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コロナ禍が変えた声優の育て方


◆序章

どんなスクールや養成所、はたまたどんな優秀な講師でも、声優を仕事にする為に必要な「感性」は育てる事が出来ない。

感性は「実体験」と「疑似体験」を通してしか磨けない。

実体験とはさまざまな事を「実際に体験する事」であり、疑似体験とは作品(映画・ドラマ・舞台・アニメ・漫画・小説・ゲーム等)を通して「他人の人生を追体験」したり、VR(仮想現実)を通して「実際には体験する事が出来ない事を体験する事」だ。

レッスンは「知識と技術を学び、日々の鍛錬の成果を発表をする場」であり、実体験や疑似体験に費やす時間は無い。そもそも実体験や疑似体験をする際に講師が一緒にいる必要が無い。自分が好きな時に好きな事に取り組めば良い。

エンターテイメントとは娯楽だ。娯楽は楽しくなければならない。もし声優を仕事にしたいならエンドユーザーに「楽しさ」という名の「幸福」を与えられるようになる必要がある。

その為には先ず、自分自身が多種多様な幸福を知る必要がある。「見た事も聞いた事も無い料理は想像する事すら出来ない」のと同じで、自分が経験した事がない幸せを他人に与える事は出来ない。もし仮に出来たとしても車輪の再発明では時間が掛かるし、現実的では無い。

昔から「役者は遊んだ方が良い」と言われているのはそれが理由だろう。もし遊び方が分からないなら「遊び方が分からないくらい真面目」だと言うことだ。真面目な事は悪い事では無いが、真面目なだけでは良い役者にはなれない。

百聞は一見にしかず。
何事も経験に勝る勉強は無い。

小さい頃から色々な経験をさせて貰ったり、色々な場所に連れて行って貰ったり、沢山の作品や芸術に触れさせて貰ったり、そんな恵まれた環境で生まれ育った人は本人が意図せずとも豊かな感性を身に付けていたりする。

ズルいと思うかもしれないが、それもまた一つの才能だ。

だからと言って「生まれ育った環境」が決定的に明暗を分ける要素にはならない。

理解しておくべき事は「そういうアドバンテージを持っているライバルもいるし、そんなライバルたちと互角以上に戦える感性が必要」だという事だ。

感性は努力すれば必ず磨く事が出来る。

だから「生まれ育った環境」を言い訳にしては駄目だし、そういう環境づくりをするもしないも自分次第だ。やっている人はやっているし、やらなければやらないなりの未来が待っている。

手取り足取りあなたが望む未来に導いてくれる奇特な人なんて世の中にはいないし、魔法みたいに短期間で感性を磨く方法も存在しない。

それでは、コロナ禍が声優の育て方をどう変えたのか?

ここから本題に入っていく事にする。

コロナ禍以前の当たり前は当たり前じゃない。

◆第1章:感性を磨く必要性

なぜ「感性」を磨く必要があるのか?

感性とは「良し悪しを知覚する力」だ。

一人のエンドユーザーとして自分が「なぜ面白いと感じたのか?」「なぜ感動したのか?」「なぜ退屈に感じたのか?」など、その時に感じた感覚から逆算していく事で「どうすれば人の心を動かす事が出来るのか」少しずつ分かるようになっていく。

その「方法」をどれだけ多く知っているか、今までどんな「影響」を受けて来たかが重要なのだ。

プロとして活躍している人は「知識」も「技術」も当たり前に持っている。何故なら、それがプロとして仕事をする資格だからだ。

知識も技術も持ってる上で「豊かな感性」が必要であり、その豊かな感性から生み出される「自分なりのこだわり」「創意工夫」こそが「個性=独自性(オリジナリティ)」に成るのだ。

他の人と違いが無ければオーディションで仕事を勝ち取る事は出来ないし、クライアントから指名して貰う事も出来ない。

より多くの仕事を任せられる声優になる為に感性を磨く必要があるのだ。

但し、単に他の人と違えば良いわけでは無い。

付け焼き刃な工夫ではエンドユーザーを満足させる事は出来ないし、奇をてらっても豊かな感性に裏打ちされた工夫には勝てない。ラッキーパンチが決まっても実力が無ければ直ぐに露呈する。他の人と違っても面白く無ければ意味が無い。

