見出し画像

【対談企画】 第2弾 | 若宮計画 若宮ハル×万能グローブガラパゴスダイナモス 川口大樹

若宮計画
若宮ハル Haru Wakamiya(写真左)
脚本・演出家
高校生の頃に演劇部に所属、様々な創作活動やWS、大会出場を経て演劇の面白さに触れる。在学中、他校の生徒との交流を求めて、高校生なら所属学校関係なく参加できるインプロ会を月に1回、市民センターなどで開催。そこで所属関係なく共に演劇を楽しむというスタイルを確立。 2018年、高校在学中に若宮計画を旗揚げ。所属関係なく演劇を楽しむスタイルを保つため、代表の若宮ハル1人しかメンバーがいないユニット制を採用。2020年頃までは同年代の若手を中心にして創作を行なってきたが、2021年初頭に東京、浅草九劇にて上演された「アルプススタンド のはしの方」の演出に抜擢。2021年後半からは、所属、年齢関係なく共に創作を行うスタイルに移行。

万能グローブガラパゴスダイナモス
川口大樹 Daiki Kawguchi
脚本家・演出家
福岡生まれ福岡育ち。万能グローブガラパゴスダイナモスに結成より参加。以降、ほぼ全ての作・演出を担当。
ちょっと突飛な人々が真剣に空回る様子をワンシチュエーションのスタイルで描くコメディが得意。
最近はSFな要素を混ぜてみたり、場面がどんどん変わったり、新たな形にも挑戦中。
スピッツとビーフジャーキーが好き。

インタビュアー:椎木樹人(万能グローブガラパゴスダイナモス代表)

川口:万能グローブガラパゴスダイナモスの作・演出、川口大樹です。よろしくお願いします。

若宮:若宮計画の若宮ハルです。脚本と演出を基本的にやっています。よろしくお願いします。

椎木:今回は北九州に拠点を置く若宮計画と、福岡に拠点を置くガラパの脚本・演出家対談です!僕が色々質問していきたいと思います。

北九州と福岡の演劇の違い


椎木:まず最初に、北九州と福岡に拠点を置くお二人が感じる、北九州と福岡の違いとかありますか?

川口:やっぱり一番は、北九州には北九州芸術劇場があるっていうのが明らかに違うかな。福岡ってそういう、芸劇(北九州芸術劇 場の略称)にあたるような場所がないから。「拠点」みたいな場所があるっていうのが北九州のイメージで。福岡は本当に...なんか ...野生の場、というか(笑)演劇人が、各々勝手にやっているって感じで。だから、そういう劇場が無いなかやっている身として は、北九州ってどういう感覚なんだろうな、っていうのは思うよね。拠点となる場所があるっていうのは、どういう感覚なんやろ なって興味ありますね。アイアンシアターも結構色々やっていたし。

✅枝光本町商店街アイアンシアターとは
北九州市八幡東区枝光本町にある劇場。
演劇だけじゃなく、さまざまなイベントを行っている。

若宮:私はこの間、『ロクコレ』っていうイベントで初めて福岡で公演をさせてもらったんですけど。福岡に、こんなに演劇をやってる人間がいるんだみたいに思って。北九州って私より下の代がちょっと少ない時期なんですよね、特に。だから 『ロクコレ』参加した時に、年下いっぱいいる、みたいな(笑)北九州は、その分、後継育成みたいなのは芸劇中心に。先輩劇団 が外部の若者を客演とかで呼んでくれるとかいうのは割とあるかな。劇団員だけで公演、みたいなのは少ないような気がしていて。 自分のまわりも「あの劇団の客演に出る」みたいな話とかはバンバン出てくる。まあ人口が少ないからっていうのが大きいのかもしれないですけども。大人のバックアップ体制、結束力が強いっていうのは北九州の特色なのかなあ、みたいなことを思いましたね。

川口:結束はあるよね、なんかね。確かにそのイメージはあるかも。北九州ってあんまりさ、世代の差がないイメージっていうか。 若宮さん達ぐらいの若い劇団も、飛ぶ劇場とかとあんまり垣根なく接点があるというか。そういうイメージがあるのはやっぱり芸劇があるからなのかな、とか思う。福岡は、やっぱり同世代の繋がりの方が強いイメージがあるかな。

椎木:若宮さんには、北九州の先輩方ってどういう風に見えてるんですか?

