蒲田健の収録後記:柳美里さん
ねこは人に対して、自ら積極的に働きかけて関与しようとする
わけではない。自らの為したいことを気高く為すのみであり、
必要があれば人に近づいてやってもいいかな、というスタンスである。
しかしながら結果として、人を導き、道を示唆している
-少なくともそう見える-ことはしばしばある。
人が勝手にそう忖度し、都合よく解釈しているだけなのかもしれない。
ねこ自身にとっては全く意図せざる行為であるのかもしれない。
だが、ねこが介在することによって何らかの作用が働くということは
やはりあるのだ。
作家として30年、そして芥川賞受賞から20年という節目の今年出版された
柳美里さんの最新作「ねこのおうち」。
一貫して人の生と死を描き続けてきた柳さん。そこはブレることはない。
そして今作ではそこにねこという彩りが鮮やかに加えられた。
当初はねこを媒介として、人の闇を描く構想だった。だが震災を機に
180度構想が変わる。
光と闇は表裏一体である。闇の存在は否定しない。闇は確かに存在する。
しかし視点を少し動かすだけで、光が当たる面が見える。
それは描くアプローチの方向の違いに過ぎず、描く対象は同じものに
なりうる。ならば今アプローチすべき方向は光の方ではないのか。
かくして、柳美里作品の中でも格別に温かい、陽だまりのような物語が
生まれ出でた。
生きることの哀しみ、そして煌きが、美しい。
「わが道を 気ままに突き進むねこよ
なんで私の 気持ちが読める?」
P.S.幼少から動物に囲まれて暮らしてきたという柳さん。
現在もねこ4匹はじめその他の小動物も飼ってらっしゃるとのこと。
我が家にもねこがいるということもあり、オフトークでは各々の
エピソードが絶えませんでした。
いつもご愛聴有難うございます。 宜しければサポートお願い致します!