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モアー・ダンディズム!で更に愛月ひかるさんに魅了された話

 私が生まれて初めて観劇した宝塚のレビュー。そして愛月ひかるさんのレビューやショーでのお姿を直接拝見することが叶った最初で最後の舞台。

 私は劇団四季を始めミュージカルや劇の観劇経験はそこそこあったが、ショーやレビューを目にする機会はほとんどなく、宝塚の作品を観るようになって初めてその存在を意識した。舞台といえばミュージカルや演劇というイメージを抱いていた私は、ロミオとジュリエットで愛月さんの死に溺れて以降も、一本ものと言われる二幕構成の芝居の方が何となく好きだなと思っていた。

 その認識がガラリと変わったのが、このロマンチック・レビューである。宝塚のショーやレビューは、映像で観るのと劇場で観るのとでは大きな壁があると思った。劇場で味わうあの煌びやかさは、観るというより体験する、と表現したくなる。大人数がステージ上に勢ぞろいする華やかさ、場面ごとに異なったカラーで劇場が染まる色濃い世界観、舞台セットも豪華で映像的な演出が相乗効果をもたらし、ライトは様々なニュアンスを表現してくれる。そしてキラキラ光を振りまくミラーボール。もう完全に非日常空間。うっっわ、めちゃくちゃ楽しい!!!と思った。豪華絢爛。劇場でしか味わえない宝塚の真骨頂がそこにあった。

 人生初の宝塚ロマンチック・レビューで私は愛月さんをひたすら追い掛けていた。ご本人が惜しまれながら去りたいというようなことを仰っていた記憶があるので正直に書くが、どうしてこれで最後なの?!?!とステージに酔いしれながらも心の片隅で悲鳴を上げた。惜しい、惜しいなんて言葉じゃ足りない。レビューの場面ごとに様々な表情で魅せてくれるお姿がたまらなく素敵で、一挙一動に視線を奪われて、ほんとにもっともっと観ていたかった。同時にこのレビューは愛月ひかるさんが持っていらっしゃる個性にガッツリはまっているように思えて、この作品を劇場で体験できて心底幸せだと思った。

 前置きが長くなったが以下場面ごとの感想。すでにお分かりかと思いますが、おかしいレベルで愛月ひかるさんに視線を奪われ続けていた人間の感想文となっております。また詳細を綴っているネタバレ満載となっておりますのでご了承ください。


宝塚星組公演 ロマンチック・レビュー モアー・ダンディズム!

プロローグ

 コーラスとともに緞帳が上がると、舞台上は華やかにライトで照らされ、カラースーツをまとう男女がずらりと並んでいる。オレンジ、ブルー、グリーン、イエロー。秋らしい少し落ち着いた色味のカラースーツにハット姿で縦隊を組み、横移動しながらそれぞれの隊列がすれ違う。これだけで圧巻。問答無用でわくわくしてくる。愛月さんはオレンジのカラースーツ。オペラで追うと、絶妙の傾斜をつけて被ったハットの下から左目だけ覗いてドキっとする。あと僅かに見える髪色、明るい金髪がとてもマッチしていた。口紅の色もお似合い。ピンクがかっている赤で、少しくすんだオレンジのスーツ姿がぱっと華やぐ。ハットの影で表情はよく見えにくいのだけれど、唇が緩やかに笑みの形を描く瞬間を目撃した時は息が止まりそうになった。見える情報が少ないと小さな変化がより濃く映える。うわぁうわぁうわぁ素敵。ここで私はオペラ最強だなと思った。死の時に散々思い知ったけど、本当に愛月さんはご自分の魅せ方をよくご存じでいらっしゃる。

 スーツ姿の男女が左右に分かれると、中央に上から赤いスーツ姿の礼真琴さん下りてくる。観ている私のテンションは最高潮で、響く礼さんの歌声はやはり圧巻。この方の喉はどうなっているのだろうと思う。私が礼さんを初めて知ったロミオの時も思ったけれど、歌声の安定感が半端なくて、とても滑らかでエネルギーに溢れていて、劇場で生で聴くと本当に気持ちいいと感じた。