必要なのは「エンドユーザーを幸福にする為の自分なりのこだわり」であり、「自分勝手なこだわり」であってはならない。

◆第2章:経済的な自由と時間的な自由

感性を磨く為には「お金」と「時間」が必要だ。

勿論、お金が無くても出来る事はあるし、時間が無くても出来る事はあるが、出来ることは限られてしまう。もし両方無ければ出来る事はもっと限られてしまう。

貧乏暮らしも一つの経験にはなるし、アルバイトでしか得られない経験もあるが、それだけでは感性を十分に磨く事は出来ない。

東京での新生活も楽しいのは最初だけで数ヶ月もすれば惰性に変わる。

大きな収入を得る為にはアルバイトを沢山入れなければならないし、アルバイトを沢山入れれば時間を失う事になる。だからと言ってアルバイトを減らせば収入が少なくなってしまう。そこにあるのは負のスパイラルだ。

お金が潤沢にあるならそうはならないが、生活が困窮した状況では感性を磨けないまま貴重な時間を浪費していく事になる。

声優を目指す上で、感性を磨けないまま数年経過する事の恐ろしさは想像の通りだ。

それでも、地方在住者が声優を目指そうと考え、東京の事務所や養成所でレッスンを受ける為には「東京に移住する」か「地方から通うか」の二択しかなかった。

そのどちらを選択したとしても、どんな才能や情熱を持っていたとしても、困窮した生活の中で「自宅」「アルバイト先」「稽古場」の3箇所しか往復していなければ、豊かな感性を持った魅力的な役者になれないだろう。

もし困窮した生活の中でも成功出来る可能性がある人がいるとすれば、序章で述べたように、声優を目指す前から恵まれた環境で感性を磨く事が出来た人だけだと思う。

今までの常識にとらわれ、安易に周囲と同じ選択をしてしまえば待っているのはバッドエンドだ。

だけどもし、東京で新生活を始めた時点で十分な貯金があったとしたら?

生活に困らず自分の使いたいように時間を使えたとしたら?

全く戦い方が変わって来る筈だ。

コロナ禍で生まれた新たな選択肢、「オンラインレッスン」を受けられる事務所や養成所なら、東京に移住する必要も通う必要も無いし、東京に移住するタイミングを後ろ倒しに出来る。

東京で一人暮らしを始める場合、引っ越し費用はもちろん、生活費(家賃、食費、水道光熱費、通信費)だけで少なく見積もっても毎月10万円以上は必要になる。

それに加え、所得税、健康保険料、国民年金、住民税も支払う事になるし、先々に備えて貯金も必要だ。

電気代はこれからもっと高くなるし、物価も上がっている為、コロナ禍以前より東京で一人暮らしを始めるハードルは間違いなく上がっている。

生活費だけで単純計算で1年間で120万円、2年間なら240万円の支出になるが、今、実家暮らしで生活費がほとんど掛かっておらず、東京で一人暮らしを始めた時に稼ぐ予定の金額と同じ金額を上京せずに稼いだ場合、その金額を全て自分への投資と貯金に回す事が出来る。

もし「オンラインレッスンと対面レッスンで得られる成果に大きな違いが無い」なら、オンラインレッスンを受けられる事務所や養成所を選択した方が地方在住者にとって圧倒的に大きなメリットになる。

レッスンで教える事が出来るのは「知識」と「技術」であり、それらはオンラインでも問題無く教える事が出来る。

声優として最短距離で成長する為には日常生活の方がむしろ重要であり、そういう部分も含めて「レッスンの目的と本質」が見えているかどうかで、あなたの成長スピードも未来も全く変わって来る。

