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溶けていく境界線 [2019]

多様性とはAとBとが認め合うべき、といった話ではなく、CもDもイも⑧も赤色も硬いものも同時に存在するごった煮の世界観だ。そういう世界で、どこからどこまでという線引きや二項で対立させる構造に、僕たちは息苦しさを感じている。

例えば人と森との境界線は、おそらく生命のやりとりの中で自ずと決まってきたものだろう。人の生命、あるいは森に息づく生命はそれぞれに干渉しながら、互いに着かず離れずの距離感を保ってきた。そしてそれは明確に標を打ち立てるような境界ではなく、互いの生存戦略を駆け引きしながら緩やかに変化し続けていくグラデーションのようなものであったはずだ。

岩を削る水、どこまでも生え延びる木々、飛び交う虫に、獲物を狩る動物たち。互いに環境として作用し合う複雑な要素のすべてを多様性と呼び、その物質と実質のすべてを複雑に煮込んだスープのような物語を世界と呼ぶ。
彼らと同じく、僕らも僕らの営みでこの世界を編んでいる。彼らと僕たちを別つ境界線とはいかなるものか。僕と僕たちを別つ境界線はどこにあるのか。

世界のそこかしこに引かれた境界線の意味を問いつつ、押したり引いたり消したり滲ませたりしながら、線が引かれる前の世界を知覚しようと試み続けたい。


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