 そうこうしているうちに、愛月さんはステージ端へ移動されてとっても綺麗な動きでハットを袖へ投げ込まれる。ここで初めてお顔がはっきりと目に飛び込んできて、衝撃第二弾。美しいの一言。鮮やかだなぁと思った。真っ直ぐ前を向いた眼差しは力強くて、表情には楽しそうな色が滲んで、何のてらいもなく堂々とステージに存在する姿に惚れ惚れする。二階席から見たとき、パープルのアイシャドウのグラデーションがとても綺麗だった。

間奏曲 薄紫のとばりの向こう

 愛月ひかるさんが1人で銀橋を渡りながら歌われる曲。二階後方からのライトがその姿を照らし出すシンプルな演出。淡い淡い紫のロングコートがとてもお似合いだった。ともすればロングスカートに見えるデザインだと思ったけど、そこにいるのは女性でも男性でもなく、ああ男役の方がいると、そう感じた。この場面の愛月さんはほんとに優しく包み込むようなオーラを放っておられる。丁寧に丁寧に語り掛けるように歌われる声。ゆっくり銀橋を歩きながら客席のあちらこちらへと優しい眼差しを向けるお姿は世俗から切り離された存在のように清らかで美しかった。「幸せであれ」と歌われる声があまりに優しくて温かくて、どうか貴女も、貴女こそ幸せであってくださいと祈らずにはいられない。眼差しを上げたときにライトが差し込んで瞳がきらめく様に息をのんだ。

ミッション

 1人で踊る舞空瞳さんから始まる場面。ドラマティックなストーリー性があり、激しい群舞に目が奪われる。また舞台セットがとても好き。オブジェのようなセットが後方に配置され、投影される映像と合わさって抽象的でもあるのだけれど物語と世界観が上手く表現されている。礼真琴さんを頂点にしたフォーメーションの群舞がとてもカッコイイ。

 仲間たちが手紙をリレーしながら礼さんに届けようと尽力し、やがてその手紙たちは礼さんの手に集まってくる。ここでそれまで厳しい表情だった礼さんが嬉しそうにぱっと表情を明るくして、手中の手紙を掲げるように台の上に駆け上がった瞬間銃声が響く。空気が一気に強ばる。その中で礼さんが崩れ落ちるのだけど、その倒れ方がすごい。撃たれた瞬間の衝撃、そこからぐらりと揺れて倒れるまでの滞空時間の長さと、それでいてとんでもなく滑らかな動きなのだ。人間の体ってそんなふうに制御できるの?となる。

 時間はこの場面の最初に戻る。冒頭踊る舞空さんの背後にすぐに礼さんが出てくるのだが、ここの二人は視線を重ねることはない。もうすでに礼さんは亡くなっていて、でもその気配を温もりを感ているかのように踊る舞空さんだったのだ。最後、礼さんが銀橋のたもとで本舞台に向けて歌われる歌声から、星組メンバーに対する愛をとても感じた。

間奏曲 ビューティフル・ラブ

 娘役さんたちの可愛くて華やかな場面。有沙瞳さんと小桜ほのかさんの歌声が劇場内を満たしてくれる。つば広帽子を被り、ドレスの長い裾を優雅に翻す動きがとても綺麗だった。

キャリオカ

 礼真琴さんのソロから始まる黒燕尾。私はこの礼さんの歌声がとても好きだ。低音の響きが驚くほど深い方だけど、一際艶めいて聞こえる。ここまで低音の歌声に表情を付けられるのはほんとにすごい。めまぐるしく人が入れ代わり立ち代わりで見る方も忙しくてテンションが上がる場面。複数の目が欲しかった。礼さんのダンスはどんなテンポの曲でもリズムの捕まえ方が常に美しい。また、6人並んで踊るシーンの天華えまさんがとてもチャーミングで目を奪われた。表情が少し悪戯っぽくてでも上品。軽やかで瞳の表情がとても豊かでオペラに映ったらつい固定してしまう。

