10 拾翆亭と下御霊神社
京都の左官建築家・森田一弥さんが、トウキョウの建築家・塚本由晴さんを案内する『京都土壁案内』(学芸出版社)。
歴史や様式だけじゃない、多様な表情をみせる土壁の魅力が満載です!
2日にわたる、京都での取材の模様をレポートします。
訪れる人
塚本由晴さん
建築家。アトリエ・ワン主宰
東京工業大学大学院准教授(当時)
案内する人
森田一弥さん
建築家+左官職人
森田一弥建築設計事務所主宰
前回のようす
京都御所の中に、拾翆亭という旧九条家の別邸があります。江戸後期に茶会や歌会の場として建てられたそうです。
開放的な縁側から池を望むことができる拾翆亭を、庭園から見る。
建物は二層の数寄屋風書院造りで、1階の広間からは、大きな広縁を介して池を中心とする庭園が望めます。
この開放的な広間に加え、もうひとつ三畳の茶室があります。
対照的な薄暗い空間になっており、蛍壁と呼ばれる黒ずんだ壁には、蛍のようにところどころぼんやりと斑点が浮かび上がっています。静寂な空間です。
現存する貴族の茶室として貴重なものですが、毎週金土曜は拝観することができます。
薄暗い茶室のなかで蛍壁を撮影中の塚本さん(シルエット)。
御所から一歩南へ、寺町通り沿いに下御霊神社があります。このあたりは、京の三名水の一つに挙げられている染井(梨木神社の境内にある)とともに、水が美味しいことで知られています。
社殿の裏側に、朽ちかけてはいるものの蔵があって、扉には菊とオモダカの立派な鏝絵(レリーフ)が施されています。オモダカは、この神社の紋章のようです。
蔵の鏝絵は、左官職人による芸術作品です。いまはこんな立派な技を持つ人は、限られているのかもしれませんが、日本の伝統文化として、伝えていきたいものです。
下御霊神社の蔵。重厚な扉の内側には、見事な鏝絵が。
(第11回に続く)
京都土壁案内
塚本由晴・森田一弥 著
寺社や茶室はもとより、お茶屋や洋館、蔵や土塀まで、時を経て町に滲み出た土壁の魅力を紐解き、巡る、今日の京都の建築・街歩きガイド。京都の若手建築家で左官職人でもある森田一弥の案内は初心者にも優しく、塚本由晴(アトリエ・ワン)の撮り下ろし写真は町の日常に潜む土壁の迫力を見事に切り取った。素人も愛好家も必見。
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