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熱意と根性

「この20年で変らなかったのは、本への思い入れを読者に伝えようとし続けた書店員たちの存在である。彼ら、彼女たちがこれからも書店を支え続けるのである。・・・」 学芸出版社営業部の名物社員・藤原がお送りする、本と書店をめぐる四方山話。

彼は全国展開する書店グループの売り場を管理する立場にあった。
彼は嘆いていた。
「売上が上がらないのは、マニュアルどおりの販売しかしないからです。配本されて来た本をただ店に並べているだけ。アルバイトさんたちに渡された業務マニュアルには並べるだけでいいと書いてあるのでしかたがないのですけどね。」
彼は苦笑しながら言った。

そして続けて「売れたら注文するんだと教えたら『そんなことしていいんですか?』とアルバイトさんに言われたんですよ。」と目を丸くして言った。
アルバイトさんは「売れ残ったらどうするんですか?」と言い、彼は「返品すればいいの!」と言い、アルバイトさんは「それは返品出来るんですか?」と言う。こんな問答が長らく続いた。

彼は毎朝Tシャツにジーンズで出勤する。
本を売ることは汗をかくことだと教えるためだと言う。
店を掃除する、本や雑貨を陳列する、売れ残りは返品する。
これを一生懸命やれば汗が出る、汗が出るまでやるのだと彼は店に勤めるおばちゃんに教えるのである。

だけど「熱意と根性では本は売れませんよ。」と僕が言うと、「熱意も根性もない書店は売れない。」と彼は言い切った。
彼はマニュアルどおりにしか働かないおばちゃんたちに熱意と根性のある書店とはどういうことかを教えるために全国の店を歩き回った。
で、その後どうなったか。
熱意と根性だけでは本は売れなかったのである。
しかし店にはそれまでなかった活気が溢れた。

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