 愛月さんの燕尾姿はやはり好き。着こなしも表情も隙なく美しく整っていると感じる。指先まで神経が行き届いている動きに見惚れた。RAYの黒燕尾のような張り詰めた美しさとは別の、華やかな美しさに吐息が零れる。音波みのりさんと組んで踊るときに浮かぶ笑みは優しくて優雅で、大人のカップルの余裕がたまらなく素敵。

 この場面は男役の黒燕尾と、娘役の大きく広がる長いスカートさばきの見応えがすごくて、ステージ上にそれぞれのカップルがずらりと並ぶ様はとんでもなく華やかだった。きっと一組一組カップルごとに表情や眼差しが工夫されているのだろうなと思う。大好きな場面のひとつだった。

ゴールデン・デイズ

 夢のようにロマンチックな場面。クラシカルな華やかさ。ドレス姿の令嬢に軍服姿の士官たち。その中央に立つ白い軍服姿の愛月さんは何というか、おとぎ話から抜け出てきたような存在だった。綺麗…美しい…なんて高貴な…何て言い表すんだっけこれ…そうだ王子様!!!みたいな謎な思考回路になっていた。王子様だった。礼さんが仰る本職王子様は本当だった。絶対白馬に乗ってますよね。

 私は愛月さんの死に溺れて、愛月さんの死が大好きで、あの時のフィナーレは意識的にクールでほのかに気だるげな空気を纏ってらっしゃったと思うのだけど、私にとってあのお姿が基本だったので、改めて白属性愛月さんの王子様っぷりに衝撃を受けた。私の通常の好みからいくと正統派王子様的キャラクターは少々ストライクゾーンから外れるのだが、そんな個人的な志向はどうでもよくなった瞬間である。

 キラキラ輝いて、朗らかな品があって、身のこなしはとんでもなく優雅で、表情と眼差しはどこまでも優しくて、一瞬にして夢のようにロマンチックな世界にエスコートしてくれる王子様。もううっとり見惚れるしかない。娘役さんと踊るときの表情がまたよい。甘さがほのかに増したような雰囲気が最高。王子様も色濃い役もどちらも本当にお似合いだし、どちらの魅力も自分のものにしてらっしゃるし、どちらの魅せ方も恐ろしいくらい心得ていらっしゃる。

ハード・ボイルド

 瀬央ゆりあさんと綺城ひか理さんのタンゴから始まる場面。暗い舞台上で組んで踊る二人の上だけにスポットライトが当たる演出がカッコイイ。そこから礼真琴さんを始め、ステージ上の人数が増えていく。ストライプのスーツを着て踊るこのシーンは独特の雰囲気があって、これをカッコよく成立させられるかどうかは、ひとえに出演者にかかっている気がした。ここも先生目が足りません!!となる。

 礼さんの低くて気障な歌声と、音数の多い激しいダンスではなく緩やかな振付けを男くさくカッコよく成立させていく姿は流石。一度だけ前髪がはらりと落ちている公演があったと思うのだけれど、その色気は凄まじかった。

ザ・ロケット

 宝塚をこんなに観るようになる前から、宝塚といえばラインダンス、ロケットダンスというイメージがあった。エネルギーに満ち溢れていて元気になれる場面。お揃いの衣装でずらりと並び、笑顔で一糸乱れぬダンスを披露してくれる。掛け声から始まる最後の盛り上がりで手拍子するのがとても楽しかった。

テンプテーション

 赤い衣装と赤いバンダナ。薔薇の飴細工のような舞台セットが後方中央に大きく存在し、綺麗だった。このシーンで一番感じたのは情熱。愛月さんもとてもエネルギッシュで熱と色気に満ちていて、おそらく流し目のような視線の送り方をされていて、あああ今すぐその視線の先に行きたいと思った。あと、礼さんと二人だけで踊られる時間があるのだけれど、そこにくると愛月さんの笑顔が嬉しそうに大きくなるのも大好きだった。なおここは貸切公演でアドリブが炸裂する場所で、礼さん「からあげクン!!」愛月さん「Lチキ!!」を生で耳にしたときは、世界の次元が今ずれた?!という衝撃に見舞われた。楽しかったしインパクトがすごすぎた。

