久しぶりに美術館をはしご、のはずが

朝早く起きた時に雨はもう、上がっていた。まだ雲が多いけれど、やがて晴れるだろう。

梅雨の晴れ間は貴重だ(といっても、これまでのところは案外、雨は少ないようだけれど)。で、決心した。今日こそ出かけよう、と。最近は、出かけるのがいっそう億劫になってきたのだ(ますます、怠け者になったみたいで、まずい)。

そうして出かけたのはよかったのだけれど、しばらくして地図は持ってきたかと心配になってバッグの中を改めると、やっぱりない。戻ろうかとも思って逡巡しているうちに、なんだか面倒になってそのまま歩き始めた(これも、相当にまずい)。

美術館に行く時は、まずランチからということにしているので(とくに一人の場合。お酒を飲める人が一緒の時はまた別の話し。一人の時、昼のお酒はほぼ必須です)、何を食べようかということから。今回の候補は2つ。そのうちの一つ、渋谷のお寿司屋にした(地図は忘れたけれど)。最近の渋谷は、久しく行っていないし、以前よりも分かりにくくなっているようなので心配したけれど、ことのほかスムーズにたどり着くことができた(ま、駅員さんの助けを借りたというだけのことです)。

お目当のお店のあるビルに入ろうとすると、ほぼ同時にもう一人入っていく人が。ちょっと渋面の40代くらいの男性。長い髪を後ろで結んで、色あせたジーンズの上に柄物のシャツを出している。で、少し遅れてさらに進むとエレベーターのところには先ほどの人が。もしかしたら……。同じ階で降りたので、同じ店に行くのかと思ったら、やっぱり寿司屋の戸を開けた。ちょっと出遅れていたため、混んでいるかと心配したけれど、中に入ると先客はなし。件の男性と2人だけ。

彼はカウンターの一番端に座ると注文もそこそこに、スマホを握って放さない(いったい、どんな人なのか。何をやっているのだろうか)。勢い、若い主人の話はこちらに。それでも、ちょっと気になる。スマホとにらめっこで寿司を食べて、美味いのか。何より握って出す主人はどんな思いなのかね。他人事ながら気になった。しばらくすると、そのスマホが鳴り出した。と、彼はそそくさと勘定を済ませて出て行ったのだった。

ひとり残されたおかげで、お銚子が1本増えてしまった(やれやれ)。

肝心の美術館はといえば、最初のモロー展はなんと、休館日(水曜休館、というのはかなりイレギュラーだ。なぜなのだろうか)。仕方がないので気を取り直して、ラファエル前派展へ。ラファエル前派展はついこないだもやったことがあった気がする。案外人気があるのだろうか(ちなみに、以前のそれは2014年森アーツセンターでの開催だった。この時は、確かミレイの「オフィーリア」が目玉だったと覚えているのだが)。

今回、開催しているのは三菱1号間美術館。好きな美術館のひとつ*。ここは中庭をはじめとする外部空間を含めて最も気持ちのいい美術館の一つではあるまいか。各スペースをつなぐ通路からの眺めも素晴らしい。中庭には緑がたくさんあって、これを取り囲むビルの下に入っているお店のオープンテラス席には多くの人々がくつろぎながらお茶や食事を楽しんでいるのが見える。また、当然、ベンチや木々のまわりの立ち上がり部分に腰かけたり、歩いている人もいる。こうした様子を眺めるのはとても楽しい。都市での最も楽しい場面のひとつ。でも、こうした環境は案外少ないような気がするのだ(僕が知らないだけか)。

さらに、ここから東京駅丸の内口までの一画は日本では珍しく開放的な広場やオープンカフェのある都市空間となっていて、素敵だ。ただ、道路の反対側は高架下に店が並んでいるようだけれど、こちらは昼のせいか賑やかさがないだけでなく、妙に小ぎれいで猥雑さにも欠けて、統一感やあるいは対比の面白さという点でも今ひとつという気がするのが残念。

肝心の展覧会と言えば、このグループを率いたロセッティを始め、ミレイ等のメンバーや周辺の人々の他、ジョン・ラスキンのものがたくさんあったのには驚いた。彼は、ただ論評するだけでなく、自らも絵筆をとっていたのだ(まあ、当然と言えば当然、あるべき態度のような気がするけれど)。モリス商会の作品も、有名な『いちご泥棒』をはじめとする作品群が一角を占めていた。

ところで、ロセッティの絵はモリスの妻ジェーンをモデルにしたものがやっぱり多い(彼女をめぐる問題はいろいろ言われているね)。同時に、ミレイは彼を支援したラスキンの妻と結婚したということを思い出した。どうでもいいような気もするけれど、でもこうした例が少なからずあるようなのはどうしたことだろうか(ま、生きてるうちにはいろいろあるってことかね)。(F)

*http://home.kanto-gakuin.ac.jp/~fujimoto/nicespaces.html#112%20ヴァロットン展

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