G街、暁の決斗

それは突然起こった。

G街では良くある出来事ではあったが、新参者でありながらも、イケイケで知られる堺リッキーにとっては、これまでの街の住人の自分に接する態度や、常連客の仕打ちに思う所があったのだろう。今まさにここ、朝方に店を閉めた街の住人達が朝食を嗜みに訪れるバー「アシッド」で、テーブルに突っ伏し、もはや目を開く努力も叶わない程、眠りに落ちそうになっている、G街のエース井出氏が最後の力を振り絞って注文した雑炊に対して、「おおー!雑炊、良いですね〜」とちょっと小馬鹿にしたようなセリフを吐き、「じゃっ、私も頂きますか!」と同じく雑炊を注文したのだ。

朦朧としていた井出氏であったが、明らかな挑戦的口調に対し、眠りかけていた脳細胞が急速にフル活動を始め、堺リッキーに対してこう宣った。

「雑炊に合うのは餃子だから、餃子も注文しましょう!」

勿論、そう言ってくるのも了承済みな堺リッキーは、「じゃあ、焼きと水を3人前ずつ!」と焼き餃子と水餃子を注文、先手必勝!出鼻を挫く作戦に出たが、当然返しで、「餃子はもっと食べられるでしょう!もっと追加で!」結局餃子は10人前となった。1人前6個なので合計60個だ。上等とばかりに怯む事無くガツガツと食べ捲くる両名だったが、追加の餃子が来た際に井出氏が「ご飯が足りない!餃子にはライスでしょう!」と吠えた。マスターがご飯をよそうも其々1人前で櫃には米が無くなってしまった。それならば、と井出氏は颯爽と店から飛び出して行く!もしや、と店に居た連中が其々の顔を伺い、これからの展開を確信した。それと同時に、井出氏が席を外したのを認識した堺リッキーは、炭水化物の多量接収により絶頂に至った血糖値の影響か「暑い!暑い!」と喚き出し、トレードマークである黒シャツのボタンを外しだした。跳ねるようにボタンが外れて行くと共に大きな鏡餅のような腹がまろび出るさまを、皆が先行き不安な瞳で見つめているその時、井出氏が大量に何かが入った袋を持って戻り、それをそのままカウンターにぶちまけたのだ!

そこには、サトウのご飯とふりかけとロール用の海苔が大量に溢れ返っていた……。

「これでご飯揃ったので続けましょう!」

井出氏の宣告に堺リッキーは、深いタッチで彫られた大理石の彫刻のように顔面をきつく固まらせながらも、その挑発に乗り再び餃子とご飯を呑み始めるのだった。

餃子が無くなり、ふりかけと海苔で大量のサトウのご飯を頬張る両者だったが、明らかに堺リッキーの表情が変調しだした。呼吸が乱れ、全く食事が出来なくなっている。ああ、終わる……。その場にいる全員が終焉を理解した時、ついに堺リッキーはギブアップ宣言をした。

「もう食べれません!」頭を稲穂より深く垂れる敗者に井出氏は、なおも追撃する。「まだご飯残ってるよ!」ポーカーゲームでのスリーカードの役を叩きつけるように、堺リッキーの前にサトウのご飯を3つセットで突き出した。

顔面蒼白で油汗をダラダラと垂らしていた堺リッキーは、ソレを突きつけられた瞬間、全盛期のマイケル・ジャクソンを思わせるような高速スピンでクルリと踵を返し、観音開きのバーの扉を突き出た腹でボディアタックするように突き破り、何処かへ去って行ってしまった。啞然とする皆の中、どこからともなく声が聞こえた。

「じゃあ、休憩という事にしましょう!堺さん逃走中になったので、戻って来たらまた続きを始めると言う事で!」そこに居た者達は深く頷いた。井出氏はすっかり眠気も去ったのか、勝利の美酒に酔いしれていた。


しかし!今回は尻尾を巻き逃走してしまったが、堺リッキーはこんな事で終わる男では無い!また再びG街の有名人に何某かの挑戦を仕掛けてくるであろう。その時が来たら、この物語は新たな章を迎えるのだ。