若宮:私はもともと高校演劇から入っているので。北九州地区は夏休みに劇塾みたいなことをやっていて。そこの講師に北九州のいろんな俳優さんや劇作家の人が講師として入ってくれるっていうのがあるんで。高校生の時からあの劇団の○○さん、みたいな繋がりがお互いあるんです。で、大学でも役者続ける子とかは、先輩たちに対して初めましてというより、あの時先生やってくれた○○さんみたいな。その前提があるから、ちょっと絡みやすいというか。相談とか、一緒に何かを行動するっていうことに対し て、そんな気負いしない子達が多いように思います。私たちの代は結構そうで、泊さん(飛ぶ劇場の脚本・演出家、泊篤志さん)とかはそんな感じでしたね。

川口:そうよね、福岡で俺らが若宮さんぐらいの時って、上の人たちって接点がそんな強くないからね。敵...、いや敵とは言わんけど(笑) 割と自分たちが生意気やったし、若いから。割と...「上の世代とかぶっ飛ばせ」ってマジで言ってたから(笑)すげえ 言ってた。

椎木:よく知りもしないのに(笑)会ったこともないのに。

川口:俺らはなんかわかんないけど...やっぱね、ちょっとライバル視してやってた。仲の良さもあると思うけど、その辺はどうなの?沢山の先輩たちに対して。

若宮:いやでも、面白くないとか、全然普通に言いますね。

川口:えー。言えるのすごいね。

若宮:人によるかもしれないですね。私は結構なんでも、聞かれたら言っちゃうタイプだから。面と向かって自分からオマエ面白くねーよ、みたいなことはそんなに言うタイプではないんですけど。聞かれた時とかは、前のほうが私はいいと思いました。みたいなのは結構言うので。何か、人によると思います(笑)そこらへんは。

川口:そこらへんの距離感が、福岡の上の人の付き合い方とはちょっと違う感じなんだなと。

お互いの劇団の印象

椎木:若宮計画が最初に出てきたときに、すごい熱さと生意気さというか。突き上げる感じのエネルギーを感じていて。精力的な若手が出てきたな、っていうイメージが僕はあったんですけど。川口さんは最初、若宮計画をどういうふうに捉えてました?

川口:企画力、というか。俺のイメージだけど、北九州ってすごくバックアップタイプで、さっき言ってたみたいに結構整ってい るから、劇場の企画から生まれている劇団とか多かったりすると思うけど、ある種、劇場じゃないとこから出てきたのってあんまりいなかったよね、っていう。骨のあるやつが出てきたという印象だし、良い意味でなんかすごく、エゴイスティックな奴らが出てきたみたいな印象はあったかなあ。それは結構久しぶりの感じだったから、面白いなあと思った。

椎木:どうですか若宮さん

若宮:なんか、自分が生意気ということは結構前から、重々承知なんです。先輩たちの目からみると、そうなんだろうなと思いつつ。でも、自分の怒りの矛先みたいなのは、割と同期の方に向かうんですよね。若宮計画は劇団じゃないので、私しかいないっていう体制で高校生のときから始めたんですけど。それも結局、部活内だとやる気のないヤツがいるからで。

椎木:ハハハハハ(笑)

若宮:部活だったら部活でやらないといけないじゃないですか。やる気のない人と一生懸命書いた戯曲をやりたくないなって思って。それだったらやる気のあるヤツだけ集まってやった方がみんなスッキリするよねって始めたっていう。なんか本当に、ただそれだけで始めたので。のし上がってやろうみたいな気持ちは1ミリもなく、自分が楽しければ。楽しいようにやりたいなあ、みたいな。だからどちらかというと、同期とかに対して、なんで皆やりたいやりたいって口でいうばっかりで自分から色々やんないんだろう、ていう話のほうがよくしますね。

椎木:そこの精神はちょっと似ているかもですね。

川口:『若宮計画』って。自分の名前つけるタイプの人が久しぶりに出てきたなと思った。

椎木:確かに確かに。

川口:自分の名前をつけるタイプって割といたりするけど、福岡だとあんまりいなかった気がするから。結構面白いなって。

椎木:昔はいたんですけどね、劇団坂口とかね。

川口:そうね、坂口さんが主宰でね。東京とかでも、とくお組、本谷有希子、根本宗子とかね。女性が多いですねそう言われれば。

若宮:小説家の伊藤計劃さんが好きで。○○ケイカクってつくの、かっこいいなってずっと思ってて。

川口:そこから来てんだ(笑)

若宮:大人計画ですか?って聞かれるんですけど。でも伊藤計劃なんですよ。

椎木:公演のナンバリングも独特だよね。第〇回公演とかじゃないよね?

