ハイランダー症候群とやらは実在するのか医学系データベースで探してみた
先日、某アニメを見ていると、ハイランダー症候群なる病気が出てきました。なんでも老化しない病気だとか。なにぶんアニメの話なので、作者が考えた架空の病気かもしれない、とは思いつつも気になったのでググってみたところ、どうやらアニメオリジナルというわけではないらしく、実在する病気として紹介している記事がいくつかありました。…が、どれも情報源の不確かなまとめサイトみたいなものばかり。
ついでに言うと、学生時代にカロリー制限やらインスリン様成長因子やらサーチュインやらレスベラトロールやらテロメラーゼやらの論文を読んでいた(もちろん動機は不老不死ですよ)私からすると、そんな病気(病気って表現して良いのか微妙ですが)が存在するとはにわかには信じ難いものがあります。
しかし調べもせずに決めつけてはいけません。というわけで、兎にも角にも、実際にそんな病気が報告されているのかを医学系論文のデータベースで検索をかけてみました。
まずはPubMedから
4件ヒットしてますが、真ん中の2つは著者にHighlanderさんがいるだけで、何の関係もありませんね。こういうものがひっかかってこないように、"highlander syndrome"とダブルクォーテーションで括ってhighlanderとsyndromeがセットで含まれるものだけしか検索にかからないようにしたはずなのですが…。
一番下の論文は皮膚病についてのものなのでこれも関係無し、一番上はよく分からなかったのですが、どうやら悪魔に憑かれたと錯覚する精神疾患についてのもののようです。これも関係無さそうですね。
続いてWeb of ScienceとScopus
何もヒットせず。
最後にGoogle scholar
1件だけヒットしましたが、論文ではなく本のようですタイトルは「Serbian Dreambook」…やはり関係無さそうですね。
というわけで、私としては、この病気は実在しなさそうだという結論に至りました。
まだ研究されてないだけかもしれないだろ、と思う人もいるかもしれませんが、研究者の端くれとして言わせてもらえば、老化しないだなんてそんな興味深い現象、本当にあったら諸人こぞりてゲノム解析やらトランスクリプトーム解析やらを始めるに決まっています。
例えば、ハダカデバネズミというネズミは、げっ歯類としては非常に長寿かつ老化し難い(加えて癌にもなり難い)という理由でゲノム解析が進められています。(参考:http://www.igm.hokudai.ac.jp/debanezumi/
人間で老化しないとなれば、その研究成果が直接人間に応用できる可能性が高いだけに、ハダカデバネズミ以上に研究しようという人は多いでしょう。今の時代なら、疾患特異的iPS細胞(*1)も作られるかもしれません。
ところで、アニメのような不老ではありませんが、16歳になっても外見上は11ヶ月児のままというケースは報告されていました(*2)。しかしこのケースは不老というよりは、成長不全と言った方が良さそうです。テロメアも通常のペースで短くなっていたとのことなので、そのまま齢を重ねていっていたとしても(20歳で亡くなったそうですが)、不老ということはなかったのではないかと思われます(興味のある方はBrooke Greenbergでググってみてください)。
脚注
(*1) 特定の病気の人の細胞から作ったiPS細胞。何故そういったものを作るのかといえば、例えば、脳の神経細胞に異常が生じる病気の薬を開発するとして、患者から脳細胞をとってきて研究するなんてことはそうそうできませんし、できたとしても少しの細胞しか手に入らないのでできる実験量に限界があります。しかし患者から皮膚などの取りやすい細胞をもらってきてそこからiPS細胞を作り、それを神経細胞に分化させるのであれば、脳から神経細胞を直接取ってくるのよりはだいぶハードルが低くなります。加えて、iPS細胞は神経細胞と違っていくらでも増殖させられるので、より多くの実験が可能になります。
(*2) Richard F. Walker, et al., A case study of “disorganized development” and its possible relevance to genetic determinants of aging, Mechanisms of Ageing and Development, Volume 130, Issue 5, May 2009, Pages 350–356
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