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インディーゲーム紹介番組『INDIE Live Expo』の宣伝効果を出展者17人のデータを元に検証。例外はあるが、多くのタイトルで数字が伸びる結果に

近年、コロナの影響もあってイベントがオンライン化している。そんな中でもインディーゲームを紹介する動画イベント INDIE Live Expo(以下、ILE)は規模が大きく、話題のイベントとしてインディー開発者に期待されている。
しかし、動画のワンコーナー、短ければ15秒程度で紹介されてどれだけの影響があるのだろうか。
それを調べるため、ゲームキャストでは知人などを頼って実際に出展した開発者17名から、合計19タイトルの DL数やウィッシュリスト追加数など生の数字データを提供していただいた。

結論から言うと、無料で参加できるのに、短時間の枠であっても紹介されれば数字が上がることが多いので、インディーゲーム開発者はとりあえず応募しておいた方が良い、となるのだが、動画のみのインディーゲームイベントという、歴史の浅い領域についてインディー開発者と知見を共有するため、細かい数字も含めて本記事を公開する。

Indie Live Expo(以下、ILE)とは?

インディゲームのための動画情報番組で、初回・2回目までの放送であわせて350タイトル以上のゲームを紹介し、1,800万以上の視聴数を獲得した。
日本語・中国語・英語の3カ国語で、Youtube や Twitch、bilibili など多様なプラットフォームに向けて配信され、日本という枠を越えた宣伝が期待できる。

出展は無料で、紹介タイトル数が多く、番組が長いことも特徴。第1回、第2回では応募された全タイトル(※おそらく倫理的な問題などがないもの)が紹介されたという。

主催:INDIE Live Expo実行委員会、共催:株式会社リュウズオフィス、企画協力:株式会社ワイソーシリアス、協力:PLAYISMで行われている。

ILEには4段階の異なる紹介枠が存在する

ILE には、Premiere、Picks、Waves、協賛コーナーの4種類の枠が存在する。各枠について広告効果が異なると考えられるため、今回の調査ではそれぞれの枠ごとに数字を切り分けることとした。協賛コーナーについてはサンプルが存在しないが、本調査は中小開発者のために行っているので、問題ないと判断している。

Premiere
5分程度で紹介される特別枠。初出情報が多く、番組としてもいい位置で紹介される。

Picks
2~3分の紹介枠。ライトゲーマーなどにもお勧めしやすい(もっと広まってほしい)インディゲーム。募集タイトルから選定することもあるが、最初からPicksに出展する前提でILE実行委員会からの声をかけることもある。

Waves
応募されたタイトルを有名・無名などは関係なく、とにかく紹介するもの。
尺は15秒程度と定めてられているが、過去の放送では解説に熱が入り30秒ぐらいになってしまったとのこと。

協賛コーナー
協賛企業の紹介枠。インティクリエイツ新作紹介など。

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本調査について

初出、既出、アプリ、PC、ゲーム機、リリース済、未リリースなど、ゲームによって状況が異なるため、まったく同じ数値を比べることは難しい。よって、今回の調査では下記の数値を調べた。

・Twitter 言及数の変化(ツイート1つ、RT1回につき1カウント)
・アプリDL 数変化
・ゲーム販売本数の変化
・ゲームのウィッシュリスト入り数の変化
・メディア露出
・その他(デベロッパー独自のコメント)

基本的にイベントの影響が見られるのが2~3日だったので、数値はイベントから3日を目安にしている。また、数値に関しては協力できる範囲でお願いしているため、曖昧なものもある。
また、本調査はゲームキャストの知人を中心にしているためアプリのデータが多く、偏りは存在する。ただし、アプリはゲーム機などと異なって地味な画面構成も多いので、どちらかと言えば本調査のデータは下限に近いと考えられる。

これとは別に「公式サイトへのアクセス数」と「Twitter ゲーム公式アカウントのインプレッション」も調査したが、データとしては別項目にまとめるものとする(理由は後述)。
また、「アプリの予約受付数」も調査項目に入れていたが、予約受付を行っているアプリ保有者のデータがなかったため、今回は言及なしとする。