若宮:そうですそうです。第〇公演っていう言い方をしたら演劇しかやっちゃいけないじゃないですか。

椎木:は~。なるほどね。

若宮:ある日演劇をしたくなくなったときに、また一から始めるのは面倒くさいから。音楽やりたくなったときに、そのまま第〇 計画はライブやります、みたいなことに引きずり込んだら楽かなって思って。で、公演ってつけないようにという。

椎木:じゃあ演劇だけにこだわっているということでもないんだ。

若宮:そうですね。もともと第三計画で『エンカウンター』っていうのをやったんですけど、昔、デパートだった場所をワンフロア全部借りて、そこで演劇もするし、他の人の作品のリーディングもするし、写真の個展を開いたりする。それをまとめて『エンカウンター』っていうイベント名で呼んでやってたこともあるんで。あんまり公演という感じじゃないこともしてたりしましたね。

椎木:逆に若宮さんから見てガラパってどういうふうに見えてるんですか?

若宮:なんか事務所みたいな。

椎木:(笑)芸能事務所みたいな?

若宮:そう、芸能事務所みたいな体制なんだろうなって。外から見るととても。北九州はそういうふうに体制を整えてやるっていうのが少ないから。そういう面でいうとガラパはとっても、俳優の事務所みたいな、芸能事務所みたいなイメージはありますね。 プロデュースがあって、みたいな。何か売るっていうことに対する熱量じゃないですけど、結構そこを組織として重要視してるの は、北九州にはあんまりないやり方なので、なるほどな、賢いやり方だな、と。

椎木:賢いやり方(笑)

若宮:すげえええって思いながらみてます。

椎木:どうですか川口さん

川口:そう見えてんだ、なるほどなって感じ。あんまり聞いたことないもんな、ガラパどう見えてる?って。何か昔はね、本当に...福岡の中では本当に嫌われ者だったから。

椎木:いやいやいや(笑)そんなことないけど。

川口:なんかやっぱ...俺が嫌ってたからね(笑)何か身内だけでお客さんがぐるぐる回ってる、みたいなのがすごい嫌いだった。 もっと沢山の人に観てもらいたい。っていうか、観てもらわないと自分たちがやってることが面白いかどうかがジャッジできないじゃん、みたいなのもすごく思ってたから。それは別にエンタメであろうがアート性が高いものであろうが、なんであろうとそうなんだけど。まず観てもらわんことには始まらんくない?みたいな。そこの努力やらないのはちょっと違うくないかな、みたいなことを。そういう意味ではすごく「外に向かってお客さん入れるんだ俺たちは」ってめっちゃやってたから。それをなんかまあ、 ガラパは宣伝ばっか頑張ってますよね、みたいなことを言われたこともあったから。それがもう行くところまで行って、そういう芸能とか売り出すっていう体制に見えてるのは...ある意味正しいんだろうな。実際そうだし。

若宮:作風と合ってるからとても。私はなんかとても筋が通ってると思うと言いますか。さっき演劇人に嫌われているみたいなこと言ってたんですが、演劇人じゃない人を狙うっていう売り出し方、からの作品・作風っていうのは、とても筋が通ってるなあ。みたいなことを...すいません偉そうに(笑) 自分がいつも一人でやるから、企画を自分で立てて、今回はどこに向けてみたいなことも考えないといけないから、そういうことを見ていて思いました。

川口:ホントそうね。それは何かラッキーだなと。コメディを好きでやっているし、そこの趣味嗜好と、さっき言ったようなマイ ンドがマッチしているから、そこについて苦しさは全然ないというか。面白いものをもたくさんして観てもらいたいっていう、結 構単純なことだし。俺も高校演劇出身だから、そのマインドは完全に高校演劇部の...そういう演劇部だったから大濠高校が。高校時代から「お客さんを楽しませろ、演劇は」みたいなとこで、演劇との出会いがそうだったから。そういう意味では、一貫してるかもね、すごく。

劇トツについて

椎木:次は、劇トツに関してお聞きしたいんですが。僕らは 17 年劇団をやってきてコンペには出場したことがなかったので、満を持して出てみよう!みたいな感じだんだけど。若手と呼ばれる、3 年目の若宮計画にとっては、劇トツってどういう企画だっかのかなと。