◆第3章:演技に必要な感覚は日常生活の中にある

誰かと会話をする事も、喧嘩をする事も、仕事や人間関係の中で役割を演じる事も、空気を読む事も、羽目を外す事も、一人で遊ぶ事も、友人と遊ぶ事も、物思いにふける事も、黄昏れる事も、ありふれた日常も、ありふれてない日常も、「一人の人間として経験できる日常生活の全て」が、あなたの演技の土台となり、あなたが演じるキャラクターの血肉となる。

その「五感の記憶」が「リアリティ」を生む。

対面のレッスンだとしてもオンラインレッスンだとしても、レッスンの中で「本物の感覚」は生まれない。

日常生活の中で自らの内に生まれた「本物の感覚」をしっかりと記憶し、それをいつでも自由自在に引き出せるようにする事が重要なのだ。

舞台や映像演技と違い、声優の演技に必要なのは「聞き手にどう聴こえるか」だ。

演技をする時に実際に動く必要は無いし、話している相手が実際に目の前にいる必要もない。

動いているように聞こえれば良いし、相手が目の前にいるように聞こえれば良い。

その為のプロセスとして対面のレッスンが必要だと言う人もいるかもしれないが、「言葉と肉体の連動性」も「相手と会話をする感覚」も全て日常生活を「意識的」を過ごす事で養える感覚だ。それをレッスン時間の中だけで身につけようとするからいつまで経っても必要な感覚が身につかないのだ。

対面のレッスンでなければ教えられない事なんてほとんど無い。

あなたの表現は「画面越し」でも「音」だけでも聞き手に伝わる表現でなければならないし、教える側もオンラインだからと言って「聞こえ方」が変わるわけでも「教える内容」が変わるわけでも無い。

レッスンの日数も設備の豪華さも役者としてのは成長には比例しない。もし成長に比例するなら、充実した設備で週5日、2年以上もレッスンを受けている人たちはもっと上手くなっている筈だ。

オンラインレッスンだろうが対面のレッスンだろうが育つ人は育つ。

その事実しか存在しない。

◆第4章:養成機関の地域格差

オンラインレッスンのメリットは、講師も生徒も「居住地」を問わない事だ。

対面レッスンの場合、毎回その場所に行かなければならない為、地方在住者の基本的な選択肢は、「①地元にある養成所かスクールから選ぶ」か「②夜行バスや新幹線、はたまた飛行機を使って通う」か「③通いやすい場所に引っ越しをする」しか無かった。

地元で教わる事が出来る講師の多くは、生徒と同じく「通える範囲の場所に住んでいる事」が条件になる為、レッスンを受ける事が出来る講師は「始めからある程度限られる」事になる。

それが悪い事だとは言わない。

重要なのは、オンラインレッスンという選択肢が増えた事で、教える側も教わる側もそれが「絶対」では無くなったという事だ。

オンラインでレッスンを受けられるようになった事で、「今まで東京でしか受ける事が出来なかった関東在住の講師のレッスン」を地方在住のまま受けられるようになり、生まれ育った居住地による差を無くす事が出来るようになったのだ。

