2018年上半期ベスト30-16

まずリストはこちら

 去年の上半期ベストを見返して思ったんですけど結局上の方は年間ベストにも選出するわけで、ここである程度書いちゃってまた年末コメントするのもどうなのってとこで、かといって上半期下半期で分断したくない、年ベスは年ベスとして出したいっていう微妙な気持ちが働きまして、今回は選出したリストの下半分を紹介することにしました。
 だってさ、上の方に選んだのはド定番ばっかりだしもうみんな当然チェックしてるっしょ、あるいはどこかしらで既に語りつくされてるでしょ。そうですよ。実際去年の年間ベストだって、そりゃ勿論紹介したものは全部聴いてて欲しいけど、リストとしての面白い部分は多分21~40位くらいにあるんですよ。そんなわけで上半期ベストはその辺の旨味を掬っていきます。またジャケ画像にbandcamp他のリンク貼るのでチェック&リッスンだ。


30. Sonata Islands Kommandoh - Zeuhl Jazz

 過去にはにわ周辺やアフターディナーなど邦アヴァン系カバーアルバムも出しているイタリアの楽団、今回はタイトル通りマグマを題材にした作品。リーダーのフルート奏者Emilio Galanteはクラシック出身らしく演奏も端正。ゆえにZeuhlといっても暗黒ジャズファンクロック成分ではなく瀟洒で微ユーモラスなフュージョン・クロスオーバー的な側面が目立つ。記号性が高いだけに奇抜な面が目立ちがちなマグマの音楽を、所謂Zeuhl系フォロワーとは別の切り口から体感できる、なかなかありそうでなかった一枚。



29. SING LIKE TALKING - Heart of Gold

 デビュー30周年を迎えての新譜。全作追って聴いてるわけではないけど、佐藤竹善ソロに近い印象?佐藤竹善ソロ作を聴いているときの安心感、親しみがこの新譜にもある。何というか、ショッピングセンターにいるような感覚…ここにいればすべて完結してしまいそうな気分と、抗いようのない生活の影を視界の端に感じる。いまや賞味期限の過ぎたシティポップリバイバルが大量廃棄されていく中、"AORの現在"が重みのある味を伴って浮かび上がってきた。現行で余裕の良作。



28. N1L - 山卂ㄒ乇尺 爪乇爪ㄖ尺ㄚ

 ベルリンのホラー系ベースミュージックプロデューサー、Opal Tapesよりのリリース。漢字圏の人には確実に読みにくいリート使いだけどこれで「Water Memory」と読む。ボディみのある強拍感で付点を打ってくスリリングな序盤から瓦解した中盤以降の腐食寸前な音像も禍々しくて格好良い。リズム打撃の応酬にふらついたところ顎に一撃食らい、そこから意識が飛んでいく瞬間を微視的に引き延ばして感じるような黄金体験、あるいは夏バテのサウンドトラックって感じ。



27. Mammoth Grinder - Cosmic Crypt

 テキサスのAutopsy系ドゥームデス、Relapseよりの4th。一曲目最初のリフが始まった瞬間から「これはワルい!」とブチ上がった。理不尽に狂い叫ぶ削岩リフとIQ爆下げなビート、そして地獄の番犬のような咆哮が一体となった激音に耳から脳味噌ヒリ出そう。しかしこのMV(公式)、菌類…



26. 半田健人 - 生活

 個人的に最も動向の熱い邦楽アーティストとなりつつある半田健人氏、新作はベルウッド~URC系フォークの再現を試みたメタフォークアルバム。去年の宅録メタ歌謡集よりモードの振れ幅を絞り、また柳田ヒロによる本格的なプロデュースも相俟ってぐっと深みを増したが、やはり曲ごとに歌唱キャラクターがあり、湿気とフックを備えた詞もグッド。またギミックとしても録音の質感だったりライブ風やミステイク収録だったりやはり芸の細かい仕様ににやりとさせられる。リードトラックとして一曲目に据えられた高田渡「座蒲団」のカバーも納得の推薦盤。



25. H880 - Self Perception

 フランスの(文字通り)覆面プロデューサー、ドイツのレーベルInstruments of Disciplineよりカセット&デジタルでのリリース。EBM~リズミックノイズまでリーチする腰の強さ、熾烈な殺伐アトモスフィアを纏いつつも、淡々と展開していく様はミニマルな足取りで、喧噪の中から静かな覚醒を促す。炎天下の都会、ヒートアイランドの只中を彷徨いながらもしくはキンキンに冷えた建物の中で歩きながら聴くのが合いそう。



24. Beutify Junkyards - The Invisible World of Beautify Junkyards

 リスボンの新感覚サイケバンド3rd。まるでトロピカリズモの果肉を4ADのフィルターで濾したような、そこにフォークとバロックポップのエッセンスを加えてレディヘ以降の音響オルタナ風に盛りつけたような、でも今挙げたどの音にも似つかない不思議な味。折衷性、継ぎ目を感じさせない程自然な立ち姿ゆえにほんとに異国かパラレルワールドの音楽って感じ。



23. Michael Seyer - Bad Bonez

 カリフォルニアの宅録ソウル傑作。スクリューを等速として再構築したような、消費文化くささに堕ちず明瞭に心地良い。極上のメロウネスとヨレた音響がベッドルームに風呂場にドライブシートに浸透する。the most relaxing... feel...