若宮:私実は、劇トツを観に行ったことは一回もなくて。なんでかというと、高校演劇の時は地区大会・県大会とかぶっていたので観に行けなかったっていうのと、高校卒業してからは、私が劇トツの日に合わせて、時間をずらして自分の公演をやったんですよ。劇トツとハシゴしてください、っていうことで。なんかそういうしたたかな使い方をしてしまっていたんで。どちらかというと「先輩たちが頑張ってる、すごい、自分たちが出る場じゃない」みたいな感覚だったんだと思います。他の出場団体さんって私 とかより全然上なので、倍近く。北九州で若手って呼ばれている劇団言魂も私の倍やってるので。だから自分たちが参加していいものではない、ぐらいな。

椎木:劇トツ優勝の副賞、小劇場で公演できるっていう権利があるじゃないですか。あれってやっぱりすごい特別な感じはあるんですか?それとも自分たちでもできるよ!みたいな?

若宮:いや、自分たちでもできるよ、とも思わない、特別なものっちゃ特別なものですね。でもそれを目指してっていうより、ど こまで自分が通用するんだろう、みたいな。実験的な気持ちじゃないですけど...、やれるだけやってみるみたいな。どうかというと、自分を試すみたいなところが大きかったと思います。

椎木:川口さんはどうですか?

川口:劇トツは、俺も観に行ったことなくて。基本的にはあんまり興味がないのよ、そういうコンテスト系に。だから観にもあんまり行かないし...やっぱり何か...演劇を評価するって超難しいから。自分も高校演劇の審査員とかで審査する側にいくこともあるから思うけど、やっぱむずいよね。全然違うやん。ラーメンとフランス料理を並べてどっちが良いですかみたいなことやってるよ うなもんだから。なんかそれでこう...測られるのも嫌だって。それはたぶん高校時代のトラウマがあるからやけど。全然地区大 会で上がれなかった(笑)あの嫌な思い出が心のどこかにあるような気はするけど。でも、熱い場だなとは思ってた。劇トツは。 今まで勝ってきてる不思議少年とか、ブルーエゴナク、ヒロシ軍とか、そこで勝った人たちってその後も継続的に活動やっている し、己のスタイルとか芯みたいなものがすごくある団体が勝ってる印象があった。なんかそれはかっこいいなっていうのはすごく 思ってた。ただまあ、ガラパが...ガラパって一番向いてないから。演劇を審査されるみたいな。ガラパというか俺の作風がね。だから、審査員の他に観客投票もある、お客さんの声が反映されるコンテストであることが、出てもいいのかななんて思えた要素の結構大きなとこではあるかもしれないなあ。だから劇トツはそういう意味では、自分のコンテストに対するアレルギーを乗り越え て出るにはすごくいい場所だったなと思いました。ちょっとアウェーな感じもいいしね。福岡じゃなくて北九州というか。なんか そういうのは好きなんだよね、戦うみたいな。

作家の二人が、今興味のあること

椎木:続いて、せっかく作家 2 人が集まったんで、今、何興味あることとか、今描きたいものがあったら、そういう話も出来たら いいなと。

川口:興味あるは...そうね、なんだろうな。俺いろいろあるんだよね。ワンシチュエーションコメディって言われるものをずっと やってきて、今はそれに SF の要素足すとかに結構はまっているんで...星新一が基本的にすごく好きだから。ああいうテイストで、 若宮さんが言ってた伊藤計劃の虐殺器官みたいな感じも好きだし。そこをもっと広げていきたいなっていうのがあるのと。あとは、 ワンシチュエーションに飽きて最近は場面がポンポン変わる芝居を書くのが楽しいなって。ワンシチュエーションじゃないものを 書くのに興味があるっていうこと。ていうことをやっていたら、地味な会話劇もやっぱいいなってまた思いだしたり。あれもこれ もってかんじかな。そういうことを考えながら、今自分は何に興味があるんだとか、あとから追っかけて気づくというか。でもや っぱ会話は興味あるかな、すごくね。ただしゃべるだけで面白くしていくって、改めて考えるとすげえ難しいことだし、面白いこ とでもあるなって。会話の面白さっていうのにまたちょっと、一周まわって興味がでてきたかんじかな。

若宮:ずっと興味があって、川口さんに聞いてみたかったんですけど、コメディーが多いじゃないですか?で、脚本書いているときに、ここで客席を笑わせる、みたいなことって意識したりするんですか?

