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玉響~タマユラ~玉響 / 天使の舞い降りる人生の午後

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昔何度か、夢に陥る時に現れた、妙なリアルな動物を主人公にした物語です。
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記事一覧

玉響~タマユラ~玉響 1

1 出会い 空を飛んでいた。 爽やかな風が頬を撫ぜる。 どこまでも続く青空の中、爽快に飛ぶ。 風になる私… 遥か下に、豆粒のような街並みが見える。 「うん?何で私空を飛んでいるの?」 「夢だからさ」 その瞬間、私は人間だったことを思い出し、飛んでいるというあり得ない状況に驚愕し、大地へ向けて、真っ逆さまに落ちていった。 グイっと意識が引っ張られる感じがした。 白く輝く細いトンネルを、引っ張り抜けさせられたような感じがした。 シャンパンのコルク栓を開けたように、スポー

玉響~タマユラ~玉響 2

4 雑夢の広場 「ほら、着いたよ。」 タマユラが言った。 私は周囲を見たた。 さっきと風景が一転していた。 銀色のドームが幾つも立ち並んでいた。 その外れに、レンガが敷き詰められた小さな広場があった。広場の周囲をポプラの樹のようなものが囲むように立ち並んでいた。 広場には、たくさんの人や動物、植物や鉱物、それに物が、車座に腰を下ろしていた。 みんな一様に空を見上げて笑っていた。 笑い声がこちらまで響いてきた。 「あの人たちは、何を可笑しそうに笑っているの?」 私は不思議

玉響~タマユラ~玉響 3

7 夢の中の町 少し重い気分で、タマユラの耳に意識を集中した。 風より速いスピードで、タマユラは飛んだ。 周囲の風景は、サイケデリックに輝いていた。 次に訪れたところは、一面霞に覆われていた。 「よく見てごらん。」 タマユラの声も霞がかかっているような感じがした。 目を凝らしていると、霞は徐々に晴れ、黒々とした古い町並みが現れた。 黒光りを放つ、でも煤けたような、木造の古い家が、舗装もしていない土の道を挟んでひしめくように立ち並んでいた。 普通の民家もある。駄菓子屋のよ

玉響~タマユラ~玉響 4

11 砂漠の果てに ぼんやりしている私に、タマユラが鼻先をそっと押し付けてきた。 「いきなり、ずいぶん連れまわしてごめんね。」 タマユラは言った。 「でも僕は、ユラが、夢を見ていることに気が付きながら夢を見ている状態を、すんなり受け入れてくれたことが嬉しかったんだよ。 ユラの心は、ただこの夢の世界でリフレッシュすれば満足したんだろうけどね。」 「いいのよ。私もとても楽しかったわ。」 私は心の底からそう思っていた。 「最後に僕からお礼をしようと思う。」 タマユラが言った。 「

天使の舞い降りる人生の午後~1

1 昼下がりの出会い ある平日の昼下がり。 公園の端にあるオープンカフェテラスは、僕以外の人影もなく、とても静かだった。 僕は、読みかけの本をテーブルに置くと、欠伸を一つ… 「平和だなあ…」 「そう思う?」 唐突な可愛い声の返事に驚き、僕は声の聞こえた方を振り返った。 小さなクマのぬいぐるみが、隣の椅子に置いてあった。 「やあ。」 クマのぬいぐるみが、自然に右手を上げた。 どう見てもただのぬいぐるみだ。 大きさは30㎝位だろうか。山吹色のベロア地の胴体に、クリクリ

天使の舞い降りる人生の午後~2

3 丘の上の天文台 この世界が終わりに向かっている? シャンテの言葉は、僕には絵空事に思えた。質の悪い冗談とも思った。 「確かに世界的には、必ずしも平和とはいえないよ。あちこちで紛争は起きているし、テロだったある。核戦争の恐怖は消えてないしもっと物騒な兵器も開発されているし。 でも、みんなそこまで馬鹿じゃないんじゃないのかな。辛うじて綱渡りの平和ではあるんじゃないかな。」 「君たちの目線ではね。」 「僕たちの目線?」 「そうだ、いい機会だから、面白いものを見に行こうよ。

天使の舞い降りる人生の午後~3

5 原子のダンス 「僕たちの星にも、あのビームが来たのかな。」 「そうだよ。卵から放たれたビームが届いたからこそ、今の地球があるということなんだ。 数万年前、再びビームが放たれたんだ。光の龍の旅が始まった。来つつあるというべきかな。」 「来つつある?」 「今、宇宙の時間で見ていたから、一瞬の出来事に見えただろうけどね。 君たちの時間に合わせたら、気の遠くなるような長い時間がかかることになるんだよ。 まあ、次のビームがやって来ると、新たな進化の分岐点がもうすぐ生まれるるんだ。

天使の舞い降りる人生の午後~4

7 四次元の窓 底知れぬ恐ろしさに、僕は突然襲われた。 シャンテの自信に満ちた口調、内容はよく理解できないところもあった。 けれども、理由は分からないが、こころのどこかで、これは真実だと感じていた。 僕は、どちらに進むんだろうか。 僕は余り出来の良い人間だとは思わない。怠惰で流されっぱなしの生活を送っている。消滅してしまうのか? でも、僕は進化をしたい。螺旋上昇というものをしてみたい。次の次元というところに、進めるものなら進みたい。 「シャンテ…」 ぬいぐるみは、僕の手にそ

天使の舞い降りる人生の午後~5

9 波紋の花束 「でも、シャンテは、なぜ僕のところに来たの?」 僕は不思議と沸き上がる歓喜に、ちょっと閉口していた。 「僕一人が、一生懸命に魂を磨いたって、みんなのための現実が変わるとは思えないな。」 「私が君を選んで来たのは、深い訳があったわけではないよ。 誤解しないで欲しいのは、君が特別だからではなく、本当に普通の、良いところも残念なところもある、愛すべき人間だったからだよ。 君だけに私との出会いが起きている訳ではないんだよ。全てのものに、その機会は訪れているんだ。 た