商業イベントのメイン枠に匹敵するPremiere枠

■PremiereタイトルA
・条件:初出・リリース前、Steam
・ウィッシュリスト:約5,290(初日3850、2日目970、3日目470)
・Twitter言及数:ゼロ→1万以上
・メディア:プレスリリースの掲載と別に、国内メディア多数、英・中などでも記事を数点確認。
■PremiereタイトルB
・条件:初出・リリース前、Steam
・ウィッシュリスト:約5,320(初日3500、2日目900、3日目920)
・Twitter言及数(RT+ツイート):ゼロ→1万以上(プレゼントキャンペーン込)
・メディア:プレスリリースの掲載と別に、国内ほか、英・中などで数点確認
■PremiereタイトルC
・条件:既出・Steam・リリース済すでに知名度のあるタイトルの大型アップデート情報
・ウィッシュリスト:約1,700(初日900、2日目500、3日目300)
・Twitter言及数:通常時と変化なし
・その他:Steamストアのアクセス数は普段の倍~3倍
■PremiereタイトルD
・条件:初出・未リリース・スマートフォン
・Twitter言及数:ゼロ→最低4,000以上~(諸事情により計測困難)
・メディア:プレスリリースは出さなかったが、国内の複数のメディアが独自に記事を制作。
・その他:初めて会う方が開発中のゲームのことは知っている、ということもあり、期待以上の大きな反響があった。

成功している例を見ると、景品などで釣るキャンペーンツイートを除いても(Premiere タイトルA)10,000以上の Twitter 上の反響があり、天井を見れば商業ゲームイベントのメイン枠に近い宣伝効果も期待できると言えそうだ。
また、各メディアがこの放送を注目しており、記者の目にとくにとまりやすいのも Premiere 枠と言えるだろう。

また、放送順位としてもプレゼントキャンペーンなどで番組 URL を拡散し、人目を引いたりした直後に位置するので一般の視聴も多いと考えられる。

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ただし、Premiere 枠には ILE 側がニュース性の高い初出のゲーム、話題のゲームを選ぶ傾向があり、もともと話題になりやすいゲームが登場することも考慮に入れておきたい。

Picks枠

Picks 枠は、サンプルが集まらなかったため1件となる。公開できる情報があれば寄せていただきたい。Picks 枠は ILE 側がライトユーザー向けに勧めるもので、コンセプトがわかりやすく、ビジュアルに優れたキャッチーなものが多かったように思える。

PicksタイトルA
・条件:既出・リリース済・Switch
・販売数:リリースから少し経過していたが、通常時の3倍程度まで販売数回復
・Twitter言及数:50程度→500~1,000程度

Waves枠

Waves 枠はデータが多いため、一気に紹介する。
タイトルの後ろの()内には、既出と初出(既・初)、リリース済と未リリース(済・未)で記される。また、この枠のサンプルはアプリゲームが主であるため、アプリゲームは「アプリ」、Steam などは「ゲーム」と表記する。

DL数などへの影響

・アプリA(既済):約900(Android 600 / iOS 300)
・アプリB(既済) :約400(iOS 290 / Android 110)
・アプリC(既済) :約200 (iOS 110 / Android 90)
・アプリD(既済):約200 (iOS115 / Android 85)
・アプリE(既済):約60 (内訳なし)
・アプリF(有料既済):「ランキングが上がる程度」
・アプリG(有料既済):ほぼゼロ
・ゲームH(有料新未):ウィッシュリスト約380
・ゲームI(有料既未):ウィッシュリスト約400
・アプリJ(有料既未、Steam予定あり):体験版DL約50

ビジュアルが優れたアプリ、比較的コア向けに見えるものは DL 数が伸びる傾向にあった。200 DL は期待してもよさそうだ。
有料アプリに関してはランキングが上がる効果があったとのことで、発表とにセールを含めることでより効果を上げられるかもしれない、という声も。
また、今回の少ないサンプルからはアプリよりもゲーム機、PC 向けの方が成果を得られている。

