野球の神様㉓

バットくん中学3年生の最後の大会。

今年もチームは順調に勝ち上がり、全国大会出場まであと1勝のところまできた。

今日勝てば、昨年のリベンジが果たせるというわけだ。


しかし、神様の様子はいつもと違う。なんとなく冷淡な視線で、試合5分前のグラウンドの様子を眺めている。


前の日に、野球の神様の分身たちとの話し合いが行われていた。

「ここまで勝ち上がってきている明日のチームのピッチャーはええピッチャーやぞ。ここ3年間黙々と努力を続けてきた様子が彼の人差し指と中指のマメの厚さと、彼が放つ血と汗の臭いから伝わってくる。こうしている間にもビンビンとその臭いを感じるじゃろ?」

「そうだのぉ。だが、明日はバットくんにとっても大きな試合じゃからわしとしては彼を勝たせてやりたい」

「そういう温情はご法度じゃと忘れたのか。お前は1人の人間に偏愛しすぎじゃ。そんなのはこれまでのBGD界(野球の神様界)では決して許されなかったことじゃ。それに百歩譲ってお前がバットくんに偏愛したとしても、彼に勝たせてあげるというのは本当の優しさじゃないじゃろ。バットくんを思う気持ちがあるならなおさらもっと彼に厳しい試練を与えるべきじゃないのかな」

「そうかもしれんが、、、」

「お前はバットくんを信じているようで全然信じていないじゃないか。所詮わしらの力で野球人のためにやってあげられることには限界がある。バットくんがどん底からでも這い上がっていくことを信じて、どんどん過酷な試練を与えて成長を促していくことが本来のわしらの使命じゃないか」

「そうじゃのぉ、、、」

「今回はお前は休んでろ。明日はわしが試合の採決をおこなう」


というわけで今日はいつもバットくんにとりついている神様じゃない分身の神様が、決勝戦の試合を見守っている。

「プレーボール!!」


バットくんは振りかぶって、一球目を投げた。


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