川口:ああもう、完全にするねえ。

若宮:へえ~

川口:もう、ほぼその気持ちで書いているぐらい。で、打率何割、みたいな感じだから。だから俺ね、それがないと何書いていいかわからんのよ。

若宮:え?えええ?

川口:笑わせる以外...だけんなんかね、怖いのよ。普通の会話って書ききらんくて。これお客さん面白いんかな、ってすぐ思っちゃうから、

若宮:へ~

川口:これ笑わせられるな、とか、なんか笑いに引っかかるだろう、みたいなことがないと書けないんだよね。

若宮:どうやってわかるの?これおもしろいってセリフ、どうやって書くんですか?(笑)

川口:おもしろ...どうやってるんだろう。

若宮:どうやって笑わせてんだろうって思ってて。ずっと、ガラパ観てて。

川口:でも、なんか、基本的には「ずらし」が好きで、まともなことを言う流れで急にちょっと変なこと言うみたいな。ジャンル で言うと結構コメディだから、わりとベタなイメージを持たれることが多いんだけど...わりかしね、ナンセンスの方が好きだったり得意だったりして。あんまりギャグとか、パワーのある笑いはあんまり得意じゃなくて。作風でいうと、ナイロン 100°Cのケ ラさんとか。普通な流れで急にズレたことを言う、けど本人はズレてる意識じゃないとか。そういうことの方が自分は面白いと思うタイプだから。会話はそれで組み立てて。ただ、構成自体はドリフみたいなベタな入れ違いとか勘違い、っていうのを意識的に 混ぜるようにはしてる。ドリフだけになりすぎてもあまりにもベタな、吉本新喜劇になっちゃうから、それではあんまり面白くないなと思ってて。でもナイロンの、あんまりナンセンスな会話だけにしすぎても、お客さんがキョトンとする時間が多くなっちゃうこともあるから。構造的にわかりやすいコメディの雰囲気を作りつつも、本質的にはちょっと奇妙なズレた会話で笑わせるってのが自分はやりたい。「ずらし」をすごく意識してるかな、笑いを作るときには。

若宮:私はなんか、笑ってもいいけど笑わなくてもいいようにしていて。笑わないと成立しないことがそんなに、そもそも興味がないのかもしれないんですけど。でも、やっぱウケるとちょっと嬉しくなる自分もいるので。こう...客席の後ろから見ているときに一番わかりやすいお客さんからの反応って笑うじゃないですか。やっぱそれを意図的にやっている人とかを見ると、どうやって書いてるんだろうな、ってことを思いますね。

川口:若宮さんはさ、影響とかルーツみたいな...脚本書く人って、やっぱ何かしらの影響を受けてその集合がその人の個性になる、 みたいなイメージがあるんだけど。そういうのはあるの?

若宮:なんでしょうね...ドキュメンタリー映画を見るのが好きで。そうですね、本も...今はあんま読んでないですけど、村上龍とか好きなんですけど

川口:村上龍ね

若宮:ドキュメンタリー映画をよく見るので、人とのリアルな会話とか。会話の中でこれは言わないなって思ったら結構ばんばん消しちゃったり。あと綺麗なセリフは書かないみたいな。普段会話してる中で、接続詞って結構ごちゃってしちゃうから、書く時も意図して崩したりみたいなところがある。あんまり私も場転があるお芝居を書くのが得意ではないというか。ワンシチュエーションの方が短編は特に書きやすいんで すけど、今回は、頑張ってテクニカル的なことをやってみようみたいなところがあって、ひいひい言いながら(笑)場転とか、時 空を超えるみたいなところを頑張ってみてはいるんですけど。でも、そうですね。基本的に書き出すのも、ドキュメンタリー映画観たり、ルポとか、実際にあったことの本を読んだだり。その時のことを元にして書くのが多いので、わりと社会的な所を背景と した作品が多めかなみたいに思ったりします。ものによりますけど。

椎木:ちょっと気になるのは、作家性みたいなところに、その人自身の経験とか体験みたいなものがあるのかなと思ってて。それがどう表現されるかは別ですけれども。そういうのってお二人とも結構意識してやるものなのか、それとも意識せずそういうもの になっていたりするものなのかな。

