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思考をブラッシュアップし社会と連鎖するTwitterの使い方|『建築家のためのウェブ発信講義』【試し読み】

2018年4月初旬発売の新刊『建築家のためのウェブ発信講義』
建築系ウェブメディア「アーキテクチャーフォト」編集長の後藤連平さんが、藤村龍至さん(RFA)、連勇太朗さん(モクチン企画)、豊田啓介さん(noiz)など、ウェブを使いこなす建築家たちへの取材を交えながら、SNS時代ならではの新しい「建築家」行動戦略を解説した一冊です。

この記事では、3章「ウェブを使いこなす建築家たち 実践・分析編」で藤村龍至さんのTwitter活用法について解説した講「思考をブラッシュアップし社会と連鎖するTwitterの使い方」の一部を公開します。

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メディアも設計する意思を持つ建築家

藤村龍至さんは建築家としての活動当初より、建築設計のみならず自身が主体となった議論の場や発信を行ってきた人物として知られています。
私自身、藤村さんたちが主催した、2009年開催の建築を議論するためのイベント「LIVE ROUND ABOUT JOURNAL」に聴衆として参加したことがあります。
イベント会場後方には「編集スペース」が設けられており、そこでは、驚くべきことに当日の議論をその場で文字に起こし、編集をし、新聞のような形式で発行するということが行われていました。
それを目の当たりにした時、藤村さんは、建築だけでなく、イベントを含むメディアも設計し、発信しようとする意志のある方だと強く感じました。

また、2010年に行われた「浜松建築会議」というイベントでも共に議論をさせていただいたことがあります。
イベントの壇上で、各者の発表に的確なコメントをすると同時に、Twitterでの当日の会議に関するコメントをピックアップし、リアルタイムで、そのコメントを会場の議論にも反映させていく様子は、非常に新鮮でしたし、SNSを使いこなしている建築家であるという印象を受けました。

様々なメディアからより注目されるようになった現在でも、藤村さんはSNSで発信することを継続しています。
私はそれをフォローして一読者として閲覧していますが、藤村さんのウェブ発信は、自身の活動をPRするだけではなく、自身と社会との距離を測ったり、自身の考えをSNSでの対話の中から洗練させようとする姿勢が感じられます。
第4講では、「学問としての建築」を志す建築家の皆さんに藤村さんのウェブ発信から学ぶべき視点をいくつか紹介します。


SNS上で行う小さな思考実験

私は、主にTwitterとFacebookで藤村さんのウェブ発信をフォローしています。ウェブを通じて、自身の考え方をブラッシュアップしたり、ウェブ上に建築を批評する場をつくろうとする藤村さんにとってSNSは最適なツールです。

ウェブの中でもSNSは、自身の発信に関するリアクションが得られやすい場だと言えます。自身の発言に対し、同じサービスを使用している人ならだれでも、コメントがしやすい仕組みがつくられています。

特にTwitterとFacebookは、同じSNSでもInstagramと異なり、テキストの優位性が高い設計がなされ、ジャーナリストの津田大介さんや批評家の東浩紀さんに代表されるように言論の場として機能しており、批評を発信するのに適していると言えます。
また、どちらにも、「いいね」ボタンがあります。投稿内容に対しワンクリック(ワンタップ)でその意思を伝えられる仕組みが存在しており、ウェブ上に発信した自身の論考や、理論に対する反響の大きさをすぐさま知ることもできます。これは紙媒体にはないウェブ独自の仕組みだと言えます。

実際に私も、そのような感覚でSNSを眺めているところがあります。
アーキテクチャーフォトには様々な情報が掲載されますが、その情報が読者の琴線に触れたかを、その投稿に対するSNS上での反響から推測することができます。
Twitterならば「リツイート」「いいね」の数、Facebookならば、「いいね!」の数が、投稿ごとに大きく異なります。
そしてその数は、リンク先の情報が同じだったとしても紹介の文章の書き方を少し変えただけで、大きく伸びたり減ったりします。
その違いを観察・分析していくことで、自身の考えを社会に理解してもらうための手掛りを得られると思っています。

