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And I Love Car

西の方、豪雨被害が心配ですが大丈夫でしょうか。こんなときにくだらない文章です。

自宅作業の合間、EGくんが本棚の絲山秋子さんをペラペラやっていたので自分も久しぶりにあれこれ読み返しているのだが、やっぱおもしろいな〜。なんちゅうか、文章のグルーヴ感がすばらしい。言葉の飛距離というのはここまであるんだなという感覚も覚える。ひとつのセンテンスが想像力の遥か彼方まで飛んでいくのは、言葉のイマジネーションを信じるに足ると思える瞬間のひとつ。
それから自分のなかのダサさをバッサバッサ切られていく心地よさも備えている。わりとしんどかった30代後半を乗り切れたのは、絲山さんの小説と出会ったというのも大きい。教えてくれた友達にすごく感謝しなくてはいけない。
オススメどれですか? と聞かれるんだけど、どれもいいんだよなあ。マジで絲山秋子に駄作なしだと思う。『離陸』だけは、ある程度絲山さんの本を読み込んでからのほうがいいかな…とは思いますが。
そんなんで「おもしろいっすね」「いいよなー」などとEGくんと話していた『スモールトーク』を読み返していた。6台のクルマが代わる代わる登場しながら物語が進んでいく連作小説なのだが、絲山さん自身がかなりのクルマ好きなので、運転の描写やディテールがとにかくすばらしい。読んでいると「ああおれクルマ好きだったなあ」という感覚がふつふつと呼び起こされる。

30代には本気で瓦職人になろうと思ったこともあったが、そういえばおれ、10代の頃にはけっこう本気で自動車の整備工になりたかったんだった。
内燃機関の外観的な美しさ、というのは小さい頃に作っていたタミヤのプラモデルから学んだ。親父がバイク乗りだったということもあり、2ストロークエンジンの魅力的なサウンドもタンデムシートでうとうとしながら聞いていた。そこからだんだんと内燃機関のメカニズムに興味が湧き、最新車種に興味が湧き、最新のエンジンテクノロジーに興味が湧き…という流れだったように思う。思春期の頃、親父との会話の接点もこのへんにあり、あのまま何事もなく、ろくでもないギターなんかにうつつを抜かすことがなければ、おれはきっと何かクルマに関わる仕事に就いていたのかもしれない。むしろ就いてみたかった…っていうこの話には顛末があるんだが、それはまた自伝で書きます。書きません。

で、まあ、はい。今やすっかりクルマの運転すらしなくなってしまった菅原ですが、『スモールトーク』の文庫版、登場した「クルマの解説」を書いていたのが自動車評論家の下野康史さんだった。
下野さん!
当時中学生の免許も持っていないガキなのに、クルマ雑誌をあれこれ眺めながら「あーだこーだ」言ってた自分、あれはいったい何だったんだと思うが、なんとなし本屋で手にとった下野さんの『読むクルマ』という単行本はとてもおもしろく、上下学校指定ジャージを着るカッペ中学生にも「こんなふうにいろんなクルマに乗ってみたい!」というあこがれを抱かせる魅力的な本だった。
久しぶりに読み返したい欲が湧いてきて、さっそくAmazonで購入した。有り体に言えば当時の最新車種のレビューをまとめた本なのだが、フランクで権威的なところがなく(権威的な人が多かったのよ…)、今読み返しても(取り上げる車種は当然二昔前なので古いが)とてもおもしろい本だった。おもしろい、というか、おれの価値観のベーシックの一部にはこの本の影響が少なからずあるとさえ思ってしまった。泥濘、という言葉を覚えたのもこの本だったな(なんてことも覚えているものだ)。
車種のレビューというのも押さえつつ、まずは読み物としておもしろいのがとてもいい。改めて下野さんの本をあれこれ注文してしまったので、久しぶりにクルマ熱が高まってきたりしていて。
しかしMacBookでヒーコラ言ってるアテクシがトーキョーでクルマなんか維持していけねえっす。最新車種を眺めてもどれもイマイチに思えるしなあ…ま、クルマに関してはもう最新を追っていけるほど詳しくないし、そもそも運転ほとんどしてないし。

おい、聞いてるか、拝啓15歳のオレ。ろくでもないギターを選んだことでけっこうおもしろいことになったお前の人生でも、クルマに関してはこんなくだらないオトナになっちまったぞ。違うユニバースで、お前はせめてエンジンをちくちくいじるおっさんになってくれよ。


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