そして、もう一つ重要になって来るのが「講師と生徒の相性」だ。

選択肢がほとんど無い状態では気付けない、視野が広がる事で始めて見えて来るこの要素が声優を目指す上でもう一つの鍵になる。

◆第5章:講師と生徒の間にも相性がある

役者の世界は教科書も資格も存在しない。
同じく、役者を育てる教科書も資格も存在しない。

講師はそれぞれの「経験則」に基づいて指導を行っている為、良くも悪くも講師ごとに指導内容に「差」は出る。中には未熟な講師もいる。

目指すべき地点が同じでも「教え方」も「考え方」も十人十色だ。

大事なのは、その講師の教え方や考え方が「自分に合う」かどうかだ。

講師と生徒の間にも「相性」がある。

相性が良い場合は、より多くの事を深く理解できるし、自分の成長を実感できるから高いモチベーションでレッスンに臨める。

相性が悪い場合は、理解するのに時間を要したり、モチベーションが下がってしまう場合がある。

その為、レッスンの成果に大きな違いが出て来る。

・自身の姿勢
・講師との相性
・日常生活

この三つが高い次元で噛み合っていれば最短距離で成長する事が出来る。

肝に銘じて欲しいのは「受け身である限り明るい未来は存在しない」と言う事だ。成長無くして掴み取れる成功なんて無い。

だから、養成所やスクールに入る前に、「そこに入ったら誰に教わる事が出来るのか」「その人と自分の相性が良いのか悪いのか」、確認できるなら確認した方が絶対に良い。

その為に体験レッスン(ワークショップ)がある。

そこに参加すれば、自分との相性を「肌」で確認できるし、分からない事があれば担当者に全て質問する事ができる。

但し、養成所やスクールによっては「体験で教わる事ができる講師」と「入ったあと実際に教わる講師」が違う場合があるので注意が必要だ。

入ってからじゃないと自分が教わる講師が分からない養成所やスクールを選ぶ場合、講師との相性が「運次第」になる事を理解しておく必要がある。

◆第6章:宅録のススメ

宅録が出来れば誰でも声優として仕事を受ける事が出来る時代だ。

USBコンデンサーマイクがあれば、オーディオインターフェイス(マイクや楽器をPCに繋ぐ為の機器)が無くても、PCとマイクをUSBケーブルで接続するだけでPCに音声を出力し、録音する事が出来る。

ネットの評判なども参考にしつつ、2万円前後のマイクを買えば音質も問題無いだろう。

ポップノイズを抑える為のポップガードも自作可能だし、室内の反響や反射音の混入を抑える為のリフレクションフィルターも自作可能だ。

録音や編集も無料のソフトで大抵の事は出来る。

防音カーテンと突っ張り棒を組み合わせて室内に防音空間を作ったり、ダンボールや発泡スチロールボード、吸音材等を組み合わせてDYKすれば、安価でも十分な録音環境を作る事が出来る。

某有名歌手のように押入れを改造したって良いし、見栄えなど気にする必要も無い。

録音した「音」に問題が無ければ、どんな録音環境で録っていようと関係無いし、そんな事を気にするクライアントもいない。

宅録環境を持っていれば所属事務所から重宝される可能性もあるし(事務所による)、本人も宅録案件(リモート案件)を受けられるようになる事で仕事のチャンスが広がる(事務所による)。

レッスンに関しても、オンラインなら自宅が稽古場になるので、宅録環境を作る事で「クライアントから依頼を受け、納品するのと同じプロセス」で講師から本番さながらに指導を受ける事が出来る。

音が飛んだり聞き取りづらいなど通信状況による音の乱れもちょっと工夫するだけで100%音質に影響が出ないようにする方法もある。

自分で録音した音源を聴きながら反省点を見つけたり、改善点を見つけたりする事も成長する上で必要だし、「どう意識したら、どう音が変わるのか?」精密にコントロール出来るようになる為にも自分の演技やナレーションを録音し、それを聴き返す事は重要だ。

宅録環境は持てるなら持った方が良いし、マイクを買うのが惜しいと思うなら、惜しいと思っている時間が勿体無い。

遅かれ早かれ買うつもりなら早く買った方が出来る事の幅が広がるし、マイクと言う「相棒」が出来れば自ずと意識も変わって来る。

マイクを買う。そんな小さな一歩があなたの未来を劇的に変える大きな一歩になるかもしれない。

◆最終章:大事なのは自分の意志

コロナ禍が今までの当たり前を変えても、時代の変化に適応していく事が出来なければ待ち受けている未来は同じだ。

変わる事を望む人もいれば、変わらない事を望む人もいる。どちらが正しいでは無く、どちらも正しい。

大事なのは、誰かの言葉を鵜呑みにするのでは無く、全てにおいて、一つ一つ自分自身で考え、「自分なりの答え」を持つ事だ。

漠然とした考えでは誰かに流される事になるし、方法論だけでは良い結果には繋がらない。

自分の未来をデザインする為には、計略と強い意志が必要だ。

◇著者

ペンネーム:梶江田 林檎(かじえだ りんご)
ガジェットリンクの何でも屋。出来ることが全て仕事。平松広和の教え子。


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