1年前③
小学校からの同級生『うだぞう』を、お笑いに誘うと決めたものの、よく考えたら、これはとんでもないことにような気がしてきた。
「コンビ組もうや!」は、もはや「付き合ってや!」と同じ意味だ。ってことは告白なのだ。
軽く告白したとしても、
「(実は俺、お前のこと、おもしろいと思ってるんだ。いつも一緒にいて楽しいしし、何より、いつも俺にツッコんでくれる。その度に俺、『お前しかいない』って思ってたんだよ。今、誰とコンビ組んでなくて、もしもお前が、少しでも俺のことをおもしろいと思ってくれてるなら、、、)コンビ組もうや!」
と、うだぞうが捉えるかもしれない。そうなったら、前半部分が恥ずかしすぎる。ただ、長文で伝えて『重たい』と思われるのも嫌だ。
さらに言えば、コンビとして、末永く活動していきたいってことなのだから、
「今からの人生、ほとんど一緒にいよう!」
と言っていると思われるかも知れない。『付き合ってください!』と『結婚してください!』の、ちょうど間くらいの感じに思われたら、昨日までの関係には絶対に戻れない。
そんなことになるのなら、何も伝えずに、一人NSCに行ったほうが良いのかも知れないとまで思った。
たまにお笑いコンビが『夫婦』にたとえる方がいますが、スタートがほぼプロポーズなのだから、あながち間違ってはいないと思う。
四の五の言っていても仕方ないので、
「今日の夜、電話出来る時間ある?」
とメールを送った。すぐに
「21時くらいでいいならいけるで。」
と返ってきたので、
「じゃあ、それでよろしく。」
と返した。
僕が告白をする時間は、21時となった。メールを送ったのは夕方だったので、まだ4時間ほどあったと思う。
一人で考えてても、良くない結果ばかりを想像してしまうので、クズパーティーのもうひとりである、『よじょうちゃん』にメールを送った。
「今日の夜、うだぞうをお笑いに誘ってみるわ。」
すぐに返ってきた。
「おぉ!ええやん!2人やったいけると思うで!」
(何を根拠に、、、)
と思いながら、さらにメールを送った。
「よじょうちゃん、今日の20時くらいから何してる?」
またすぐに返ってきた。
「何もしてへんと思う。なんで?」
(何もしてへんことが決まってるってことは、何もしないって決めてるってことやん、、、)
と思いながら、すぐさま送った。
「20時から一緒に飲まへん?その勢いで、21時に電話しようと思って。」
するとよじょうちゃんは、
「ええで!おくちゃんの家行くわ!」
と言ってくれた。昔のドラマなどで、女子が好きな男子を体育館裏に呼び出す時、友達に付いてきてもらう気持ちがよくわかった。
20時になり、よじょうちゃんが家に来た。
2人で飲みながら、
「うだぞう、オッケーしてくれるかな?」
『大丈夫やって!』
「いけるやんなぁ!?」
『いけるって!』
と、不毛な会話をただただ繰り返し、1時間、酒を煽り続けた。そして、21時なり、僕が、
「21時やな。」
とボソッというと、よじょうちゃんは、
『よっしゃ、電話しよ!』
と元気よく言いながら、新しいお酒の缶を開けようとしていた。
(完全に俺をツマミにして酒飲む気やん、、、)
と思いながら、うだぞうに電話をかけた。
「、、、もしもし?今、大丈夫?」
『おん。バイト終わったとこ。どうしたん?』
「今、よじょうちゃんと飲んでんねんけど、まぁ単刀直入に言うわ。コンビ組んで、一緒にM-1出えへん?」
『、、、、』
「、、、、」
黙り込む2人、よじょうちゃんはニヤニヤしながら、コチラを見て、ビールの缶を開けようとしている。
『、、、、』
「、、、、」
まだ続く沈黙に、さすがによじょうちゃんも不安そうな顔しだした。そして、なぜかその流れで、ビールの缶を開けた。
『プシュ!』
っと鳴ったそのとき、うだぞうが口火を切った。
『ごめん。』
「うん。そやんな。」
『お笑いは好きやし、おくちゃんもおもろいと思うけど、自分がお笑いをやるって考えはないわ。』
「そやんな。急にごめんな。」
『いや、こっちこそごめんな。』
「全然!、、、、じゃあ、、、また!」
と、僕が言おうとした瞬間、僕の電話が手元から無くなった。
パッと見ると、よじょうちゃんが、僕の携帯を奪って、うだぞうにキレていた。
『なんでやねん!おくちゃんおもろいやんけ!コンビ組んだれや!」
最初は、ただのヤジ馬根性で、この場に参加してたであろうよじょうちゃんが、いつの間にか、告白に付いてきてくれてる友達級のテンションになっていたのだ。
「あんた!なんでフるん!?あの子可愛いやん!付き合ったりぃや!」
と言っているように聞こえた。めちゃくちゃ恥ずかしいからやめてほしかった。そこからしばらく、よじょうちゃんはうだぞうに、僕の良さをプレゼンし続けた。ホンマにやめてほしかった。
よじょうちゃんが、僕に戻さず、なぜか電話を切った。そして、ビールを飲みながら、
「ホンマ、アイツはわかってへんわ、、、大体アイツは、、、」
と何やらブツブツ言っていたが、フラれた直後の僕の耳には届いていなく、頭の中では、
(やっぱりNSC行くしかないか。同級生で、お笑いやってくれそうで、暇そうなやつなんて、もうおらんもんな、、、)
という考えを、数十回、反芻していた。その間も、よじょうちゃんは一人でブツブツ言っていた。そんなよじょうちゃんを見て、
(こいつ、いつまでおんねん?慰めるわけでもなく、ただ、ブツブツ言うだけって、どんだけ暇やねん。はよ帰れや。)
と思った直後、すぐに気づいた。
(あれ?こいつ暇そうやな。)
さらに、
(よう考えたらコイツ、俺のことおもろいって言うてたよな?あれ?コイツ、誘ったらお笑いやるんちゃうん?もう、一回フラれるのも、二回フラれるのも一緒やし、ノリで誘ってみよ!)
となって、その場で、
「なぁなぁ、よじょうちゃん。」
『ん?なに?』
「来年の今ぐらいの時期、二人とも、なにもしてなかったらさ、一緒にM-1に出えへん?」
と切り出した。よじょうちゃんは少し黙ったものの、わりとすぐに口を開いた。
『、、、、俺、』
「うん。」
『俺、ボケしか出来へんで?』
(、、、どういう意味や???『こんな俺でいいなら』ってことか???)
と思っていたら、
『じゃあ、よろしく。』
とよじょうちゃんは言った。
どうやらコンビが結成されたようだ。しかも、誘った直後に、役割まで決められた。コンビ名も無いのに。
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