間奏曲 ラ・パッション

 瀬央ゆりあさんがソロで銀橋を渡りながら歌われる場面。キラキラした虹色に世界が染まり、その中で元気に明るくそして雄々しい瀬央さんが輝く。このシーンは客席の拍手との一体感がすごくて、銀橋中央で放たれる、間奏直前の掛け声の勢いとエネルギーが素敵。またここも貸切公演でアドリブが炸裂していて楽しかった。

アシナヨ

 礼さん、舞空さん、愛月さんの三人の場面。歌われる歌詞に何を投影するかで見る人の涙腺ポイントになってそうなシーン。幻想的なブルーに染まり、満天の星空を思わせる小さなライトが輝く美しい空間に、青い衣装にオーガンジーを更に重ねたものをまとう礼さんと舞空さん。そしてお二人より紫がかった紺色の衣装を纏いオーガンジーを重ねた長い裾を靡かせる愛月さん。シンプルな演出だけど色々な想いが込み上げる場面だった。

 愛月さんの表情がね、ほんとに美しくて清らかで満ち足りて幸せそうに見えてしまって。そしてとてもとても優しく愛しく礼さんを見詰めていて。愛月さんの肩を後ろから礼さんが抱いて、その手に愛月さんが手を重ねるとき、二人はたぶん微笑んでいたと思うのだけれど、そこから愛月さんがくるりと身を翻して客席に背中を向けて大階段へ向かわれるのを見送る礼さんの表情がもう……。切なそうな哀しそうな、万感の想いをこめて真っ直ぐ視線を向け、溢れそうな様々な感情を堪えているかのように見えるお姿に、私は自分の抱く感情を重ねたのだと思う。あっと思った瞬間涙が零れた。

 ああほんとに好きだなぁって思った。言葉を尽くしたいのに上手く言葉が出てこない。好き。

パレード

 パレードが始まると毎回、えっもう終わり?!と感じる。このレビューは体内時計が狂う。

 愛月さんのパレードの衣装もとても好き。バラのブーケのようなシャンシャンを手にして、白に黒がアクセントのように散りばめられた羽根を背負い、胸元のタイはグレーのリボン。ハットを被って大階段を下りてこられる姿は晴れやかで清々しく美しい。お辞儀して下手にはけていくのだけれど、その時の歩みがゆったり優雅で、客席をとても愛しそうに優しく見てらっしゃって、下手側ですぅっと絞られていくスポットライトを顔を上げて最後の最後まで笑みを浮かべて優雅に受けてらっしゃったのが印象的だった。その姿が美しすぎてまた泣いてしまった。


 私はこのモアー・ダンディズムを4回観劇し、配信で一度視聴した。観劇のたびに走り書きしたメモやプログラム、ル・サンクを読み返しながら書いた感想だが、記憶違いもあると思う。興奮しすぎて幻想を見たのだなと生暖かく眺めて頂ければ幸いです。

 配信もあわせると5回も観たわけだが、それでもまだ足りないと思わせてくれる素敵なレビューだった。中毒性がある。このレビューは愛月さんの様々な魅力が発揮されていて、どの場面のお姿もほんとに大好き。輝き、美しさ、華やかさ、力強さ、色気。ほんっと大好き。私が観られるのはあと一回、東京千秋楽の配信だけだ。……その日はなるべく遠い方がいいなと思う。

 明日2021年11月20日から東京宝塚劇場で柳生忍法帳とともにモアー・ダンディズムの公演が始まる。どうか全ての公演の幕が無事に上がりますように。劇場に集う皆さまが楽しく幸せな時間を過ごせますように。心から祈っている。

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