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データは消える、本は残る

「この20年で変らなかったのは、本への思い入れを読者に伝えようとし続けた書店員たちの存在である。彼ら、彼女たちがこれからも書店を支え続けるのである。・・・」 学芸出版社営業部の名物社員・藤原がお送りする、本と書店をめぐる四方山話。

コンピュータ社会では情報は無料であることが前提である。
もちろん有料であるものもあるが、多くの人は無料情報だけで過ごしている。タダで情報が手に入ることは有難いことであるが、無料であるだけに情報提供者はその情報を簡単に削除することが多い。
昨日あったデータが今日はないということがしばしば起こる。またコンピュータ社会では、情報が常に更新(更新された情報が正しいのか間違っているのかは別問題)されていて、昨日と今日の違いなど全く分からない。

本の世界における情報は有料である。
自分が納得して財布から紙幣を取り出して購入したものである。よって情報を提供する側はその情報に大変な責任を持っているということになる。
その責任者とは著者であり、出版社である。

またこれらは「本という商品」になって巷に流通しているので、内容に不備があった場合、それを全ての商品に対して訂正することは難しい。
間違った情報を掲載した本を買ってしまったら、間違った情報はいつまでも手元に残る。不備が不備として残るのが本、不備が不備であったことを消去してしまうのがネット情報ということだ。
ネット情報はそのものが簡単にこの世から消える。
本は燃やさない限り残り続ける。

忘れてしまっていたことをふと思い出し、確かに本棚の3番目くらいにあの本はあったよなぁ、なんて本棚をゴソゴソして情報を取り出すような作業は、コンピュータ社会ではあり得ない。
情報が欲しい場合は検索サイトでキーワードを叩けば、何らかの情報は手に入る。本を探す作業とは、本の居場所の記憶を手繰り、本の中にある数行に思いを馳せる行為だ。

書店とは、本というものが情報として格納されている場所だ。だから書店を訪れる人はわくわくするのだ。

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