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久しぶりのテント泊【瑞牆山・金峰山】

 おそらくびっくりしているに違いない。なにしろ10年近く暗い段ボール箱の底に眠らせていたのだから。買ったはいいが一度も使っていなかった1人用のテント。この夏ついに日の光を浴びることになった。

 私は東京都内在住のアラサー会社員。高校時代は山岳部に所属してテント泊もしょっちゅうしていた。だが、社会人になってからは登山はとんとご無沙汰になっていた。「いずれ使うだろう」と購入した個人用のテントは宝の持ち腐れ状態だった。だが数年前から登山への関心が復活。日帰り登山を繰り返していたが、いよいよ久しぶりのテント泊に出かけることになった。

 夏真っ盛りの2023年8月5日。山梨県のJR韮崎駅に降り立った。行先は日本百名山の瑞牆山。駅からバスで登山口の瑞牆山荘に向かう。午前11時ごろ登山を開始。久しぶりのテント泊装備。背中にずっしりと重みを感じる。1時間近く歩くと小屋が見えてきた。

 富士見平小屋のテント場が今晩の宿泊地だ。久しぶりのテント設営に山岳部時代の青春の記憶がよみがえる。思い出に浸りながらの慣れない設営にいつの間にか1時間も経過してしまった。テント内にメインザックをデポしてサブザックを担いで瑞牆山に向かう。

 小屋からは少し下って天鳥川を渡る。その後は岩の隙間を登るような急坂が続く。時にはゴツゴツとした岩肌をよじ登っていく。午後2時過ぎ、瑞牆山の山頂に到着する。山頂付近は断崖絶壁。高所恐怖症の人は足が震えてしまうくらいスリル満点。でも岩の上に立って眺める景色は美しかった。

瑞牆山山頂。満足の大展望

 「この山は岩峰の集合体とでも言うべきか。(中略)まるで針葉樹の大森林から、ニョキニョキと岩が生えているような趣である」。「日本百名山」の著者である深田久弥は瑞牆山をこう表現した。「岩峰群」が印象的な山だった。

 午後4時前にテント場に戻ってくる。ガスバーナーでお湯を沸かしてカップ麺を食べる。でもそれだけでは口さみしい。引き寄せられるように小屋に近づくと、視線の先には飲食のメニューが記された看板。「鹿三種ソーセージ」と「奥秩父山賊ビール」を注文する。ピリ辛なソーセージと濃厚なビールは相性バツグン。贅沢な晩酌を済ませた頃ちょうど日が暮れてきた。テントに入り寝袋を準備する。疲労感も相まってすぐに眠りに落ちた。

 翌日は午前5時すぎに起床。「奥秩父の盟主」と言われる金峰山をめざす。のぼる太陽に向かって進む。木立の隙間から差し込む日差しがすがすがしい。日光に照らされたクモの巣が時折キラリと光る。

 大日小屋を通り過ぎて砂払ノ頭に到着。青空に向かってそびえたつような岩の峰が勇ましい。午前9時ごろ「五丈岩」という岩塊が特徴的な金峰山の山頂に立つ。日差しは強いが吹き上げる風がやや肌寒い。山頂から少し下ったところにある「金峰山小屋」で休憩。「手作りチーズケーキ」と「自家製梅ジュース」で元気を回復する。

金峰山山頂。シンボルの五丈岩を望む

 登って来た道を引き返す。右足を上げるとももの付け根が少しだけ痛む。テント泊登山2日目でそれなりに足に負担がかかっていることを実感する。正午すぎ、富士見平小屋に帰還してテントを回収。バス停のある登山口の瑞牆山荘まで戻り、久しぶりのテント泊登山を終える。バスの到着まで時間があったので山荘でライス付きの手ごねハンバーグを食べる。濃厚なデミグラスソースと温かい白米が疲れた体にしみた。

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