22. Hooded Menace - Ossauarium Silhouettes Unhallowed

 フィンランドのドゥーム、RelapseからSeason of Mistへ移籍しての通算5枚目。フューネラルすれすれの遅重轟音でもってMDB的なエピック感を歌いつつ、ドゥームデス重戦車形態にも変形しあらゆるものをなぎ倒していく、極めて強度の高いドゥームメタル。叙情的な部分もゴシックというよりはどことなく秘境感が漂っている、と感じるのはアートワークのイメージに引っ張られすぎ?



21. Alco Frisbass - Le Bateleur

 フランス産新鋭暗黒デュオ、3年ぶりの2nd。今作もAltrOck傘下のFading Recordsより。UZでいうと小品傾向な時期の作風に近いというか、暗黒といってもチェンバー、アヴァン系の軋轢感や格式よりはダークシンフォ×ジャズロックな軽妙さで展開していくため、Anekdotenとか暗いジャズロックとかは好きだけどチェンバーはちょっと…という向きにはストライクかもしれない。Minimum Vitalのメンバーがゲスト参加。



20. Yamantaka // Sonic Titan - Dirt

 モントリオール発サイケデリック能ウェーブプログレの旗手、前作からゲームサントラ仕事を挟みオリジナルアルバムとしては5年ぶり?の3rd。能ウェーブとは何ぞやというか何でもないんだろうが(ステージメイクは歌舞伎の隈取風だし)サウンド的にはボス戦プログレの甲冑を纏ったグランジ(?)で、一貫して物々しくも口当たりがキャッチー。ギーク感溢れる色物ぽいコンセプトながら作を重ねるごと充実度を増していて、中二心くすぐるダークなロックとしては類をみない存在になっているのでは。若干圧縮感きつめなミックスなのが惜しい。



19. Slugdge - Esoteric Malacology

 イギリスはランカシャーのブラッケンドデス、Willowtipよりリリースの4th。早い話が格好良い"メロディックな"デスメタル(2017年間ベストのDecrepit Birthの項参照)。ブルータルあるいはシーケンシャルなフレーズにおいても叙情性を欠かさず猛スピードで傾きながら崩れていくあるいは深い森に分け入っていくような心持。往時のOpeth彷彿な開放弦を用いたメランコリックなコードワークや歌い上げパートも良い塩梅。ただ全体的にフレーズの継ぎ目?のような部分が気になる…



18. Needlepoint - The Diary of Robert Reverie

 Elephant9のベースNikolai Hængsleを擁するノルウェーのネオサイケ真打、3年ぶり3rd。これほんと発掘音源とかじゃないよなと見紛う(だとしたら何ちゅうものを埋もれさしてんだと言いたくなる)程レアな香り漂うジャズロック。プログレやらカンタベリーやらがまだきっと未分化だった頃のサイケ、アートロック然とした豊饒な歌心とマージナルさで聴かせてくる。まだまだ北欧の底知れなさを感じる一枚。

※視聴は公式HPにSpotify埋め込みあり。



17. Monolog - Indemnity and Oblivion

 デンマーク出身ベルリン拠点のプロデューサー、ANT-ZEN傘下のIDM部門Hymenより。タイトルはイギリス内戦~空位時代の罪に対する大赦法が由来か。破壊的なブレイクコアがダブステップの速度で襲い来る一曲目でまずブチかまされるが、一転雲間から明かりが覗くようなアンビエントパートにおけるポストロック調のギター使いも印象的。ブルータルな音においても記号的なメタルに収まらない辺りにルーツを垣間見る気がする。中盤硬質なブレイクコアの激流を経て終盤、すわGODFLESHかというような遅重轟音へ堕ちてゆく流れもいい。

※動画チカチカするとこあり



16. Grouper - Grid of Points

 オレゴンの象徴的音響SSW、コンスタントにリリースを重ね11作目、前2作に続きKrankyより。ざっくり音韻的に分ければピアノと歌のみのミニマルな構成要素ながら(ここで"だからこそ"とは言えない程に)、物凄い没入感の音響構築は流石。触れた瞬間に天界へ連れていかれるような圧倒的霊験。


 ここまでくるとやはり話題作食い込んできますね。ていうかこれ書くにあたって聴きなおしたら既に順位入れ替わりまくっててどうしよう。まぁいいや。じゃ、続きは年ベスで…!

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