Twitter言及数

・アプリA(既済):10件程度→70程度
・アプリB(既済) :5件未満→50程度
・アプリC(既済) :ほぼゼロ→10程度
・アプリD(既済):ほぼゼロ→5程度
・アプリE(既済):変化なし
・アプリF(有料既済):変化なしだが売上げには影響があった
・アプリG(有料既済):変化なし
・ゲームH(有料新未):ゼロ→400程度
・ゲームI(有料既未):?→100程度(元を計測できず)
・アプリJ(有料既未、Steam予定あり):ゼロ→70
・アプリK(有料既未、Steam予定あり):変化なし
・アプリL(既未):変化なし
・アプリM(既未):ほぼゼロ→40程度
・アプリN(既未):ほぼゼロ→50程度

もともと知名度の高いゲームが少ないためか、リリース済・未リリース作品間で目立った傾向の違いは出なかった。しかし、人が話題にするビジュアルやコンセプトを持っているゲームは言及が多くなる傾向があり、ILE の放送はもともとゲームが持っている魅力を増幅する効果があったと言えそうだ。
また、初出作品は明確に言及が多くなる傾向があった。

また、Twitter 言及数が少ないゲームの中には一般的な語の組み合わせで検索しづらい、記憶に残り辛いタイトルもあり、Twitter 検索向けの略称をつけておくのも戦術としてありかもしれない、と思えた。

結論:INDIE Live Expoは宣伝効果があるので出した方が良い。

最初にも書いたが、結論としては宣伝効果があるのは間違いなく、参加は無料なので余裕があれば出した方が良い、という話になる。

一番短い Waves 枠でも無料アプリで5タイトルの平均が300 DL。上が平均を押し上げているとしても、100DL~200 DL 程度を期待できそうだが、これは有名メディアに単独掲載される程度の宣伝効果(参考までに大手メディアの単独掲載で100 DL ~と言われている)。
また、Steam などのゲームはウィッシュリスト入りも期待できる。

今回19タイトルについて回答を得て「まったく影響がなかった」という回答が2件あったものの、Waves 枠であっても、初出、ビジュアルやコンセプトに優れるなどゲームの魅力が優れていれば、それなり以上の成果が得られることも実証されている。

Premiere枠に入るには

ILE に参加するのであれば、Waves 枠より Picks 枠、Picks より Premiere 枠に取り上げられたいのが人情というもの。
Premiere 枠に関して、共催のリュウズオフィスの小沼さんが Clubhouse で選出条件を話していたのでここに許諾を受けた上で記載しておく。

Premiere 枠の選出に関しては大前提として良いゲームの紹介をしたいと考えているので、品質が一番重要になるという。
その上で、ニュース性が重視されており、すでに情報が出ているゲームはPremiere にしづらい。よって、ILE 上で初発表になることが選出で有利に働く。
それらの条件を満たした上でイベントのスポンサーのゲームを選出することはあり得るという。とはいえ、この記事を見るのはスポンサード困難な小規模開発者が主体だろう。
小規模開発者は、ゲームを磨いて初発表の場としてILEを利用したり、すでに知名度があるゲームの大規模アップデート情報をもってPremiere枠入りに賭けることになりそうだ。

なお、今回のデータには純粋な選出枠とスポンサーのゲーム双方の Premiere 枠データがあるが、いずれも成果を出せている。

WEBイベントでも前日準備は必要

TGS などゲームイベントに出展するとき、アプリDL などの URL を書いたビラを作るだろう。データの傾向からは、ウェブイベントでもそれと同じような準備が必要になることがわかった。

まず、開発者はイベントでゲームが紹介される直前までに、自分のゲームを紹介するツイートの準備をした方が良い。
開発者が Twitter で ILE に絡めてゲームを紹介するツイートをしたとき、フォロワー1,000程度の開発者7名が10,000~15,000程度のインプレッションを獲得。平常時よりも ILE の影響でかなり大きな数値になったと回答がある(数字をとったがわからない、は3名)。