川口:俺は全然意識してなくて。ただ、以前『アーティストとつくる』っていう企画のために、ワークショッププログラムを作ったんだけど。自分の演劇観とかを反映してプログラムを作りましょうってことで。その時に聞かれて。何があなたの演劇なのか、みたいな。そのときにコメディですって言って。笑いです、みたいな。けど、それじゃあなんでコメディなの?みたいな話になっていくわけ。俺考えたことがなくて、そんなこと。確かに笑いって何なんやろうみたいな。で、なんで笑いのワークショップをするのかみたいなことをめっちゃ話し合っていくうちに、なんかね、俺は物事が繋がっていくっていうことにどうやら興 味があったらしいというふうに...掘っていった結果たどり着いた。物事が連鎖していくとか。確かによくよく考えると、シチュエ ーションコメディで伏線があって回収してみたいなこととか。ピタゴラスイッチみたいな。そう、昔ピタゴラスイッチとかも好きだったし、ドミノとかも超好きだった。だからどうも何かと何かが繋がって影響し合って、違う形になる、違う力が生まれるとか、 どうやらそれが好きらしい。プログラムを 1、2 年かけて作っていくなかで自問自答し続けた結果、その「つながる」ということに興味があったって後からわかった。無意識に反映されることはたくさんあるような気がする。

若宮:私にとっての演劇は生活というレベルになっていて。あんまり演劇以外のことをそんなに沢山できないので、あんまり会話も得意じゃないし、人がいっぱいいるところもそんなに好きじゃないんですよね。だから、実際に自分にあったことを芝居にすることは、わりと多くて。第6計画「ごめんね、カナメちゃん。」って言う作品は、家庭内暴力を受けて里親に入 った女の子の家庭教師をするっていうお話なんですけど、自分も実際そういうアルバイトをしていた時期があって。結局、自分たちは良かれと思ってやってることが、こちらの善意が、向こうにとっては苦しいことになってしまうみたいなことを、すごい考え たタイミングがあって。生活の中で思ったことをその場で口にしたり、誰かに伝えるみたいなことが苦手なので、だからお芝居に している、みたいな面があるのかなと。それこそ劇トツでやった作品も何かそういう気持ちで。自分の中で。

『甘い手』について

椎木:面白いですね。もうこれあと 2 時間ぐらいお酒飲みながら話したいけど(笑)僕は初めて若宮さんのそういう演劇観とかを聞けて、面白いなって思ってます本当に。僕らは今回『甘い手』という作品で初めて北九州で公演をするんですけれども、若宮さ んから、応援コメント的な、期待することみたいなのを聞けたらすごくありがたいなと思うんですが、いかがでしょうか。

若宮:北九州初公演みたいな感じですけど、いつものガラパさんの感じでやっていただけると。あまりガラパさんみたいな形態の劇団が北九州にはいないので、昔からいる劇団さんではあるけれども、北九州の人にとっての新しい風を吹かすみたいな意味で、いつも福岡で活動されているのと同じように、北九州でもその芯の部分を残したままやっていただけること願っております。

椎木:ありがとうございます(笑)逆に川口さんは若宮計画、僕らからすると若手の、後輩の劇団ですけれども。今日話してみてどうでした?今後楽しみだなと思うところとか。

川口:生活の中から生まれてくる、ドキュメンタリーのような作品って、若宮さんが今後また年齢を重ねていったり、人生で起こる出来事がさらに分厚くなっていったときに、より作品に反映されるものの濃度みたいなのが高くなっていくだろうから、それっていいよねすごく。笑いってちょっと怖い。流行とかもあるし。センスって錆びていくのかとか、そんな不安が自分のなかにあったりするから、自分自身を物語にできる人ってすごく強いなと思う。そういう意味では、歳を重ねれば重ねるほど鋭さがましたり分厚さが増したりしていくだろうから、熟成されていく楽しみがあるなと思うし。だからこそ長く続けてほしいなと思う。でもね、こういうタイプの人って結構生きづらい人が多いから。

若宮:(笑)

川口:器用に立ち回ったりとか絶対しない、そういうことを選ばないタイプの人だから。結構...負けちゃうっていうか、そこと上手くやっていけな人が多かったりするんだけど、でもだからこそ、その先を見たいなって思うから、何か本当に暴れながら続けて いってほしいなってすごい思います。

若宮:ありがとうございます。


楽しんでいただけましたらサポートをお願い致します😊エンターテイメントをお届けする為に使わせていただきます!