建築家が自身の理論を発信したとしても、その理論が正確に伝わり、多くの方々に理解してもらえなければ意味がありません。
そのためには、常に情報を受け取る側の聴衆や社会の動きを感じている必要があります。
TwitterやFacebookに、自身の考えを発信することは、どのような言葉で、どのように説明すれば聴衆・社会に響く言葉になるのか理解するための、小さな思考実験と捉えることができます。

藤村さんが、日常的に自身の考えをTwitter、Facebookに投稿し、それに対するリアクションを閲覧したり、拡散したりする行為は、自身の建築理論をブラッシュアップしたり、社会に伝えていくことに大きく貢献しているはずです。


ウェブ上に自身の作品の批評空間を生み出す

藤村さんが、埼玉の大宮駅前に完成させた〈OM TERRACE〉という公共施設があります。
〈OM TERRACE〉は、公共トイレ・レンタサイクルのステーション・屋上に設けられた「TERRACE」と呼ばれる空間で構成された建築です。
特に「TERRACE」は、都市との距離感が絶妙にコントロールされており訪問者が自然と滞在したくなる雰囲気が生まれています。とても興味深い作品ですが建築のみならず、この建物を取り巻くウェブ上の動きも興味深く感じました。

▼GOOD DESIGN|グッドデザイン・ベスト100も受賞した
〈OM TERRACE〉

内覧会後から数日間、私のFacebook、Twitterのタイムラインは〈OM TERRACE〉に関する、建築家による批評テキストで埋め尽くされました。
藤村さん自身が呼びかけたことで、〈OM TERRACE〉を訪問した建築家たちの様々な論考が投稿されTwitterのリツイート機能・Facebookのシェア機能を活用してSNS上をジャックするような状況が起きていたのです。

一般的に建築メディアでは、建築家自身による作品解説は間違いなく見ることができますが、その建築に対する批評というのは必ずしもみられるものではありません。
SNSを利用し、様々な建築家がそれぞれの視点で同じ建築を語るという状況は、その作品に対する多様な見方を促します。
私自身、その批評から、〈OM TERRACE〉の建築としての様々な側面を知ることができました。

特に建築家の玉井洋一さん(アトリエ・ワン パートナー)による『これは大宮駅前における「基準階の無い雑居ビル」なのではないか』という視点にはハッとさせられました。
だれもが触れているビルディングタイプを変形することで「人通しと風通しがいい」空間が生まれているという指摘は非常に腑に落ちるものでした。

どのような建築家にとっても、自分の手掛けた空間を体験した他者の批評は歓迎すべきものですし、それが自身の建築に対する思考を発展させるヒントになります。

また藤村さんは、SNSを利用して自作に関する批評を拡散することで、自身の作品をより深く、自身のフォロワーに理解してもらう機会としても意図したはずです。
ウェブ上に投稿された多数の建築家たちの多角的な指摘・解説によって、〈OM TERRACE〉の建築としての意義や存在が鮮明になったのです。

紙媒体に掲載される批評や解説はアカデミックな建築の世界でその価値を位置づけるために必要だと思います。
建築作品の発表の場、議論の場というのは、現在でも紙の専門誌上で行われることが一般的ですし、歴史が積み重なっていき、それが未来に参照される媒体として、世の中に残っていくという雑誌メディアの存在はきわめて重要です。

しかし一方で可視化されたSNSの批評は、その多面性・重層性という意味において、〈OM TERRACE〉に新たな価値を与えています。
この建築を中心に言説が飛び交う様子は、ウェブを使用した建築の伝達の発明であり、間違いなく作品発表の形態そのものを進化させたと言えます。

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▼ 続きは本書で ▼

建築家のためのウェブ発信講義

アーキテクチャーフォト・後藤連平 著

ゼロから仕事をつくるためのプロモーション、社会を巻き込む建築理論の構築、施主候補との信頼関係を築くコミュニケーション。建築家9名がウェブ上で打ち出す個性的な実践を手掛りに、読者各々の目的に合った情報発信の方法を丁寧に指南。建築メディアに精通する著者によるSNS時代ならではの新しい「建築家」行動戦略!

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(装丁:UMA / design farm 原田祐馬・山副佳祐)



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