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「天才」 VS 「天災」

その頃、空軍勢はというと

パラシュート男は黒コゲになりながらも近くの送電鉄塔に引っ掛かって生きていた。

だがグライダーの方はまだ羽ばたき飛行への挑戦をやめようとしない。

案の定、下手に鳥の真似なんかするから飛行は勝手にどんどん不安定になっていった。

「ひーん、キリモミ状態だーッ!

救助求む、誰かーっ!!

やっぱ余計な羽ばたきとかしなきゃよかった~」

今更になって後悔しているグライダー乗りのリリエンタール。

仕方がないので相棒のパラシュート男の救助は諦めて自分だけは不時着しようとする。

と思ったらそこに突然、人間が飛んで来た。

「ナニぃっ⁉︎」

それはアルベルトの技によってぶっ飛ばされた岩砕だった。

そのままグライダーと衝突してあらぬ方向に跳ね返り、

さらにはライト兄弟の飛行機とも空中で激突してピンポン玉のように反射した。

ついでにパラシュート男にもぶつかって鉄塔の中で乱反射しながら落ちていく。

それでもまだ身体がバラバラにならないだけ丈夫な男だ。

「ヒュ~っ♪ ストライーク♡」

そのアルベルト・アインシュタインの表情は無邪気な子供そのものだった。

ここまで楽しませてくれる戦い相手はなかなかいないとばかりに容赦なく技をもて遊ぶように繰り出してくる。

「ひょえーッ! 緊急着陸!!

でも今ので飛行姿勢は回復したから良かった!」

これ幸いとばかりに逃げ出すオットー・リリエンタール。

「オットーさん置いてかないでーっ!?」

感電して頭の毛は爆発、全身黒コゲのパラシュート男は

岩砕と空中衝突して鼻血を出しながらもまだ宙吊りで助けを求めていた。

だが、ライト兄弟も機体の体勢を立て直すのに時間がかかり。

誰も助けてはくれない。

「がはッ‼︎‼︎」

少なくとも全身打撲はいってるであろう

為す術もなく岩砕は送電鉄塔内部を落ちてゆく。

「フィナーレだ!」

そんな事もお構いなしにアルベルトは自ら鉄塔内部に飛び込んで、

上から岩砕にとどめを刺そうと再び射程範囲内に捉えて光の刃を振り下ろそうとする。

「なっ!?」

しかしその鉄塔内部で待ち構えていたのは

無数に張り巡らされていた電線の罠だった。

さんざんアルベルトが光の矢を撃ちまくったことで破壊された電柱の断線された電線をこっそり集めていたらしい。

それを自らの強大な電磁気力に任せて操り、アルベルトを捉える。

「………………やっと、入り込んだな…………

オレの「場」<フィールド>に………………………………」

岩砕のシャツはボロボロに焼け焦げていて、

衣服の下に隠し着ていた”鎖帷子”《クサリカタビラ》が露わとなっていた。

この金属の表皮効果を操る事によってあの光の斬撃を耐え凌いだのだ。

そんな真似を感覚で出来る能力者は滅多にいない。

「なんだと!? マズい! 

こいつ、わざと大袈裟に吹っ飛んで…………

私を鉄塔内に誘い込んだ?!」

そんな戦略の計算をこの男がいつの間にしていたというのだ⁉︎

さすがのアルベルトも思わぬ反撃を喰らって戸惑いを隠せない。

「”磁・界《マグネチック・フィールド》”!!」

岩砕は最後の電磁気力を振り絞って急加速をかける。

全身が痛くてたまらないが、このチャンスを逃せばもう勝機は無い。

「があッっ‼︎‼︎」

岩砕は鉄塔内部のジャングルジムのような構造を利用して、

アルベルトに四方八方から攻撃を仕掛ける。

「なんだコイツ!?

さっきまでと動きが違う⁉︎

これを計算ナシの感覚だけで行っているというのか!?」

やはり鉄塔内部まで近寄ったのは迂闊だったか。

まさにこの山猿にとっては地の利も得られたのも同然だ。

「こざかしい!」

この鉄塔結界を打ち破ろうと片っ端から斬り刻む。

だがここの鉄骨は斬っても、岩砕がその磁気力でくっ付けるので脱出できなくなっていた。

「しまった!

磁場を支配してやがる。

この鉄骨に囲まれた領域はコイルの中そのもの…………

迂闊だった!」

段々とスピードが上がってくる岩砕に

ガードを崩され始めるアルベルト。

「なんだあの動きは!? 形勢逆転か?!」

その動きを上空から見ていたのは機体を持ち直したライト兄弟だった。

また次第に爆撃の体勢へと入ろうとしている。

「メンドクセー、塔ごと爆破しちまおうぜ兄貴。」

爆弾を振り回す危険な弟。

「それはヤメてーっ!」

世界一危険な戦闘真っ只中の鉄塔に引っ掛かって身動きの取れないパラシュート男は

魂の叫びを上げるが、もはや誰も聞いていなかった………………………………





前回、「文系(無能力者)と理系(能力者)」。

次回、「量子論の父『マックス・プランク』」へ続くッ!!