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【谷川岳】雪ニモマケズ、風ニモマケズ

 群馬と新潟の県境にそびえる谷川岳はネコの耳のような山頂を持つ。いわゆる双耳峰で、北峰の「オキの耳」が標高1977メートル、南峰の「トマの耳」が標高1963メートルである。

 「耳二つとはいみじくも付けられた名前で、上越線の上牧(かみもく)あたりから望むと、遠くに猫の耳を立てたようにキチンと二つの耳が並んでいる。その形が実にスッキリして清く鋭く、この山が昔から奥上州の名山とされたわけも納得される」。深田久弥は『日本百名山』の中でそう評した。

 かつて遭難死や岩登りの転落死が後を絶たず「魔の山」という異名を持っている。だがロープウェイが整備されてからは、首都圏からアクセスしやすいこともあり、気軽に登る登山者が増えているようだ。ちなみに谷川岳の真下を通る「清水トンネル」は川端康成の『雪国』の冒頭に登場する「国境の長いトンネル」のモデルとされる。

 2月3日早朝、上野発の新幹線でJR高崎駅へ。在来線に乗り換え午前7時40分ごろ渋川駅に到着。登山仲間の車で谷川岳へ向かう。午前9時ごろ「谷川岳ロープウェイ」の土合口駅(山麓駅)に到着する。ロープウェイは全長2400メートル。高低差573メートルを約15分で上がり、天神平駅(山頂駅)に到着。気温はマイナス5度、積雪は1・4メートル。駅舎を出たところには遭難対策の送受信機「ビーコン」が正常に作動するか確認できる「ビーコンチェッカー」が設置されていた。

ロープウェイから土合口駅方面を見る

 午前10時ごろ12本爪のアイゼンを装着して登山開始。いきなりの急登に息があがる。尾根に乗ると道は緩やかになる。前に登山者がいるのでトレースははっきりしている。

雪庇を踏み抜かないように注意

 午前11時ごろ「熊穴沢避難小屋」に到着。冬季は小屋の中には入れないようだ。氷でできた立派な自然のひさしの下で行動食をゆっくり食べようと思ったが、断続的に吹雪に襲われて、のんびりしていられない。

熊穴沢避難小屋は雪に埋もれていた

 小屋を離れると次第に雪道にも傾斜が出てくる。午前11時40分に「天狗の溜まり場」に到着。風の強さは増すばかり。視界も悪い。先に歩いて行った登山者の足跡を見つけるのも困難になってくる。唯一の救いは「沼田山岳会」が設置している赤色の小旗。この旗を頼りに慎重に山頂にめざしていく。

 午後0時半に「肩ノ小屋」に到着。中に入るとすでに登山者が4人休憩していた。小屋と言っても冬季期間は玄関部分だけが解放されているようで広くはない。だが風を防げる場所があるだけでもありがたい。

肩ノ小屋で休憩

 小屋で菓子パンをひとつお腹に収めていざ山頂。午後1時にトマの耳に到着。濃霧の中に標柱がただ立っている。この日はほとんどの登山者がトマの耳で引き返していたので、同じくオキの耳はあきらめる。

 小屋に引き返し、即席ラーメンを食べる。体温を取り戻したところで下りはじめるが、ここで危うく遭難しかける。四方八方が真っ白い濃霧に包まれ、下りの道を一時的に見失う。GPSで現在地を確認できる登山アプリを使い、正規の道に何とか戻った。本格的なホワイトアウトを初めて経験し、雪山の恐ろしさを痛感した。

 1時間ほど下ると天候は回復傾向に。青空が雲の隙間から見える瞬間もあった。途中バックカントリースキーを楽しむ外国人のグループと会った。ニュージーランドから来たという。

 午後3時15分に天神平駅に戻ってきて無事登山終了。下山後は車でJR上越線沿いを南下。「上牧温泉 風和の湯」(みなかみ町)で冷え切った体を温める。内湯のほかに駐車場から丸見えのこぢんまりとした露天風呂があった。

「風和の湯」

 夕食は利根川と阿能川の合流地点近くにあるしゃぶしゃぶ店「雨ニモマケズ」。和豚もちぶた、麦豚、やまと豚、赤城ポークのブランド豚4種が楽しめるセットを注文。かつお節ベースのそばつゆで食べることで豚肉の素材の味をしっかり楽しめる。葉ネギはネギ特有の臭みが一切なく、いい脇役を演じている。そして疲れた体にはアルコール。地ビールの「ヤマビト・エール」が喉からキューッと胃に落ちて、臓器に染みわたる。雪ニモマケズ、風ニモマケズ、頑張った甲斐があった。(2024年2月3日)

贅沢な晩餐だった

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