりした。しかも川越発ということで、こんな格好良いバンドが地元にいたってことが何より嬉しい(これ録ったの朝霞台のアベルかな…)。女声ボーカルはSkinGraft系ノイズロック風にも聴こえて面白いし、たまに脇から入る野郎くさい怒号が完全にDischord!USポストハードコアのキレと轟音のみならずフレーズやリズムの端々に日本の90年代的な艶が感じられるのが堪らない。ロクトシチに憧れたキッズ達がバンドをはじめるような未来、あって欲しい。未だライブを観られていないので観に行きたい。


5. Jesse Osbourne-Lanthier / Unalloyed, Unlicensed, All Night!

 ベルリンとモントリオールを拠点とするマルチアーティスト、Raster-NotonからのEP。これはグライムを解体しつくした荒野で行われる死霊の盆踊りか。スタティックにダイナミック、整然とした混沌、静かに聳え立つ巨大な建造物の激しく蠕動する内部機構をみるような…いや、要は理知的なのにめっちゃ踊れる文武両道タイプ。フィジカルには到達不可能な次元にまで意識をハッキングされるようにブチ上げられる感覚。


4. Puma Blue / Swum Baby

 少しくらい、時間が空いたときに安心して体を預けられる場所、あるいは完璧な15分の一服。


3. FLOOR BABA / DIRT BIRD

 HAL研がメガドライブを吸いこんだ上で無敵キャンディーを取ったみたいな音、というとちょっと外れてるかもしれないけど、そう言って興味持った向きはまず聴いて欲しい。Ubiktuneのリリースとかもそうだけど、16ビットの世界に無限の夢を持った世代にはあの世界の続きを見るようで刺さる刺さる。いやそういうものが刺さる歳になったというべきか…


2. Quartabê / Depê

 ジャケが酷い!でも内容が最高!そういう意味では2017年断トツのギャップ大賞。パスコアル門下からのミナス派木管奏者として話題のJoana Queiroz率いるバンド。ゲストプレイヤーにはブラジリアン前衛ジャズロックの巨匠Arrigo BarnabéやMetá MetáのJuçara Marçal、更にはこちらも新譜が傑作だったTim Bernardesの名も。大らかにたゆたう歌心をバックボーンに細部でえげつない程の技巧を仕込んでいるため、初めて聴いて衝撃、また繰り返す毎に美味しいという強力盤。


1. Tzusing / 一瞬千撃 (In A Moment A Thousand Hits)

 マレーシア出身上海在住のプロデューサー、UAEのレーベルBedouinより。先述のLapaluxや田島さん、FLOOR BABAもそうだけど、上半期のアルバムもめちゃくちゃ良かったのに下半期出したEPが完全に超えてきてたためアルバムの存在が少し霞んでしまうほどだった。アルバムの方が渋くて好きって向きもあるかもしれないけど、個人的にはより肉体的により妖しくよりダークに全マシでギラついてる今作が優勝。中国勢の台頭にしても思うのは、アジアっぽい身体性や硬い空気感がEBMと相性抜群で、それが現在有効な音として鳴っている一番の好例と思った。


 如何でしょうか。多分全部聴いてもそんなに時間かからないので是非聴いてみて下さい。さて最後はベストアルバム…MV10選、EP20選と来たから次は30か?いやもう既にバテてるので20くらいご勘弁を…

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