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棚に影あり

「この20年で変らなかったのは、本への思い入れを読者に伝えようとし続けた書店員たちの存在である。彼ら、彼女たちがこれからも書店を支え続けるのである。・・・」 学芸出版社営業部の名物社員・藤原がお送りする、本と書店をめぐる四方山話。

書店の担当者と話をしていると、背後に人の気配を感じることがある。
そんなときは書店さんが、その気配に対して目でサインを送っている場合が多い。サインの先にいるのは他の版元だ。
「今、別の版元さんと話をしているので、もうすこし待っててね。」という具合である。

これは逆の場合もある。
店に行くと先客あり。
話をすべき担当者は熱心に別の版元と話をしている。
しかたがないので暫く棚を見て回り、戻って来るとまだ話をしている。
これはちょっとアピールすべきだなと思い、担当者の視線に入る場所に立つ。
それに気付いた担当者は、先ほどの視線を僕の方に送ってくる。
「もう少し待っててね。」

しかしこの「もう少し」が曲者である。
5分なのか10分なのか分からない。
再度「もう少し」待つことにする。
しかし再び戻って来るとまだ話をしている。

気が短い僕は、話をしている版元の頭越しに「また来ます」と担当者に声を掛けて店を出てしまうである。
申し訳なさそうにしているので、悪いなぁと思うのだが、そんなに待てない。
次の用事もあるのだ。

そして店を出ようとしたら、棚に影があった。
さらに待っている版元がいたのである。
人気のある担当者には版元の営業マンが群がる。
人気があるイコール聞き上手、話上手、商品に対して熱心、この3拍子が揃っていると多少時間を掛けて待ってもいいと思うのである。

たくさん注文をくれるとかそういうことではなく、話をしていて盛り上がれるかどうかだ。
そんな書店さんには情報が集まり、品揃えがよくなる。
だからその書店は売れる。
そしてまた棚の影に版元が寄り添うのである。

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