見出し画像

「大義」だけでまちは動かない。都市整備35年の試行錯誤|【イベントレポート】

密集市街地の防災性と住環境の向上に取り組んできたUR都市機構(以下、UR)の15の事業手法を総覧した書籍『密集市街地の防災と住環境整備』
その出版を記念して2017年11月21日に行われた東京・密集市街地再生フォーラムに続き、「密集市街地の防災と住環境整備:関西編」と題した出版記念セミナーを2018年2月9日、大阪にて開催しました。

今回のセミナーは5名の方に登壇いただきました。
本書を執筆したUR密集市街地整備検討会を代表し、関東からUR都市機構の大野新五さん、URリンケージの林和馬さん、そして今回の関西編にお迎えしたのは、UR都市機構で長年現場に携わってこられた西日本副支社長の塩野孝行さん、本書の整備事例でもある大阪・門真市から中迫悟志門真市副市長、そしてコーディネーターとして関西大学教授の岡絵理子先生です。

今回はこのイベントレポートを3回に分けてお送りします。


URによる35年の密集市街地整備事業を振り返る

まずは大野新五さんから、密集市街地を整備するための事業手法の変遷を解説してもらいました。

URの整備事業は、初動期(課題やまちの将来像の共有)・展開期(計画的な建て替え誘導、合意形成)・活動期(事業実施)の3つのフェーズで考えられています。
すべてのフェーズで総合的に自治体や民間と協働しながら整備事業を支援していくのですが、中でも大切なのは、最終的に自律的な建て替えのサイクルを誘発することだと言います。
そのために、目に見えるかたちで“先導的事業”を取り組むことが、 URが担う一つの大きな役割とされます。
例えば、生活道路をひとつ整備すれば、周りの建物もじわじわと自律更新し始めます。
そうした防災面・生活面でも住民による主体的な居住環境のメンテナンスを誘発するのが、本事業の目指すところとされています。

こうした先導的事業を実現するためには多くの権利者調整が必要となり、35年に及ぶ試行錯誤のなかで、事業手法も様々に発展してきました。

時代の要請とUR事業手法の変遷
住宅供給から市街地整備へ:URへの時代の要請

転換点1:阪神・淡路大震災:1995

1995年に起こった阪神・淡路大震災が、密集市街地整備の大きな契機となっています。1997年には密集法が公布され、住宅供給にあわせた周辺市街地の環境整備を柱としていたURの役割が、都市の防災性向上に大きくシフトしました。
転換点2:密集法改正:2007

2007年の密集法改正が二つ目の転換点です。都市の骨格的施設整備(都市計画道路や防災公園等)に加え、街区内整備も担っていくこととなったのです。防災街区整備事業密集法改正によって従前居住者の住宅をつくることができるようになるなど、街区の側(ガワ)の都市の骨格的施設整備という仕事から、街区の内部のアンコ部分に関わるようになり、6m幅員の主要生活道路などの整備にも着手していくこととなりました。
転換点3:危険密集エリアの公表:2012

三つ目の転機が2012年の「危険密集エリアの公表」でした。都市の防災性を迅速に高めるためにも、URが機動的に土地を買って道路拡幅や公園整備を推し進め、まちの防災機能を再編していく木密エリアの不燃化促進事業を開始します。

たとえば東京の戸越1・2丁目では、 URがコーディネーターとなり道路拡幅による補償費を道路沿道住民の生活再建の原資にするという枠組みで道路整備及び沿道不燃化を実現しました。
世田谷区太子堂・三宿地区では、病院跡地に住宅等を整備する民間事業者を誘致する際、土地の一部を周辺密集市街地整備に活用するための代替地として留保しておく、つまり道路拡幅などで再建が必要となった住民のために土地を温存しておく枠組みを取り入れました。

木密エリア不燃化促進事業は、先導的事業を促進させるため、「木密エリアの機動的な土地取得」を可能にしました。
もともと小さな敷地の住宅が道路拡幅事業に直面した場合、残地だけでは住宅を再建できません。
そのときにURが木密エリアで取得した土地を“代替地”として活用するという枠組みです。
また、これは、地区全体へ波及する連鎖的事業への展開にも繋げることができると考えているそうです。

関西では特に、門真市で整備事業が進められてきました。
防災整備を行った地区では、新たに若い世代の人たちが移り住んできたり、より良いまちにしようという住民の機運も高まってきているようです。
道路整備や街区整備でも自治体や住民が主体的に景観的な配慮をしたりと、良い連鎖に繋がることを期待して取組んできたということです。

新興住宅地整備や再開発のような“わかりやすさ”がない分、効果が見えづらいと言われる密集市街地整備ですが、地道な取り組みを続け課題を解決してきた15の事例を紹介することで、まだ整備が進まないエリアでも、現場の悩みや課題に寄り添える方法を一緒に模索するきっかけとしたい、との思いで本書をつくったと言う大野さん。
関西でも、阪神・淡路大震災後から、防災がさかんに叫ばれてきたものの、いざ取り組むとなると、「防災」という大義だけでは、動機づけとして不十分なのだそうです。
防災だけを目的とせず、生活環境を向上させる契機として、地域の価値を上げる(バリューアップ)サイクルと両輪で進めていく視点を持つことで、多様な地元主体の皆さんと連携したまちづくりが実現し、結果的にまちの防災性も向上するのだそうです。

より具体的な事例の手法については本書で詳しく紹介しています。

▼ 続きは本書で ▼

密集市街地の防災と住環境整備
実践にみる15の処方箋

UR密集市街地整備検討会 編著

ひとたび火災や地震が起これば脆弱さが露呈する密集市街地。日常を快適に暮らしつつも、災害で生存を危ぶまれることのない都市の再編に向けて、UR都市機構が取り組んだ15の事業手法を総覧。道路拡幅や共同化、防災公園整備、住民の生活再建策や合意形成手法、自律更新の誘発まで。35年に及ぶ多様な課題解決へのアプローチ。

A5判・288頁・定価 本体2700円+税


いただいたサポートは、当社の出版活動のために大切に使わせていただきます。