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【黒斑山】ガトーショコラは綿菓子の中に

 ガトーショコラと聞くと濃厚なチョコレートケーキを想像する人が多いだろう。だが最近の登山愛好家は百名山の1つである浅間山(2568メートル、群馬、長野県境)を想起するらしい。雪化粧した茶色の山肌が粉砂糖を振りかけたガトーショコラに似ているから、ということのようだ。

 「わが国で火山の代表と言えば、浅間と阿蘇である」。『日本百名山』の著者深田久弥をしてそう言わしめた浅間山は近年も噴火しており、警戒レベルが引き上げられると立ち入り規制エリアが拡大される。2023年3月には気象庁が噴火警戒レベルを1から2に引き上げており、山頂火口からおおむね2キロメートルの立ち入りが禁止されている。

 つまり残念ながらいまガトーショコラの上に立つことはできない。だが遠目から望むことはできる。その絶好の展望スポットが浅間連峰の一角をなす黒斑山(2404メートル)。浅間山の西側に峰を連ねている山だ。

 2024年1月13日午前7時45分ごろ、JR高崎駅で登山仲間の乗用車に乗る。午前10時ごろ黒斑山の登山口となる車坂峠に到着する。ちょうど群馬県嬬恋村と長野県小諸市の境だ。ここには登山者らが休憩できるビジターセンターがある。そこでトイレを済ませ、午前10時半に登山を開始した。

車坂峠

 往路は表コースを進む。トレースは十分に踏み固められている。この日は買ったばかりの雪山用の登山靴を初めて使う。靴は試着が大切だとわかっているが、定価の半分という価格に惹かれてメルカリで落札したものだ。やや足首やかかとに空間がある気がするが、慣れると問題ないか。アイゼンも新調した。本格的な12本爪。セミワンタッチ式でかかとのコバをレバーロックで固定する。ずっしり重いが、しっかり氷雪をとらえる感覚がある。

 午後0時ごろ、槍ヶ鞘(やりがさや)に到着する。近くの避難小屋は先客でいっぱいだった。急坂を慎重に登り切った先にあるのが、岩肌が局所的に露出した「トーミの頭」だ。本来はここでガトーショコラが目の前に現れるはずだが、真っ白い濃霧が視界を遮っている。

トーミの頭

 山頂ではきっとガトーショコラを拝みたい。そう祈念しながら歩みを進める。午後0時半に黒斑山の山頂に到着。樹林帯に取り込まれた稜線の一部のような印象で、看板がなければ通り過ぎてしまいそうだ。そして、期待の眺望はと言うと、何も見えない。うっすらと輪郭が見えれば大福やショートケーキにでも例えたいところだが、そんな気配もない。目当てのガトーショコラは綿菓子の中に隠れてしまっていた。

 スイーツのことばかり考えているとお腹が減ってきた。昼食は山頂で即席ラーメンを食べる。その後は往路とは別のコースを使う。往路の北側の中コースで往路よりも短時間で下ることができる。午後2時半に車坂峠に戻ってきた。

 温泉はビジターセンター近くの高峰高原ホテル。ホテル内に日帰り温泉「こまくさの湯」がある。パンフレットによると、源泉はナトリウム豊富な布引温泉。「遠く八ヶ岳連峰や、運がいいと雲海や富士山も望める四季折々のロケーションが人気」という。この日は悪天候のため景色は望むべくもなかったが、一面ガラス張りの浴場は開放感があった。

こまくさの湯

 帰り道、国道18号沿いのイタリア料理店「ギオットーネ」(群馬県安中市)にふらっと立ち寄る。「もち豚の網焼きロースト」を注文。甘酸っぱいバルサミコソースが豚肉のうまさを引き立て、味わい深かった。これでお腹はいっぱい。スイーツを頼む余裕はなかった。

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