また、放送時に自己の作品を紹介するツイートをしていない開発者は、後日ツイートしても全員が効果を得られず、通常とあまり変わらないインプレッション数になっていた。
番組でゲームが紹介された直後に「INDIE Live Expo 紹介された『ゲーム名』は××なゲームです、公式サイト/予約はこちら」というようなツイートをしておくと宣伝効果をあげられそうだ。
ただし、新規情報などがある場合は、放送での発表前にツイートしてしまうとイベントの規則違反に繋がる可能性があるので、気をつけて欲しい。

また、今回の調査でとくにアプリ開発者に多く見えた傾向が「充分な準備をせずに出展している」だった。Steam ゲームなどは発表と同時にページをオープンし、ウィッシュリスト追加につなげている。
しかし、アプリ開発者はアプリストアの予約受付もしていないし、公式ページにも情報登録する場所がない、公式ページすらないケースが多く見られた。締め切り時期とストアの構造上かなり難しいが、ILE での情報公開にあわせてストアURL を公開するなどの準備もあった方が良さそうだ。

さらに、結果を出せているゲームはプレスリリースを出しているケースもある。充分なニュース性が確保されている(とくにリリースや事前登録開始をあわせるなら)なら、発表と同時にプレスリリースまでやっていいと思う。
また、プレスリリースを出すとしても情報公開時刻は厳密にしないとILEの規則に違反する可能性があるので、動画での発表後になるように気をつけて欲しい(大事なことなので2回言いました)。

INDIE Live Expo 成果を出せるゲーム条件は「初出・動画映え・事前準備」の3つ

ILE のデータと実際の放送内容を比較してみていると、このイベントで大きな成果が出せるゲームの傾向が見えてきた。
身もふたもない話だが、ビジュアルに優れ、コンセプトの話題性に優れるゲームが優位に立つ。また、「ILE 時に応募したテキストをそのまま読まれたので、文章を練り込んでおけば良かった」という感想も開発者から届いているので、面白いコンセプトを文章にすることも重要だ。 

動画のイベントであるから、動画で魅力をうまくアピールしているものが強い。ダウンロード数も強いし、話題にもなりやすい。また、ゲームのコンセプトが明快な文字で示される傾向もあった。
一方、動画映えしづらい文字主体のゲーム、児童向けの絵柄に関しては低めの数字が出る傾向があり、データ内で「影響がなかった」とするゲームもここに含まれている。

サンプルは少ないが Premiere 枠、非 Premiere 枠ともに初出が ILE になるゲームは言及数が多くなる傾向にある。
初出が強いのはどんなイベントでも同じだが、小さなイベントで初出情報を出すぐらいなら、ILE に持っていって Premiere 枠を目指すのも有りだと思う。

・情報開示の時期が近ければ初出を INDIE Live Expo に合わせる
・PR 動画は気合を入れて作る
・公式 Twitter、Steamのページやアプリストアの予約受付をオープンし、イベント時に興味を持ってくれた人を即座に予約につなげる

というのが、ILE と付き合うときに重要になりそうだ。

ILE にお願いしたいことも

本記事をまとめつつ ILE の放送を確認している中で、解決して欲しい課題として、動画で紹介したゲームに即座にアクセスしづらい、という問題を感じた。

この点に関しては第1回から第2回になる間で公式ページが整理されて改善されているのだが、すごく欲を言うなら動画を見ながら検索せずともポチポチと気になるゲームを事前登録したり、ウィッシュリストに放り込んだりできる仕組みはぜひ用意していただきたい。
(Youtube上でやると規約に引っかかる可能性があるので、外部サイトでとか)

とくにアプリはスマホで動画を見て、リンクがあればそのままDLに繋がるので何かしらよりアクセス性が上がるようにして欲しい。
これをするだけで、オンラインイベントの効果はだいぶ上がる気がするのだが……内部にいないのでわからないのだが、やっぱり難しいのだろうか。

以上。

追加のデータ提供の希望、その他何かあればゲームキャスト(@gamecast_blog)までご連絡を。

げーむきゃすと は あなた を みて、「さいごまで よんでくれて うれしい」と かたった。