ハイツの文



雪と葵:ドア越しの会話

「迎えにきてくれて申し訳ないんですけど、今日は一緒に学校に行けません」
「なんで?具合悪いの?」
「いや。寝癖が直らなくて。前髪が直立してますので」
「寝癖で学校を休むなんて、雪ちゃんも結構ワルだね」
「さすがに休みませんよ、ちゃんと行きますよ。ただ今日一日は葵くんの目に映らないように忍びたい所存です。だから早く学校行ってください。ここは私にまかせて先に行け!」
「え? 別にからかったりしないよ。笑わないし。それに僕も今日寝癖すごくて」
「すごいったってどうせ毛先ピョン、くらいでしょ! 君の猫っ毛と私の剛毛を一緒にしないでください!!」
「ドア開けて、見てみれば」
「…………」
「…………ね」
「……あ、あははは! すごい! えっどうなってるんですか、それ」
「昨日髪乾かさないで寝ちゃったんだ。へへ」
「風邪ひきますよ! もー。 私のピン貸しますから……あー!もう時間がない! 走りましょう!」
「そうだね」


葵と武田と熊野:家賃について

「すごい気になってることがあるんだけど、聞いてもいい?」
「だめー」
「ブタさんたちって家賃払ってるの?」
「あ、普通に聞くんだ」
「だってみんなお化けなんですよね」
「失敬な。僕は勿論ちゃんと払ってるよ。今はネットっていう便利なものがあるから、家にいながらにして家賃くらいは稼げるよ」
「へー。そうなんだ。ブタさん何でもできますね」
「(首肯)」
「ワニくんもなかなかそういうのはうまい」
「(首肯)」
「そういうの」
「面倒そうだけど」
「クマさんも? 意外だなあ」
「主婦向けのガーデニングブログ、すごい人気だよね」
「ブログ」
「(首肯)」
「書籍化の話もきたらしい。断ったそうだけど」
「書籍化」


紫苑と葵:おねえちゃ

「しまった、また昨日も葵の寝顔を模写してしまって寝不足よ。隈がひどいわ。頻度を減らさなければ」
「あ、おねえちゃ……」
「なに?……ん?あれっ、呼び方……」
「間違えた。姉さん」
「お姉ちゃん?」
「姉さん。これ学校でもらったプリントなんだけどさ」
「お姉ちゃんに何か用?」
「うん姉さん、これ」
「うんうん。お姉ちゃんにね?」
「しつこいな!」


鰐塚と武田と紫苑:除霊されかけ

「雪ちゃーーん!!雪ちゃん!!!たすけてたすけてーー!!」
「雪ちゃんはまだ学校」
「あああ!! 紫苑かー……」
「なんなの! ガッカリされるとムカつくわね」
「どうした? 色がいつもより薄くない?」
「おう武田もいたのか。聞いてくれよ。道歩いてたら通りがかりの自称霊媒師に塩投げつけられてよー」
「なにしたの」
「なにもしてねえよ!歩いてただけ!!」
「塩なんて効くの? あなたいつも料理に使うじゃない」
「敵意を持って投げつけられた塩は効いちゃうんだよ、僕たちには」
「へえ」
「待て紫苑。キッチンに塩を取りに行こうとするな。試そうとするんじゃない」
「冗談よ。で、このままだと除霊されちゃうの?」
「そうなんだ。参った参った。まだいてほしい、って誰かが強く願ってくれれば消えなくて済むんだけど……」
「ふふ。なんか乙女チック。まるで呪いにかけられたお姫様ね」
「実際でかい図体の成人男性だけどね」
「お前ら笑うなー!!俺の存亡がかかっている由々しき事態だぞ!」
「君を救ってあげられるのは、現状紫苑さんだけだね」
「え?私?武田さんがやってよ」
「僕もお化けだから意味ないんだ」
「えー……」
「わっ指先が消えてきた!頼む紫苑!頑張って願ってみてくれ!一回でいいからチャレンジしてみて!うわすげえ嫌そうな顔!クソ!!あんな通りがかりの霊媒師によって消えたくねえ……!」
「……お」
「あ」
「はあ」
「戻った……」
「……」
「うおお……。ありがとな」
「めでたしめでたし」
「今晩はお前の好物を作ってやろう」
「それはいいけど、そんなんでこの借り全額返済できるとまさか思ってないでしょうね。利子も勿論つくからね」
「雪ちゃーーん!!雪ちゃーーーーーん助けてーーーー!!」


雪と葵:ホワイトデー

「ごめん……その……昨日買いに行こうとしたんだ。そしたら同級生がたまたま売り場にいて、誰にあげるんだとしつこく聞かれて、結局逃げてきてしまって買えなくて……でも手作りに切り替えたんだ。手の込んだものじゃないけど食事は作れるし。甘いものはほとんど作ったことないんだけど。本通りに作ったつもりなんだけど、うん……何故か全然固まらないんだ。液体のままなんだ。ほんとごめん……だから今渡せるものなくて」
「てづくり……? まさか。そんな。葵くんの手作りお菓子なんて是が非でも食べたいです。諦めないでください」
「もしよかったら作り方を教えてもらえないかな……」
「当たり前じゃないですか!!!」

「わあ……すごい。ちゃんと固まったよ雪ちゃん」
「おいしそうですね!じゃ、ラッピングしてください。かわいく」
「か、かわいく。こう?」
「あ、いいですね。リボンが斜めになってるのも逆にいいですね」
「ほんとにありがとう雪ちゃん。じゃ、これ……」
「それでは私、一旦部屋でてもう一回入るので、それ渡してください!!ちょっと照れながら渡してください!!いいですね!!」
「ええ!?なんで!?ちょっと!」











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