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バームクーヘン

「この20年で変らなかったのは、本への思い入れを読者に伝えようとし続けた書店員たちの存在である。彼ら、彼女たちがこれからも書店を支え続けるのである。・・・」 学芸出版社営業部の名物社員・藤原がお送りする、本と書店をめぐる四方山話。

僕の出身地である田舎町に小さなバームクーヘン屋がある。
数年前「おはよう朝日です」でその店が紹介されるやいなや、注文が殺到した。
そこは知る人ぞ知るという店ではなく、田舎町にある普通の洋菓子屋である。地元の人の腹と舌を満たせば十分といった風情の店構えでもある。

テレビで紹介されるやドッカ~ンと人が群がるのはよくあることで、視聴率の高いグルメ番組で紹介されることの宣伝効果は半端ではない。
よって金を払って紹介してもらっているのではないか、いわゆるやらせの疑惑、疑念が付きまとう。

ここで言いたいのは、やらせかやらせでないかと言うことではなく、それを紹介するタレントあるいはアナウンサーが「美味い」と言う言葉の信頼性のことである。
誰々が美味いというその商品はあなたにとって本当に美味いものなのか、ということだ。「名物に美味いものなし」という言葉もある。

昨今の物の売れ方を見ているとこの手のパターンが多いような気がする。インターネット上でつぶやかれる言葉やランキングによって物事が動く。Facebookで革命を起こすことも出来る世の中である。
本の世界でも似たようなことが起きている。連鎖の輪はアッという間に広がって行くことを僕は経験した。

この時気になるのは、誰がきっかけを作ったのかということである。
1人ではなく複数であることは間違いない。
テレビのように1人のタレントが美味い!と叫ぶと売れるような仕掛けで動いていない。小さな群れだ。
この群れが連鎖の輪を作り出す原動力になっている。
いわゆる「ともだち」って奴だ。
「友達の友達は皆友達だ」ってことだが、友達の友達が僕の友達だなんて気持ち悪くて着いていけない。

そんなことを考えていると書店の棚は自由だなぁ、なんて思ってしまう。
店に入ってすぐの平台を素通りして、棚の間をすり抜けて行くと、ふと目に止まる本や、二度見してしまう本が並んでいる。
誰かから聞いた本ではなく、僕の心にちょっと風を吹かす本。
僕が見つけた僕の本。

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